王女、最先端の振り込め詐欺に引っかかってしまう
イナッカから戻った翌日、父である国王に呼び出された。
「父上、お呼びですか?」
「うむ。この剣に関して軍務大臣が話を聞きたいらしい」
それはあの男から受け取った剣だった。はて、親衛隊長に渡しておいたものがなぜ父上の手の内にあるのだろう。そしてなぜ軍務大臣が出てくるのか。
「さて殿下、この剣を手に入れた経緯を教えていただけますかな」
「妾がイナッカに出向いた時、ある男から譲り受けたものじゃ。さらに10本を新たに作成し納める約束になっておる」
「なんとこれがあと10本も!」
いつもは細い軍務大臣の目が大きく見開かれた。
「この剣には鋭利化、硬化、劣化軽減、軽量化、追撃効果、斬撃波発動などかなりの機能が付与されています。これだけでも200万マールは下らないでしょう」
「何じゃと!?」
確か1本50万マールで買ったはずなのだが、1桁間違えていたのだろうか。
「それだけではないぞ。天系5属性の力を付与できるばかりか、魔力整流機能までついておる」
「魔力せ、整流?」
「魔力にはいくつも種類がありますが、特定の魔力だけを操るというのは非常に難しいことなのです」
それは自分も知っている。人間の体内には火や水といったいくつもの属性の魔力が混在している。例えば物を燃やしたい時は、火属性の魔力を体内から取り出して炎を構築し対象物を燃やすといった具合だ。
ただ、火の魔力が必要だからといって、それだけを取り出すのはとても難しい。火だけ取り出そうとしても水や土などいくつもの魔力が混ざった状態で体の奥から出てくるのだ。必要なものを必要な分だけ出すのにはかなりの修業がいるのである。
「では、この剣を使えばそれができると?」
「ええ、素人が使いこなせるとまではいきませんが、殿下ほどの腕があればかなりの高純度で魔力精製ができるでしょう。これはこの数年の間に理論提唱された最新の技術なのですよ。各国軍事応用のため、研究の真っ最中のはずです。この剣は武器というよりも兵器と呼ぶべき代物なのです!」
「量産化できれば、1000万マール以下で作れるとは思うが、現時点ではまだそこまで到達できぬ。我が国としてみれば何としてでも製造方法を手に入れたいところであるな」
これは、困ったことになった。
「ええと、この剣の対価として右手で5を示して金額を示した場合、いくらと受け取られるかの?」
「姫殿下、まさか金額をはっきりと提示しなかったのですか?」
「そのまさかじゃ……」
なかなか便利な効果がついた剣を見つけたので自分の親衛隊に持たせようと購入したはずが、実はとんでもない思い違いをしていたようだ。これでは親衛隊の予算では到底賄えない。こんなことになるなら契約書と作っておけば良かったのだが、後悔してももう遅い。
「少なくとも500万以下はあり得ないだろうな」
ぐふっ。
「5000万か5億かのどちらかでしょうが、これには情報料も含まれていると考えるべきでしょう。11本分の金額で考えると……どちらとも考えられますな」
がはっ!
55億マールの負債を背負ったら間違いなく破産なんじゃが。お小遣い無しでは済まない。王位継承権剥奪は確定として、国外追放で済むだろうか。
「あの、妾にそんな財力は……」
「大臣、55億をどう思う?」
「今後我が国が独占的に販売できるようになるとすればそれほど高いとは思えません」
「やはりな。軍事費用として拠出することを許可しよう」
「ほえ?」
話は思わぬ方向に向かっている。
「殿下。あとは軍にお任せください。自費で払えるのであれば話は別ですけれども」
「任せる!勿論任せるのじゃ!!」
こうして、妾の破産はすんでのところで回避されたのだった。
「ただ、契約書がないのは厄介ですね。5億5000万で済むところを55億支払ってしまうことにもなりかねません」
大臣の言葉に、父上は口ひげを撫でながら考えを巡らせた。
「ふむ。最初に支払うのは5.5でいいだろう。足りなければ追加で支払えばいいだけだ。書面を作らなかったのは相手の落ち度でもあるわけだからな。特許の独占使用権を交渉する上でもいいカードとなるだろう」
「なるほど。承りました。……ところで姫殿下、その武器商人は何という名なのですか?」
「直接のやりとりは親衛隊に任せておったからのう。親衛隊長ならわかるはずなのじゃが」
そもそも、あの男が武器商人なのかも何となく違和感がある。
「刻印があるかもしれぬな。どれどれ、……ふははは、確かにあったわい」
なぜか父上はそれを見て笑い出した。
「それで何と?」
父上から手渡された剣の柄の部分にはサインのようなものが彫ってあった。
『入山』
「にゅ、にゅうざん?それとも、いりやま?」
誰なのじゃー!?
言い忘れましたが1マール=1円で考えています。
まとめ
・λの中での契約金額5万マール/本
・πの中での契約金額50万マール/本
・その他の人々の感覚5000万マール/本以上