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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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亜人種

「奴隷はどんな命令にも従わなくてはならないのか?」

「えっと、それを説明するにはまず奴隷の種類を説明しなくちゃいけませんね。奴隷にはいくつかの種類があります。大まかに分けるとするなら犯罪奴隷・借財奴隷・そして捕虜奴隷の三つですね」

 犯罪奴隷とは犯罪者に身をやつし捕まってた者が落とされるもの、借財奴隷とは借金等の金の工面が出来なかったなんらかの事情によって奴隷になるというもの、そして捕虜奴隷とは戦争を行った相手の敗残兵から得ることの出来るもの。子供は親と同じ奴隷の身分を受け継いだり、貴族と奴隷が結婚をすれば奴隷から自由民へ上がれるといった例外を除きティビーは説明をした。

「このうち好きなように出来るのは犯罪奴隷と捕虜奴隷です、この二つに関して言えばどれだけ手荒な真似をしても罪に問われることはありません。捕虜奴隷を厳しく扱うのは……まぁ戦後のガス抜きのようなものと考えてもらえれば良いかと」

 よくわからない単語がたくさん出てきたが、要は奴隷には何をしても良い奴隷と何でもして良いわけではない奴隷の二種類がいるということなのだろう。

「ですが借財奴隷はその二つとは別です。借金さえ払い終えれば自由民に戻れますし、隷属の首輪にかけられるロックのレベルも三までしか許されていません」

「隷属の首輪について教えてくれ」

 ティビーはとことこと歩き、自分の執務用の机の引き出しから黒い首輪を幾つか取り出した。そのままバルパに放り投げて

「これが隷属の首輪です。持ち主の意向と奴隷の種別に従い機能を変えることが出来ます。一番優しいレベル1だと逃亡すると死ぬ程度で、一番厳しいレベル10だと主の不利になるような情報を漏らしただけで死にます」

「不利かどうかなどわかるものか? 主にとっては別に不利ではない情報で死んでしまうこともあるんじゃないか?」

「それがこの首輪の不思議なところでですね、しっかりと奴隷契約を結びその場でレベルを設定するとこの首輪は絶対に間違いを犯さないんですよ。少なくとも今まで一度も持ち主の意向に反して首輪が発動したということは報告されていません」

 バルパは隷属の首輪に魔力感知を発動させる、するとそこには微弱ながらも魔力反応があった。どうやら首輪は魔法の品(マジックアイテム)であるらしい。

 だがそれだと少しおかしな気がした、本来ならばかなりの高値がつくらしい魔法の品を最早人ではないと考えられている奴隷につけるなどということが有り得るのだろうか。奴隷を殺しその魔法の品を得られるというのなら、奴隷狩りが流行りそうなものだが。

 そう尋ねるとティビーが笑う、どうやら見当違いの質問であったらしい。

「奴隷の首輪は人間が生産可能な唯一の魔法の品なんですよ。どうやって作ってるかはわかりませんが、星光教から毎月結構な数の首輪が卸されるんです。ちなみに解体するとかなり重い罰則を加えられるので気を付けた方が良いですよ?」

「これは首輪をつければすぐに発動するのか? 例えば俺が今お前に首輪をつけたとすれば、この店は俺のものになるのだろうか?」

「じょ、冗談でもそういうこと言わないでくださいよ……そんなことしても無駄です。しっかり奴隷契約を結ばないと首輪は効果を発動することはありません。ついでに言うと首輪は基本一人に一個で、誰かから外した首輪を別の人物につけることは出来ません」

 それなら奴隷契約はどこでするのだと聞くと星光教の神殿で神の面前で行うのだという。神は平等に人を作ったとルルは言っていたが、今の話を聞いてバルパの神への信仰度は更に下がり、最早海よりも深い溝(ノヴァーシュ)レベルにまで下っている。

