【短編小説1話完結】弱い私を救ってくれた人
私は心臓が悪い。
生まれつき心臓が悪い。
命に別状はないが、激しい運動は出来ない。
私は、山本夏澄。小学1年生。
小学1年生と言えば遊び盛りの年頃だ。
いつものように学校で、友達たちが休憩時間にお外で遊んでいる様子を、静かに教室の窓から眺めるだけだった。
缶けり。おにごっこ。こおり鬼。だるまさんが転んだ。
楽しそうに友達が遊んでいる様子を、夏澄はうらやましそうにただただ毎日眺める日々だった。
二度ほど仲間に入れてと、夏澄が言ったことがあったが、
激しい運動の出来ない彼女は、おにごっこでは走れない。缶けりも走れない。ダルマさんが転んだも走れない。
遊びでは、夏澄が仲間に入るとゲームがつまらなくなるという総意で、友達たちからは、
「走れない奴は、仲間には入っちゃだめ」
と二回目から言われる始末。
そうだよね。
走れない子は、仲間に入れないんだよね。
そんなこんなで今日も教室の窓から、
「いいなぁ……私も走れるようになりたいなぁ……」
そんなことを呟く夏澄。
すると夏澄の後ろの席から、
「お前なんでいつも、座ってぼーっと外ばっかり眺めてんの?」
渡邊祐樹君。一年生同級の男の子が話かけてきた。
「だって私もみんなみたいにお外で走って遊びたいもん」
「走って遊べばいいじゃん」
「簡単に言わないで! 私の体弱いの祐樹くんもわかるでしょ」
「あ、そっか。まぁあれだ、みんなと遊べればいいんだよな! まぁ俺にまかせとけって」
そう祐樹が言って、さらに続ける。
「次の休憩時間にさ、一緒に遊ぼうぜ! 俺にいい考えがある」
「え!? 無理だよ私走れないし。混ざっても邪魔になるだけだよ、それにもう私友達とか全然いないし」
夏澄が悲しそうな表情で言う。
「何言ってんだよ、俺とお前もう友達じゃんか! 同じクラスなんだから勝手に非友達認定するなよなっ!」
祐樹がそう言うと、夏澄は驚きの表情で、
「え!? 友達? 嬉しい……」
夏澄は友達と言われ、嬉しい気持ちになる。
「ああ、友達だ! だから次の昼休みは、外のグランドに来いよな! さすがに歩くことは出来るよなっ!」
「それは出来る!」
そう元気に夏澄は答え、次のお昼休みを待った。
そしてお昼休み。
るんるん気分で、外のグランドに出た夏澄。
まだ、なぜか祐樹の姿はない。
だが、先に勇気を振り絞って、集まっていた同級生に声をかけた!
「仲間にいれて~!」
男子のボス的存在の拓也が言った。
「は!? 夏澄はくんなよっ! 夏澄は黙って、教室で座ってろよ。うごけねーんだから!」
ボス的存在の拓也が言うと、口ぐちに子分的存在の一平と颯太が、
「そーだ! そーだ! 動けないやつはいらねーんだよ。 そーだ、そーだ、メロンソーダ、なんちゃって」
「そーだ! そーだ! かしすそーだ! 動けない奴は座ってねてろや」
そんなこと言う三人。
せっかく仲間に入れると思ったのに。
だが言いだしっぺは、祐樹だ。
祐樹が来い言ったから、来たのだ。
その祐樹は今まだここにいないが……
悲しい、今にも泣きだしそうな表情になる夏澄。
そして夏澄が、少し目頭を涙で濡らしたまま
「わかったよ……声かけてごめんね……」
悲しい声色で、三人にそういった。
その時だった。
「よっ! 拓也、颯太、一平! お!? 夏澄もいるじゃねーかあそぼーぜ!」
祐樹だった。
祐樹が颯爽と現れた。
「祐樹くん、いいの私、教室でおとなしく座ってるから」
夏澄がそう言って祐樹の元から背を向けて帰ろうとした時、
「待てよ!」
祐樹が夏澄の手をとり、呼び戻す。
その手を握った夏澄は少しドキドキと胸が高鳴る。
「さっきあそぼーぜって言っただろ! だから一緒に遊ぼう!」
するとボスの拓也が、
「祐樹もわかってるだろ!そいつはいるだけで迷惑になるし、じゃまになるし、俺らのスピードにはついてこれないよ」
一平が、
「ソーダ、ソーダ、ブルーソーダ、じゃまだからいらんねん!」
颯太が、
「本当走れないやついらなーい」
祐樹の前でもそんなことを言う。
すると祐樹が、
「べつに走れなくてもいいじゃねーか! お前らも仲間外れにされたら嫌だろ! 人の気持ちもっと考えろよな」
拓也がうろたえた顔で、
「じゃあ、どうやって遊ぶんだよ」
「俺にいい考えがある。走ることが遊びの全てじゃない。みんなが遊べるいい競技を俺は考えた」
「なんだよ! 言ってみろ」
「ゾンビ鬼だよ! ゾンビ鬼。俺が考えた遊び」
そんなことを言う祐樹に、祐樹以外の四人は興味深い表情で、
