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イワシ雲

作者: 独里野人

靴ひもをギュッとしめて

流れる雲を追っていく

空に浮かんだイワシ雲

私は見上げて追っていく


空を映した水たまり

イワシはスイスイ泳いでく

鏡のようなその中へ

真似して私も飛んでみた

靴が濡れて冷たくて

けれど気づけば笑ってた


流れる雲を追ううちに

何だか心が軽くなり

水を得た魚みたいに

身体が活き活きと歩を進める

果てのない大空を

イワシはスイスイ泳いでく


泳ぐイワシを追うあまり

迷子になって泣きそうになる

独りぼっちはさみしくて

誰かの声が聴きたくなった

ポケットの中の携帯電話

表示されたその名前に

今度こそ涙がこぼれた


帰ろう


私はピタリと立ち止まる

それでもイワシは泳いでく

私の重荷を受け取って

空の果てへと泳いでく

思わず手を伸ばすけど

私の手は届かない

誰にも縛られない大空の

果てのない旅路は続く


私はそっと呟いた


ありがとう、イワシさん

迷って悩んで後悔して

いろんなものを引きずって

いろんなことに縛られて

そんなちっぽけな私のことを

あなたは連れ出してくれました

どこまでも、どこまでも


だけど、ごめんなさい

私はそろそろ帰ります

何のしがらみもなく、とても自由な大空は

とてもさみしいものでした

もっと一緒にいたいけど

私の手は届かなくて

私には、帰れる場所があるんです

だから、お別れ

けどまた会おう

下ばかり見てる私だけど

たまには空を見上げて、生きていくことにするから

だから

いつの日か、また


時間は水のようにさらさら流れて

その流れの中に私はいて

イワシのようにスイスイとはいかないけれど

それでも私は歩いていこう

そっと舌の上で転がしてみて

私はイワシに背を向けた

終わりなき旅を続けるイワシ雲と

終わりに向かって歩む私の

小さな小さな、約束事


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