月の下で幻想的な告白を
しんとした雪の日。
月明かりだけが、彼女を照らす。
吹雪もいいけど、やはり晴れた日がいいとは、彼女の言葉。
僕もそうだと思う。
雪のように白い肌、白い髪、そして、澄んだ赤い瞳。
夜の雪道で彼女に会ったら、どんな男でもふらっとなびいちゃうと思う。
僕だって、そんな綺麗な姿を見せられたら、ふらってなっちゃう。
相手が、母親でなければ、の話だけど。
「で、君はいつ、恋人を見つけるの?」
美人過ぎる母がそう尋ねる。
ついでにいうと、これで800年生きているらしいが、聞いてはいけない話だ。
僕はうっかり聞いて、しばらく氷付けにされてしまった。
あれは、生きた心地しなかったし。
「さあ? 僕が気に入った子がいたらいいんだけど、ねぇ」
「じゃあ、今すぐいけ、さあいけ」
あっという間に外に放り出された。
どうやら、母の種族は、恋をして子をもうけないといけないらしい。
それでないと、不老長寿がなされないとか。
僕はそんなのどうでもいいんだけど、母は、一人が嫌だと言っている。
そういえば、父は僕が生まれる前に事故で死んでしまったらしい。
おいおい。
どんな人かと尋ねれば。
「とっても素敵な人……私をずっと見てくれて、褒めてくれて、ずっと側にいてくれたのよ」
そういって、頬をぽっと赤らめていたっけ。
結局、外見がどうとかは教えてくれなかったが、まあ、格好良かったんだろうな。たぶん。
どちらにせよ、僕は両方の血を受け継いでいるので、いい男だとは、母の言葉。
というわけで、僕は、雪の降る駅に来ました。
人々は少なく、足早に帰って行く。
僕はそれをぼーっと眺めながら、ため息を零した。
そう簡単に恋人が見つかるわけがない。
しかも雪の降る駅。人気がなくなるこの駅で、見つかるはずはない。
そう、思っていた。
ぽっと明かりが灯るように、彼女は現れた。
「うー、さむっ。今日は雪だったっけ?」
暖かいマフラーをぎゅっと抱くように、ほうっと白い息を吐いた。
黒い髪に黒いコート。深い、夜の色をした瞳。
真っ白な母とは違う、見たことのない暖かな黒色に、僕は釘付けになった。
「でも雪がやんで良かった」
ふと彼女が空を見上げる。
「わあ、月きれい!」
彼女の言葉に従い、月を見上げる。本当に綺麗だ。
「本当に、綺麗ですね」
僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに隣にやってきた。
「そう、とっても綺麗よね! あー、携帯で撮りたかったけど、今、充電切れちゃってるんだよね」
でもと、彼女は急に僕の手を握ってきた。
暖かい手。手袋越しではあったが、彼女の暖かな体温を、確かに感じた。
「でも」
にこっと、可愛らしい笑みで彼女は続ける。
「こうして、一緒に見てくれる人が居て、嬉しいわ!」
「……僕も」
彼女に押されるかのように、僕もそう呟くと。
「ありがとう!」
元気な声で笑顔を見せてくれる彼女。
その笑顔が眩しくて、眩しくて。
「あ、あのっ!!」
僕は思い出した。
確か、亡き父が残した手帳に書いてあった一説を思い出した。
「月が綺麗ですね」
それが、女性を口説くのに良い言葉だったのだ。
と、言った後で思い出した。
それって、さっき言った言葉……しまったぁ!!
「ふふ、それ、さっきも言ったよね。本当、なんども言っちゃうくらい綺麗な月だよね」
彼女はそういって、もう一度、空を見上げた。
「えっと、そうじゃなくって……」
「なあに?」
ちょこんと首を傾げる彼女に僕は続ける。
「あなたも……いや、あなたの方が、月よりも綺麗、ですっ……」
な、ナニを言っているんだ、僕は!!
本当は、かの文豪がアイラブユーをそう訳したって話をしなくっちゃいけないのに。
出てきた言葉は、違う言葉で。
「君も、綺麗だよ……月のように綺麗。だからね」
彼女はにこっと笑って言った。
「あなたの名前、教えてくれる?」
「ぼ、僕の名はっ……」
こうして、月が綺麗な夜。
僕と彼女が出会って、淡い恋が始まった。
雪のように儚い、小さな恋が……。