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10.猫と姉妹と不器用な人




食事のあと、わたしは妹のシアの部屋で休ませてもらっていた。

シアが午後のお祈りに行き一人になったので、運動がてらに城内を歩いてみる。


人間に戻り、改めて砂漠の国を見てみると新たな発見があったわ。

外は陽射しがきつくて暑いけど、日陰はひんやりして涼しい。

妖精は暑さ寒さも感じないし、口の中に砂が入ることもなかったから新鮮ね。


窓の外を見ると、半年の間に建物が増えて街らしくなっていた。

シアの祈りと信徒のみんなの頑張りのおかげでここまで復興できたのよね。

わたしにも、何かお手伝いができるといいな。


「にゃー!」

「あっ。猫ちゃん……じゃなくて猫神様。昨日はどうもお世話になりました。危ないところを救っていただき、誠に感謝しております」


廊下の奥から三毛猫が駆け寄ってきたので、深々と頭を下げる。

わたしが助かったのは猫神様のおかげだと聞かされていたの。

大神官は猫神様と会話できるらしいわ。なんかずるい、と思いつつ頭を上げる。


「……ニャ」

ん? お礼を言ったつもりだけど何か傷付いたような顔をしてるわね。

耳もヒゲも尻尾も心なしかしょんぼりと下がっているわ。

他人行儀なのがダメだったのかな。


わたしは床にひざをつき、三毛猫を抱き上げた。よく見るとなんか痩せた?


「妖精だった時に、愚痴を聞いてくれてありがとう。ひとりで心細かったからすごく嬉しかった。貴方がいてくれたから、わたし、頑張れたのよ」


柔らかな毛並みを感じながら、ぎゅっと抱きしめる。頭もなでなでしておこう。


「にゃにゃん!?」

猫神様は驚いた声を上げ、するりとわたしの腕から抜け出して走り去った。


に、逃げられた……っ!

不敬すぎて怒ったわけじゃないわよね。きっと照れ屋さんなのよ!

猫も嫌がるぐらい汗臭いとかだったり……もう1回お風呂入ろう。うん。


 ◇ ◇ ◇


夜になった。シアの部屋に寝台を運んでもらったから、今夜はここでお泊りよ。

そのうちわたし用の個室も用意してくれるって。やったね!

ますます労働の必要性を感じたわ。タダ飯を食べるわけにはいかないもの。


6年ぶりの再会を果たしたわたしとシアは、雑談で盛り上がっていた。

シアの部屋に大切そうに飾ってある、2つのぬいぐるみの話題になる。


「ふ~ん。こっちが大神官特製の、猫のぬいぐるみね!」

「豚だよ?」

シアが指摘してくるけど、どう見ても猫を作ろうとして失敗した感じよ。

隣のちゃんとした猫のぬいぐるみと比較すると差がすごい。


大神官、ごまかすために豚と言い張るつもりね。頭がいいのか何なのか。

嫌味なぐらい何でも器用にこなせそうな人だけど、どこか不器用なのよ。


――あの時だって、もっと言葉を選べばよかったのに。


大神官いわく『我々の計画に聖女は不可欠な存在であった。騙す形になって申し訳ないが、必要なことだったのだ。謝罪はするが私は後悔しておらぬ』ですって。


もう少しシアの気持ちも考えてあげなさいよ、不器用大神官!

そこはありがとう、って感謝して泣いて土下座すべき。

わたしに彼を責める権利はないけど、シアにはその権利があるわ。


「ねえシア。代わりに大神官を殴ってきてあげようか?」

「えっ。何言ってるの。やめてお姉ちゃん」

引き気味のシアに説得されてしまった。冗談のつもりだったんだけど……。



それから眠りにつくまで、色んな事を話した。

故郷の話だったり、両親の話だったり、辛いけど戦争の話だったり。


わたしとはぐれてから、シアは森の中で独りぼっちで泣いていたらしい。

教団の人たちが見つけてくれて本当に感謝しかないわ。あと大神官にも、一応。


わたしの方は、シアを探して焼けた村を歩き回っていた。

疲労と絶望と空腹で倒れたわたしは、不思議な猫に救われたの。


「その猫って、猫神さまだったの?」

「う~ん。雰囲気は似てるけど、ちょっと違う気がする。背中の模様とか」

「……家族かな?」


疑問は尽きないけど今は考えないでおこう。きっといつか真実がわかるはずよね。


これからは笑顔で暮らして幸せになろうね、と二人で笑い合って眠りにつく。

おやすみなさい、シア。どうかよい夢を。




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