「ここではその三種類の奴隷を全て扱っているのか?」

「ええ、もちろんです。見たところバルパさんは冒険者をしているようですし、戦闘用に奴隷を買うのだとしたら言うことを聞かせられる犯罪奴隷か捕虜奴隷が良いでしょうね」

 奴隷を買うつもりはバルパにはない、だが彼は念のために訊ねておくことにした。

「ミリミリ族の奴隷はいるか?」

「……詳しい身体的特徴を教えてもらえますか?」

「見た目は普通の人間、魔法が老若男女全て使える。そして尻のあたりに小さな尻尾が生えている」

「あー……すいません、亜人種の奴隷でしたか。てっきり西方の遊牧民族の方かと思っていました。亜人種は今は在庫がありません。誰もが喉から手が出るほどに欲しがっているので入荷されると同時にオークションが開催されています、僕も一度は扱ってみたいものです」

 バルパは彼の言葉が自分の知るものと微妙に異なっていることに気付いた。

「亜人種? 亜人ではないのか?」

「……バルパさん、これは親切心からの警告ですけどね。亜人種のことを亜人なんて呼んだら下手したら捕まりますよ?」

「文字が一つ増えただけだろう」

「うーん……バルパさんは外国から来ていらっしゃたかたのようですね。……亜人は人ではない、ということになっているのでザガ王国じゃ亜人という呼び方はマズいんです」

 亜人は人だ、少なくともミリミリ族は人だった。バルパはそう反論しようとしたが、先ほどのティビーの発言を聞いて口をつぐんでおくことにした。

「うちの国では亜人は人の亜種ではなく魔物の亜人種ということになっているんです。ちなみに亜人種であるというだけでその身分も性別も年齢も関係なく捕虜奴隷になります。魔国と人間達の国家連合が戦争し、向こうが負けたのですから理屈としては正しいのです」

「だが捕虜とは戦いに負けた人間だろう? 亜人種の中には戦っていない人間もいるぞ?」

「ですから言ったでしょう、亜人種は人ではなく魔物なんです。魔物に年齢なんて関係はありませんよ、生まれてからすぐに何百と人を殺せるドラゴンのような存在が実際にいるのですから」

 それから話を聞くが、それはバルパにとってはどうにも要領を得ないものだった。だが要約してしまえば、人間が戦争に勝ったのだから魔物は大人しく体も物も技術も全てを渡せと言うミーナから聞いたものに酷似している内容でしかなかった。 

 バルパにとって比較的マシだと感じられたのは、奴隷を扱うティビーという人間が少なくとも亜人達に憐憫のような気持ちを抱いていることくらいだった。

「わかった、俺はもうここを出よう」

「え、ですがそれでは奴隷が……」

「そんなものは要らん。弱者から奪うのは、俺の流儀ではない」

 彼はやり場のない感情を持て余しながらくるりと踵を返す。一瞬言葉に詰まったティビーはバルパの背中を見て何を感じたのか、バルパにはわからない。

 バルパは扉を抜け、慌てて自分を見送ろうとするミランを見た。恐らく彼女は借財奴隷なのだろう、それ故にそれほど酷い扱いをされていないのだ。

 だが彼女が亜人だったなら、どうだっただろう。今ごろどこかで無理矢理言うことを聞かされ死にかけていたのではないだろうか。バルパの頭の中に、さきほどの黒い隷属の首輪を付けたミリミリ族の子供の姿が浮かんだ。

 知恵のある魔物はどういう扱いになるのか、魔物は奴隷になるのか、自分にとって恐らく重要であろう情報は聞きそびれたが、それでももう一度ティビーに話を聞きに行こうとはどうにも思えなかった。

 きっと彼は悪い人間ではないのだろう、奴隷の売買を生業にする人間が奴隷のことで顔をしかめたりするのは普通ではないだろうことはバルパにもわかる。

 だが今の自分は冷静ではないことは理解できている、下手をすれば彼を傷つけてしまうかもしれない危険があるということも。

 バルパはもう落ち着いて話を出来るようになったらまた話を聞きに来よう、そう心に決めてミランの見送りを受け再び貴族街へ出た。

 ミランはじっとバルパを見つめ、そのままゆっくりと頭を下げた。

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