ギルメン、出会ったこともない男の無能さを悟ってしまう
「ラムダさん、早めに装備の発注したいんですけど、まだサイズわかりませんか?」
ギルド指定の制服に身を包んだ受付嬢の1人が俺に話しかけてきた。小さい支部である当支部は、総務専門の部署がなく、受付がその仕事も担っている。このため物品の発注なども受付がまとめてやっているのだ。
「ああ、まだ1人回答が返ってきてないんだ。ごめん」
「それって、もしかしてクサイさんですか?」
「うん?よくわかったね」
「ええまあ、ちょっとほかにもありましてね」
受付嬢は、意味深な言葉を吐いて受付の方へと戻っていった。
討伐部門のハンターは装備一式がギルドから貸与される。装備はそれぞれの体型に合わせなければならないので、サイズを各人に確認する必要があるのだ。
装備はギルドの用意したものでなければならないというルールはなく、私物を使用しても構わない。ただ、多くのハンターはギルドが用意するものを使用している。これは、用意される装備がかなりグレードの高いものであるからだ。なんでも独自の調達ルートがあるらしいが、そこは流石大型ギルドといったところだろう。
俺は、メンバー配属表を貰ったその日に使い魔を通じて小隊メンバー全員に確認の連絡をした。返答期限3日で、今日がその期限日である。
「クサイ君は忙しいんだろうか。自分が持っている装備サイズを確認すればいいだけのことなんだが」
返答期限を即日にしなかったのは、新採用メンバーを配慮してのことだったが、返事が来ていないのはクサイ君だけで他のメンバーはその日には返答があった。
想定外だがまあ仕方がない。期限を設定したのは俺だしな。
「装備の方はなんとかなりますけど、彼はまだ住む場所が決まってないらしいですよ」
傍にいたガンマ君がポツリと言った。
「はあ?入寮の申請しなかったのか?」
我がギルドメンバーは「転勤族」なので各地に寮が整備してある。だが、数に限りがあり、寮の入居は申請日順で割り振られ、溢れると自分で借家などを探さなければならなくなる。
「受付から聞いたんですが、昨日申請書を出したらしいんですよ。でももう新採用メンバーの割振りまでしてしまって空きがないらしいです」
「はあ、何やってんだか」
新採用メンバーに寮の説明があるのは、我々に配属表が配布される翌日なので、転勤メンバーは1日有利になるような制度になっているのだ。クサイ君はそれを理解していなかったようだ。これはかなり面倒な仕事を作ってしまったと言えるだろう。
「申請期限が転勤初日の前日までになってますから、まだ余裕があるとでも思ったんでしょう」
「なるほどな」
表向きの申請期間は長いが、実際には1日目に転勤組、2日目に新採用組の申請が殺到して実質終了となる。
こんなことは事前に調べておけば自力でわかるし、同じ職場の先輩がアドバイスしてくれたりもするので、落とし穴を見落とすということはまずないのだ。
彼に非があるのか、単に環境に恵まれていないだけなのか分からないが、既に重大な支障が私生活にまで及んでしまっている。
「なんか出会う前から不安になってきた。ガンマ君、君のとこの新採用君と入れ替えないか?」
「お断りします。そもそも人事の了解なくできませんけどね」
クサイ君はまだその姿を見せる前から、支部メンバーからの評価を下げた状態でスタートをきることになったようである。
ちなみにクサイ君の使い魔が回答を運んできたのは、日付けが変わろうとするギリギリ手前のことだった。




