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ギルメン、新たな仲間と討伐に向かう

「どうも。本部から来ました。クサイです」


 クサイの特徴を端的に言うとデブだった。なんか思ってたのとは違ったが、パワー系だとそういう体型になることもあるし、素早いデブもいると聞く。見た目だけで判断しないようにと俺は自分に言い聞かせた。


「とりあえず、前の隊員が残した引継書をよく読んでほしいところだが、生憎ゴブリンの討伐依頼が入っている。いきなりの出動になるけど、準備をしてくれ。装備はまだ新しいものが届いてないから前のを使ってくれ」


「はい。着替えてきます」


 彼は、これまで採集部門で仕事をしてきたので、本格的な実戦経験は期待できない。だが、ゴブリン程度なら何も問題はないだろう。採取ランクはCだったはずだ。


「準備できました」


「……なんだその恰好は」


 戦闘用の服に着替えて姿を現したクサイを見て驚いた。お腹が出すぎてジャケットのボタンが留まらず、ズボンも前のファスナーから上が開いた状態だった。ベルトとサスペンダーを駆使して辛うじて腰の位置に固定されているような感じだ。


「久々に着たんですが、サイズが合わなくなってしまって」


 つまり前回の支給からそれだけ太ったということか。何という成長速度だ。


「久々って本部で外に出てなかったのか?」


「ええ、最初の頃は出てたんですが、近ごろは内務専門でやってました」


「そうか」


 間違いなく運動不足だな。


「とりあえず装備などで下着は見えないように隠せ。特に股間な」


 クサイとすれ違った受付の女の子がまさにドン引きという表情を浮かべて一歩引いていた。至って普通の反応だと思われる。

 受付嬢も本部から若手のハンターが来るとなれば多少の期待はあっただろう。だが、その幻想は早くも崩れ去ったのだ。



   ※   ※   ※   ※   ※



「はあ、はあ、ラムダさん、少し休憩しませんか」


「仕方ないな。よしそこで一旦休憩だ」


 クサイはふうと大きく息を吐きながらその場にあった手ごろな大きさの石にドカリと座った。

 緩い坂を登っただけでこれだ。まだ夏は遠いのに汗をダラダラ流しているのを見るとこちらがいたたまれない気持ちになってくる。こいつに今一番必要なのはダイエットだな。


「水でも飲んだらどうだ?」


「生憎、水筒を持ってきていませんので」


「魔法があるだろ。【ウォーター】」


 掛け声とともに一口サイズの水玉が指先から生じた。それを大きく開けた口の中に落としてゴクリと飲み込む。これがお手軽な水分補給方法だ。冷えた水をイメージするとさらに効果的である。


「僕、水を出せないんです」


「は?」


 この程度なら学生でもできる。落第生ならあり得ることかもしれないが、クサイは有名校の卒業生だ。基本的な魔法を使うことができないとは考えもしなかった。


「得意な属性は何だ?」


「ありませんね」


「……そうか」


 フォローする言葉が見つからなかった。クサイの出身校であるエイト校は難関校である。なぜこんな状態で卒業できたのか。聞きたいことが山ほどあったが、何かが近づく音がしたので思考を中断させることになった。


「敵襲だ。おそらくゴブリン、前方から5、6、後方から2だ。クサイは後ろを頼む!」


「は、はいいいい!」


 ゴブリンごときに混乱しすぎだ。

 前方に目をやると見立てどおり5匹のゴブリンがいた。ソードが2匹、スピア、アーチャー、メイジがそれぞれ1匹ずつだ。


「【ファイアボール】、【ライトニングサンダー】!」


 ゴブリンソード2匹の間、数センチの隙間を閃光が駆け抜ける。最後方で何かの呪文を唱えていたゴブリンメイジが事切れて崩れ落ちた。続いて火球が着弾し、それより手前で弓を引いていたゴブリンアーチャーが炎上した。

 ゴブリンソードとゴブリンランスは一斉に俺に襲い掛かり、袋叩きにでもする算段だったようだが、逆にそれがこちらにとって好都合だった。剣を抜いてそのまま横に一振りするだけで3匹は絶命した。これで前方は片付いた。


 振り向くと、クサイが尻もちをついていた。腰の剣が半分まで抜かれているところを見るとうまく抜けなかったようだ。まさにゴブリンとゴブリンソードが斬りかからんとしていた。


「はっ!」


 剣に施された術式を起動して、斬撃波を飛ばし、2匹の胴を輪切りにする。これで敵は全滅だ。


「大丈夫か?」


 手を差し出して、クサイが立ち上がるのを助けてやる。クサイの手は震えていた。


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