未完成
ファルティカとは森に生息する上級モンスターである。そのファルティカに追われているアイリス=ベルトがいた。
「きゃぁぁぁ、こないでぇぇおねがいぃ」
アイリスは馬車に乗り隣町へ村の特産品である薬草を届けにいくところだった。「ほんっとに付いてないぃぃい」と言いつつ全力で馬車を走らせる。すると道に転がっていた石を馬車が踏み大きくバランスを崩してしまった。
「うぁぁ、っととと」
なんとか馬車を制御し、体制を立て直したのも束の間アイリスがチラッと後ろを振り向くと目の前にまでファルティカが迫ってきていた。そして突進じみた攻撃により馬車は吹き飛ばされ茂みの中へとアイリスは消えていった。
「いってってー、もうほんとについて、、いや命あるだけついてるのかも」
アイリスは少し頬を緩めるもすぐさま引き締め直し茂みから外の様子を伺った。少し離れたところにファルティカの姿は見えた。アイリスは息を殺して目を閉じる
(お願い、こっちに来ないで!)
目を開けるとファルティカの姿は無くなっていた。一息つくとアイリスは静かに立ち上がった。
「ふふ、今日はついてる!」
とりあえず状況を確認しようとあたりを見渡すアイリス。視界の端に祠があるのが見えた。
「こんなところに祠がある?旅の無事をねがっておこうかな」
祠の前でアイリスは座り、手を合わせる。そしてスッと立ち上がり馬車へと駆け寄る。なんとか薬草は無事なようだ。しかしながら馬車はと言うとアイリスには直せない程度まで壊れてしまっている。
「はぁー、今回は失敗かな~とりあえず村に歩いて戻ろうかな」
アイリスは来た道をゆっくりと引き返しはじめた。少し歩くと低級モンスターのブルーラビが走っているのが見えた。いや、走ってはいてもあれは少し様子が違う。
(あれは、にげているの?)
その答えはすぐに分かったその後ろから大きな影がひとつ。ファルティカだ。どうやらアイリスを見失ったのではなく少し離れたところでブルーラビを見つけ襲いに行ったらしい。
(ブルーラビだけならなんとかなるけどあれは、違う!)
アイリスはまた身を隠す。
「お主、何をしておるのじゃ?」
アイリスに後ろから話しかける声がした。恐る恐る振り返るとそこには赤い目が特徴的で白髪の特殊な耳をもった、、
「い、#獣耳族__イービーゾク__#ぅ!!」
アイリスは驚きのあまり叫びのような大きな声を上げた。、
(なんでこんなところにアナザーヒューマンが?はっ!しまった!)
アイリスが後ろを振り返るとファルティカはこちらに向かって歩きよってきていた。
「ふ~む、煩い小童じゃのう」
「だ、だめです!!逃げましょう!!」
(なんでこんなところにイービーいるのかはどうでもいい!逃げないと!)
焦るアイリスを尻目に獣耳族の女性はスタスタと前へと歩き出した。
「ふむ、この世界では口も聞けぬ者がはびこっているようじゃのう」
獣耳の女性はあのファルティカを前に怯むどころか前に進む気迫を見せている。しかしそれは無謀ではないのだろうか。そんなことを思いつつアイリスは少し様子を伺う。
「ふむ、先ずは小手調べじゃな。妖術ー風の悪戯」
彼女は何か言っていたが何も起こらない。
「はて?何故じゃ!妖術が使えぬのか!?」
もう一回同じことを繰り返しているがやはり何も起こらない。
「え?ちょっと何をしているの?」
ついアイリスは口を挟んだ。しかし彼女はアイリスの言葉に耳も貸さない。
「ふむふむ、まさか変化も出来ないのかのう。どれ試してみるのじゃ」
彼女はそう言うと目を閉じて両手を合わせ天高く上げた。
「我、妖狐フェリス。我が名はフェリス=アイルデート!」
その瞬間彼女は、光に包まれ辺りに強風が巻き起こる。アイリスは眩しくてつい目を瞑ってしまう。なんとか目を開けるとそこにはショートだった彼女が長い綺麗な髪を携えていた。
「ふむ、変化はできるようじゃな。あまりこの姿は好かん」
ファルティカは足を止め、こちらを伺っている。いや、彼女を見ているようであった。
「しかしやはり妖術は使えないみたいじゃな。」
先ほどから言っているヨウジュツとはなんなんだろうか。とりあえず今がチャンスなのだろう。
「しかたない、#火の玉__ファイヤーボール__#!」
下級魔法だが足止めくらいはできるだろう。
(そのうちに逃げよう)
アイリスが彼女の方を見ると何やら訝しげな目を自分に向けていた。すると彼女はファルティカをもう一度見据えた。
「あれは、こうやるのか?ファイヤーボール!」
彼女は下級魔法火の玉を打った。はずなのだが。
「な、なに?それ、、」
火の玉はファルティカよりも大きな玉として放出されファルティカを包み込み焼き尽くした。
