11.【幕間】 荘厳な神殿
【幕間】をずっと「まくま」と読んでました…。(「まくあい」でした)
砂漠の国の夜。かつての神都にある大神殿は、荘厳な空気に包まれていた。
誰もいない神殿で、大神官ヴァルタザールは祭壇の前にひざまずく。
「ミケル様、昨日はお力添え頂き、誠に感謝いたします」
祭壇の上には神々しい光をまとった三毛猫がちょこんと鎮座していた。
女神の呪いで暴走した少女ステラを救うことが出来たのは、この猫神ミケルの助力あってこそだった。
まだ復活したばかりで神力の弱いミケルは、持てる力のほぼ全てを使い切ってしまったらしい。
『僕の力だけじゃない。あの娘は自力で殺戮魔法を食い止めていたよ。痣ができるまで自分を殴るなんて、ステラはすごいね。綺麗に治ってよかった』
「はい。聖女シアの治癒魔法のおかげです。二人が姉妹だと知って、驚きました」
猫神の発言に、大神官は深く頭を下げながら言葉を返す。
こうして神との対話が可能になったのは、つい昨日のことだった。
姉が倒れているとシアが血相を変えて助けを求めてきて、猫神がステラの呪いを解き、治療をして一晩が経過し、現在ステラはすっかり元気になっていた。
無事に回復して良かったとヴァルタザールは胸をなでおろすばかりだ。
『姉妹だと知ったうえで女神ヘレネは聖女を悪用していたんだ。許せないよ。またすぐに何かを仕掛けてくるだろうね。次は僕が出て行って決着をつけなければ』
猫神は不機嫌そうに、尻尾を左右にぱたんぱたんと振って祭壇の台座を叩く。
「しかし、ミケル様のお力はまだご回復されていらっしゃらないのでは……」
『平気だよ。大聖女の心からの祈りさえあれば、僕はいくらでも戦える』
金色の瞳を細めるミケルに、大神官はそれ以上何も言えずに押し黙った。
『それで、君はいつまで彼女に本当のことを黙っているつもりだい?』
「女神の脅威を排除してから、聖女に全てを話す所存でございます」
すでに、聖女の擁立と追放が計画されたものだった事は説明している。
女神の力を抑え込むために聖王国で5年間結界を張り、そのあと神都に戻って猫神復活の祈りを捧げてもらっていた、と。
ずっと騙していたと教えても、シアは怒って責め立てたりはしなかった。
必要なことだったのなら構いません、と静かに答えたのみだ。
彼女を幼い頃から囲い込み、聖王国での冷遇を黙認し、砂漠の国に連れて来てまで強制労働をさせた罪は非常に重く、許されざるものだ。
自分こそが糾弾されて然るべきだとヴァルタザールは考えている。
(シアが私の真実を知れば……さらに失望するのであろうな)
青い瞳を伏せて眉を寄せる大神官に、ミケルの軽い声が聞こえてきた。
『早く告白しちゃいなよ~シアが好きだって』
「は? 違いますよ。何故そのような話になるのですかっ!」
『またまた~照れちゃって』
「それを言うなら、猫神様こそ大聖女様に告白すべきでは!?」
『あー。今はちょっと都合が悪いから、またそのうちね?』
神と人との気の抜けたやり取りで、荘厳な空気が台無しになるのだった。
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