「いいか。まず全員目をつぶれ。俺が鬼を決める。俺が手を触ったやつがまずは鬼と言われるゾンビ。次に30秒間隠れるか逃げたりしろ。そして30秒たったらゲームスタート。そして、みんなゾンビのふりして近づいたり逃げたりしろ、絶対に走るな! 競歩な! 競歩! 両足を地面から離した時点で失格な! で! 鬼のゾンビの人はゾンビに食われるジェスチャーダメージを受けたら、そいつがゾンビで、また目をつむって20秒後ゾンビが交代で再スタート。その繰り返し! OK?」
すると拓也が、
「なんだよ! はしらねーのかよ 全然おもしろくねーじゃん」
「違う。このゾンビ鬼はゾンビであることが誰だかわからない状態で、その緊張感とゾンビ自身を嗜むゲームなんだ。何事も嗜みだ! これなら夏澄もできるだろ!」
すると、夏澄が、
「うん! 頑張ってやってみる!」
そして、ゾンビ鬼が始まった。
ゾンビ鬼は意外にもけっこう盛り上がった。
夏澄がゾンビスタートでボスの拓也に近づく。
だが、拓也は夏澄がゾンビであることを知らない。
拓也もゾンビのふりをして夏澄に応戦するが。
ゾンビが誰であることは本人しかわからない。
そして、夏澄が拓也にダメージを与えるジェスチャーをする。
拓也が次ゾンビとなり、そしてまた目をつむって夏澄はその間に競歩で逃げて再スタート。
そしてその後もその繰り返しが行われ……
再び夏澄が鬼の番。
祐樹に近づく。
本当に体を密着させるくらいまで近づき、
「ぐあああああ、ゾンビだぞおおおおおお、食べちゃうぞおおおおお」
なんてことを言いながら、夏澄が祐樹に抱きついた。
「おい、やめろよ、抱きつくなって!」
「あ、ごめんごめんつい……」
祐樹に抱きついて、体温感じる夏澄。
なんだろう。
心地よい気分。
ゾンビを装ってずっとこうしていたい。
夏澄はそう思った。
二人の耐熱が、なんだか暖かなぬくもりを感じあった。
その後休憩時間いっぱいまで、夏澄と祐樹と3人は楽しく遊んだ。
夏澄にとっては幸せなひと時だった。
友達と遊んでいる。
友達と仲良く遊んでいる。
祐樹くんのおかげで。
楽しい。
これが、外遊びなんだ。
ありがとう。
祐樹くん。
仲間に入れてくれて。
そう凄く感謝の気持ちが出てきた。
「また明日もゾンビ鬼やろうなっ!」
そう祐樹が言うと、
「あ、うん…………」
何故か楽しいひと時の後とは思えない悲しい表情で彼女が答えた。
そして、翌日。
学校の教室で。
「突然のことだが、山本夏澄さんが転校することになった」
学校の先生がみんなの前でそういった。
本当は突然ではない。
もっと前から、決まっていたことだが、さよならを言いたくなくて、言いだせなかった結果、突然の別れの日を迎えることとなった。
当日は、夏澄の姿は学校にはなかった。
もうすでに次の転校先の大分へ向かっていたからだ。
とそこで、先生が、
「夏澄さんから手紙を預かっている。読みます」
手紙。
「さよならと面と向かってみんなの前で、言うのは嫌だし、泣いちゃうかもしれないから、あえて手紙でさよならを言う方法をとったことをみんな許してください。
生まれつき私は心臓が弱くて、今回、入院しながら登校できる受け入れ治療先という意味で大分に転校することを選ばざる追えなかった感じです。
私は、この学校で感謝したい人がいます。とくに感謝したいその人は、
私が教室で一人で窓からみんな遊ぶ姿を眺めていると、声をかけてくれました。
心臓の悪い私を友達だって言ってくれました。本当にうれしかったです。
最後に一度だけ遊べたゾンビ鬼。最高の思い出でした。
ゾンビ鬼は大分でも紹介して遊ぼうと思います。
そんな最高の思い出を作ってくれた友達。
本当にありがとう。本当に本当にありがとう!」
そんな手紙を読みあげた先生が、
「おい! 祐樹! 起きろ! 寝るな! せっかく夏澄さんの手紙読んだんだからっ!」
「ふぁ~~~~夏澄! あっそぼうぜーーー!」
机で突っ伏して寝ていた、祐樹が寝ぼけ眼でそう言った。
えーっと、僕の実話です。実話を少しアレンジしたお話です。
昔、運動があまり得意でない友達がいて、運動が出来る友達は仲間外れにしようとしていましたが、どうしたらその運動ができない友達と仲良くあそべるかなぁと、考え、当時友達が持っていたホラーゲームでプレイステーションのダークメサイヤというゾンビみたいな融合体が出てきてそれから逃げるだけというゲームがあり、それをヒントに「ゾンビ鬼」ならぬ「ダークメサイヤごっこ」というのを考案しました。その運動できない子は転校していなくなってしまいましたが、今もきっとこのダークメサイヤごっこはおぼえているでしょう(笑)
感想お待ちしてまーす。