「ふむ、これは妖術では、ないのう、、いっ、、う、うぁぁ」
そう言うと彼女は頭痛に襲われたのか頭を抱え倒れ込んだ。
「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?」
*
「な、なんですか!?ここは、、です!?」
シャルルは大きな声を上げ目を丸くした。いや、ヤルルもヴェンゲートも同じである。
「ふむ、おどろくじゃろ?妾も最初見たときは言葉を失ったほどじゃ」
圧倒的な存在感を持つ空間にポツンと4人と2人が立つその異様な光景は瞬時に皆の目に焼き付く。
「フェリス様、お待ちしておりました」
ミルンが笑顔で話しかける。どこか身体に心に直接語りかけてくるようなそんな気がした。そして何より温かく心地の良い声であった。
「これからあなた方の世界、#妖魔の世界__ファンストワール__#から#夜明けの世界__アドレンズワール__#へとお連れいたします。残念ですが皆様を同じ場所へお連れすることはできません。しかし安心してください同じ世界なので」
そう言うとミルンは笑みを浮かべた。どうやらフェリスたちがいた世界のことをミルンたちはファンストワールと呼んでいるらしい。それに同じ場所には連れて行けないともいっていた。だがいまは気にしていてはしかたないとフェリスはあまり気にしてはいないらしい。それよりもフェリスは胸は異常な高鳴りを覚えている。そうこれからフェリス達はファンストワールではまだ誰も踏み入れてないであろう新世界に赴くのだ。そんな事はとうに右から左へと抜けていた。
(こんなのははじめてじゃ、この妾がうわついておるのじゃ)
「それでは、皆さんに我の加護があらんことを」
そうミルンが告げると笑みを浮かべた。その瞬間フェリス達は身体が浮いていくような感覚がした。そのまま気がつくと森の中にフェリスは立っていた。
「ふむ、どうやらここが、、なんじゃったかな?あどれなりんわーる?まぁ良い!!アドなんちゃらかんちゃらじゃな!!」
意気揚々と歩みを進めるフェリス。その周りにはやはり3人の姿はない。
「なんじゃ?さわがしいのぉ」
フェリスの耳は自然ではないざわめきを感じ取った。とりあえず向かってみることにする。そのざわめきに近づくと1人の女性の姿があった。
「お主、何をしておるのじゃ?」
どうやら女性の不意を突いたようで驚き大声を上げている。すると彼女は後ろを振り返る。その視線の先には周りの木々に並ぼうとするくらい大きな獣の姿が見えた。
(ふふ、完全なる敵意そして血がたぎりおるのじゃ)
フェリスは無意識にその足を獣耳に向けていた。目の前に立つとその大きさは壁のようにも思えた。
「先ずは、風の悪戯!」
しかし、かまいたちは起こらない。何度か試しに打ってみるもやはり妖術が使えなくなっている。
(何故じゃ!妖術がつかえぬというのか?それなら)
フェリスは妖術が使えないことに違和感を覚えつつも#『変化』__へんげ__#をしてみることにした。変化とは元の世界で一部の者に天から与えられた力と言えるであろう。姿を変え妖力もありとあらゆる力が大幅に底上げされる。大体のものは修行の末に与えられるのだが、フェリスは世に生を受けた時に与えられていた。
(しかしあまり好かんのじゃ。なにか別の何かになるような気がして)
フェリスは滅多にこの力を使わない今までに数度。最近で言うと龍人族の長ククレ=アールセンスとの戦闘だろう。
「我、妖狐フェリス。我が名はフェリス=アイルデート!」
フェリスはもう一度妖術を使ってみるも結果は同じであった。変化を持っても妖術は使えない。ということは#この世界__アドレンズワール__#に妖術というもの自体が無いということなのだろうかそんなことを考え込んでいると後ろから気配を感じた。今まで感じたことのない気配であった。
「#火の玉__ファイヤーボール__#」
すると火の塊のような物が獣に向かって放出され足元で小さな爆発が起こった。
(なんじゃあれは、、妖術のようなものじゃが見たことがない。じゃが、あれなら使えるというのか?)
今見たものを見様見真似で使ってみることにした。右手を開き前へと突き出す。そして術語のようなものを。
「火の玉!」
知らないはずの知識。知らないはずの力のはず。なのに何故か今まで自分が使ってたように思える。
(この力を妾は、行使できるのじゃ)
フェリスは久々に高揚感を覚え今のこの瞬間を最大限に楽しんでいた。フェリスの放った術は大きな炎の塊となり獣を焼き尽くしていた。その時頭の内から鈍器で叩かれたような頭痛にフェリスは襲われた。そしてそのまま倒れ込んでしまう。
変化はもう解かれていた。