Chapter 4 イクサバにて
私は砂漠を歩いている。
なぜ歩いているのかわからない。
いや、わかっている。わたしは呼ばれた。四年ぶりの、懐かしい声で呼ばれた。
カミール「分かり合えるから、いつまでも、どこまでも、この声が届く」
ああ。
いつまでも、どこまでも
その声だけが、忘れずに覚えているよ。
かつてカミールが歌った歌を、私は口ずさみはじめた。まさか砂の海を歩く日が来るとは、流石に思わなかった。皮肉にもほどがある。
歩く。
これは、私が罪をあがなう過程だ。
歩く。
歩く。
糧を食う。
歩く。
眠る。
歩く。
日付を忘れる。
自分の名前を忘れる。
自分の過去を忘れる。
自分の身分を忘れる。
カミール。
この名前だけは忘れない。未だに声が聞こえているのだ。
そして見つかった。
砂漠の中心、私の刑場にて。
機能は停止したが、肌に一つの傷もない。さすが私のカミールだ。私が預けるものを、すべて大事にしてくれたのだ。
停止した直前に、瞳にのこしたメッセージがある。読み取ると
「既に過去と断ち切ったボクには、後悔などない。
唯一の後悔っていえば、多分、キムと出会っちゃったことかも
ボクは、運命を呪いながら逝きたかったのに…!
生き延びちゃったの。これって
いままでのボクは…
間違っていたんじゃないですか!
…認めない。キムも。世界も。運命も。自分も…!」
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私たちは砂漠を彷徨っている。
否、彷徨うのは私だけか。
カミールは最後まで私を許してくれなかった。やはりカミールとは分かり合えなかった。
だがその体は私の手の中にある。帰ったら処分してやる。その魂を飛ばすから安心するがいい。
プランク「そこまでだ」
帰り道を忘れた私に、最後の試練が目の前に立つ。
キム「貴様に用はない。去れ」
プランク「知ってる。が、邪悪な者はまだ裁きを受けていない。俺がここにいるのは、それを下すからな」
キム「裁きを受けていないのは、受ける必要はないからな。それとも、自分に裁きを下す立場があるとでも思った?」
私は多くを忘れ去った。私の過去を。その人の過去を。世界のことを。
だがわかっている。
目の前にいるもの。
プランクという名の代行者。
裁きの代行者。
だが、私は罪をあがなわない。
かわりに、この代行者を倒す。
しゅー
砂の弾を打ってくるプランク。その能力は、力の方向を操る程度の能力。
キム「カミール
目の前の光を消せ」
再稼働された機械が動き出す。
カミール「キムは ボクがまもる」
だが今は夜。電力不足で、やがてカミールは倒れた。
プランクが一振りの剣を握っている。
私は敗れた。が、プランクの願望は叶わない。
なぜなら、プランクに願望と言えるものはない。
プランクはまだ白紙で、この世界について知らなさすぎる。
どのような苦痛に遭っても、生き抜けるほどの力を
プランクの手の中にはない。
プランク「ここで、お前は罪を償う。この裁きさえ受ければな。」
ここは私の刑場だ。
私が、罪をあがなう場所となる。
…いや。
ここは私の刑場――のはずだった。
カミールは言った――
「キムは喜んで生きて欲しい。その心はこのまま砕け散ってはならない」
と。
故に私は死なない。カミールのためにも、死んじゃいけない。
ふと、ある人の言葉を思い出した。
「いざ絶望になれば
私のことを思い出そう」
私は、彼の名叫んだ。
キム「タリック!」