再会の地
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フェリスが眠りについた頃村は少々騒がしくなっていた。
「おい!あれはイービーだろ?早く追い出せよ」
そんな声が村の至るところから聞こえてくる。マーシー村では少し前の事、獣耳族に襲撃されていた。その時の被害は今もまだ色濃く残っていた。バルルカンなどの大きな都市として発展していれば兵も常駐されているのだが小さな村ではそういうわけにもいかない。そのことから獣耳族に対して村人は大きな嫌悪感を抱いていた。アイリスたちは後天族と言われこの世界では新参者である。他種族より力が弱いかわりに識字率であったりの地頭が良いとされている。だが守る力が小さいということで襲撃が各地で起こっている。それは今この世界一番の問題だろう。
「まぁまぁ、明日には旅立つんじゃ暫し我慢しくれんかのう?」
一言マーシーが言うと。「マーシーさんが言うなら」と苦虫を噛んだような顔で応じる。これにはアイリスもホッと肩を撫で下ろす。仮にも命を救ってくれた恩人だ。どうにもアイリスには悪い人には見えなかった。
(いや、悪い獣には、、?)
とりあえずアイリスは家へと戻った。明日はフェリスに道案内をしてあげようと考えていたのだ。
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フェリスが目を覚ますと香ばしいいい匂いがしてきた。どうやらアイリスがご飯を作ってくれているみたいだ。空腹なフェリスはその匂いに誘われるままに足を動かす。
「ふむ、これはいい匂いじゃな。お主料理ができるのか。」
アイリスの肩越しにフェリスは顔を出す。
「うわぁあ、ちょ、な、何するんですか!?」
「そ、そんなびっくりせんでもよいのではないかのう」
アイリスは謝りながらそれを細い目でツンとしたフェリスが見つめる。
「よかったら、これ食べてください!」
それはこの世界にきて初めての食事だった。朝食としてはちょっと重めであったがフェリスはそれをぺろりとたいらげた。その後支度を終えると家を後にする。村に出たのは初めてだが繁栄とは逆行しているであろう村の姿を見てフェリスは首を傾げる。心なしか村人たちから受けたものは好意でもなんでもない敵意であった。
(なんじゃか知らんけれど居心地わるいのぅ)
すると後ろから元気な声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっとー待ってくださいよフェリスさん!」
その声の主はアイリスであった。弁当でも作ってくれたのかとよだれを隠すフェリス。しかしその手には弁当ではなく手綱であった。
「ちょっとー!私も行きますよー!」
なんとアイリスもついていくと言うのだ。
「なぬ!お主もいくのか?」
満面の笑みでアイリスは「はい!」と答える。
(ふむ、確かに道案内として連れて行く手はあるのぅ)
フェリスは黙って頷くと歩みを進めた。
「いや、馬車はそっちじゃないですよー!」
「なぬ!そうじゃったのか!早よ言わんか小童!」
フェリスは少し頬を赤らめた。それは恥ずかしさからなのかまた、これからの旅路への高揚感なのか。フェリスはもう知っていた。
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「はぁ~どこに行ったのですか~!」
シャルルは怯えていた。ただでさえ人見知りをする性格だ。それが知ってる人は1人もいない。全く知らない土地に1人。シャルル以外でも怯える人はいるだろう。シャルルは死にたくなっていた。
「これはどうしましょうかです。」
(フェリスさま、、)
*
「おい、妖狐!ウチはなぁ自分より強い奴にしかしたがわねぇんだよ!」
「ふむ、煩い小童よのぅ」
「ちょ、ちょっとヤルル!何でもかんでも敵視するのはいけないです!」
バーンリオが倒れた今全鬼族はフェリスの下へと下っていた。しかし力ある者。心からバーンリオに従ってはいなかった者たちはこのように喧嘩をふっかけていた。
「だってよぉシャルル、バーンリオだって実際にウチらより強いかなんてわかんないぜ?」
「ふむ、まぁよい道を外れそうな童を導いてやるのも先人の責務。じゃからなぁ」
フェリスは余裕の笑みを浮かべた。それをヤルルは気にくわないようだ。その表情には怒りが込められていた。
「バカにすんなよ。我は#単角の鬼__いっかくのき__#ヤルル。我が名はヤルル=バオック。余裕もここまでだ。妖狐。#鬼気__きき__#、#鬼神の調べ__きじんのしらべ__#!」
ヤルルの戦い方は1に拳2に拳である。その拳に粉砕できないものはない。とヤルルは自負している。そうその時までは。
「ふむ、悪くはない。まぁミケ以上バーンリオ未満。というとこかのぅ」
ヤルルの変化をした渾身の一撃を片手で防いだのだ。それだけでヤルルの心を折るのは容易かった。
「鬼気、#鬼神の咆哮__きじんのほうこう__#」
シャルルの放った一撃はフェリスの頬をかすめ一つの切り傷を作った。
「私たちはふたりでひとつ。2人で#双角の鬼__ふたかくのき__#」
先ほどまでとは打って変わってシャルルのその目は鬼そのものであった。
「ふむふむ、なるほどそういうことなら合点がいくわい。まぁバーンリオ以上妾未満というところかのぅ」
フェリスはその頬を緩ませると高鳴る鼓動のままその身を委ね変化を済ませる。
「誠意を持って。変化で迎え撃ってやるかのぅ」
その戦いを機に2人はフェリスに忠誠を誓った。
「一生をかけてフェリス様に忠誠を誓うぜ」
(ちょっと、ヤルルこんな時までちゃんとしなさいよです)
「愚妹の非礼をお詫びしますです。私たちはふたりでひとつ。どうかお側に。です」
「ふむ、小童の無礼こそ許すのが先人のつとめじゃ。妾はお主らの全てをゆるそう」
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(あぁ、フェリス様どこにいらっしゃるのですか、、です)
シャルルはひとつため息をつくと関所の方で何やら揉めているのが聞こえて来る。
「冒険者じゃないイービーだと?怪しいな」
どうやら怪しげな人が揉め事を起こしているらしい。人混みの中頑張って背伸びをして野次馬に混じるシャルル。
「ふむ、煩い小童じゃ。これから冒険者になるんじゃから今なってないのはあたりまえじゃろぅ?阿呆なのかのぅ」
(え?今の声は、、)
その声を聞いて更にシャルルは前へと進む。
「そこの付き人はマーシー村じゃないか!最近イービーに襲撃されたと聞く。騙し入れようって言うのか!」
「そ、そうです!フェリスはイービーですが私を助けてくれました!」
関所の者はその付き人の目を見て一瞬たじろいだ。しかしもう一言発そうとしたその時。
「フェリス様!!私ですシャルルです!!」
シャルルは叫んだ。久々に声を出したことで少し裏返ってしまっていたがしっかりと声は出た。
「ふむ!シャルルではないか!無事じゃったのか良かったのじゃ!」
フェリスは最高の笑顔で答えた。