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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第一巻2/25発売!!)
第一章 狩る者と狩られる者
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魔力

「あ、そうだ。そんで魔力が感知出来る魔法、所謂魔力感知(ディテクト)の魔法が使えるかって話だったな。んじゃ言うけどそんなの出来る人間なんてほんのちょぴっとしかいないぜ。ウチのギルドの先輩に一人と、それから宮廷魔導師に何人かいるだけで後はいないと思う。使えるだけで申告してない人もいるかもしれないけど……使えたら宮仕え出来る訳だから黙ってるやつなんかほとんどいないんじゃないかな? ていうかさ、あんたは自分がアタシより強いって言ってるけどさ。アタシだって中々なんだぜ? そりゃ年齢とか経験の差とかで今は負けてるかもしれないけどさ、数年後にはアタシが勝っちゃってると思うね。にしし……ってもう着いたのか。人と話してると時間が経つのって早いね、あんたもそう思わない?」

キンキンと耳に響く声でまくしたてられてゴブリンは思わず女を殺してしまいたくなった。しかしこの機会を逃せば次はないかもしれないと考えればまだ我慢できるだけの余裕は持っていた。

 出口に到着すると彼女は驚いた顔をする。

「ってここ第三階層の階段じゃないか‼ アンタ良い奴だな、ちょっと待ってて。印打ち込んでくるから」

 ゴブリンの返事も聞かずに彼女は出口目掛けて走っていってしまった、するとまるで落とし穴にでも落ちたかのように彼女の姿が見えなくなる。目の前の階段を見て少しだけ体が強張った。彼女が平気な顔で飛んでいったのだから不安に感じる必要はないとわかってはいても、今まで洞窟を出たことにない彼にとってはこれが正真正銘初めての外出ということになるのだ。 

彼は勇気を持って目に見えている階段に足をかけた、すると洞窟の側からは見えていなかった階段の全貌が明らかになる。

 かなり長い階段は何十段と続いており、それを二段飛ばしで駆けていくミーナを除いて人影は見られない。階段はピッチリと側壁により閉じられていて、その真ん中あたりに赤く光る宝石のようなものがあった。彼女はそこに触れ、チェックと口にすると忙しなくこちら側に走ってくる。

「ごめんごめん待たせて、今は迷宮に来てる物好きなんてほとんど居ないからここなら好きなだけ話せるぜ。魔物もここには来れないしな」

 自分は魔物だが、と口にしようとしてようやく気づいた。彼女は自分のことを人間だと勘違いしている。だがそれを正す必要もあるまい、その方が有益なら騙していればいいのだ。

魔物が来れないというのならどうして自分が来れたのか不思議は尽きないが、今はそれよりも知らねばならないことがたくさんある。自らの知的好奇心を満たすのは生存のための知識を蓄えてからでも遅くない。

「魔力とは別の強さ、あれはなんだ?」

「うーん……それもまたなんかの比喩か? アタシはそういう詩的なのはわかんないだけど……また魔法の品みたいなわかりやすい例えがなかったりしない?」

「お前は弱い、そして前に見た女も弱かった。だがその横の男は強い、そして俺も強い。それからこの辺りのゴブリンは弱い」

「あー……あれかもしれないな、オーラとか言われてるやつ。強い人間にはふーかくみたいなもんが出るんだってさ。私は前に勇者様を遠くに見たことがあるけど、あのときは米粒みたいに小さかったからなんも見れなかったなぁ。アタシは魔力も見れないしオーラがどうこうみたいな戦士の勘みたいなもんも無いからタッパで判断するしかないんだけどね。ていうかその話を聞いてる感じあんたってもしかして魔法剣士? だって魔力感知の魔法使えるっぽいもんな。え、それで力も強くて魔法の品も持ってんの? ……ずっこいずっこい、天が二物も三物も与えてんじゃんか‼」

 その後もなんとかかんとか言っているミーナの話を聞くとおおよそ自分が感じていたものがなんなのかはわかった。

 まず以前から感じることが出来ていたあれ、あれは相手の実力をなんとなく本能で感じとる勘のようなもの。精度もあやふやではあるが、何も感じずにいるよりよほどましだ。

 そして強者を倒し手に入れたのが魔力を感知することが出来る力。これは人にも物にも、そして他の生き物にも使えるもので、やはり魔力が多ければ多いほど良いらしい。だが例外もあって、優秀な人間は魔力が少なくとも半端なく強いということがままあるそうだ。今後は自らの見立てと魔力の多寡を合わせてしっかりと力量を見定める必要があるだろう。そしてそのための訓練も必要だ。勝てないとわかるならば勝てない勝負をする必要がなくなる、どんな手を使っても逃げれば良いのだから。

「あとはなんかあるか?」

「無論ある」

 自分を探知できたあの女はそこそこ魔力が多かった、大体の量は今も覚えているのだから同じくらいの魔力量の人間に注意しておけば自分の力がバレる可能性は減るだろう。ある程度の安心を得たなら次に気になるのは、自分が魔法を使うことが出来るかということだった。魔法というものがなんなのかは以前ならわかってはいなかったが、今では大体の見当をつけることが出来ている。魔力を使いなんらかのことをするのが魔法だ。魔力を使い火の玉や蛇を出したり、相手の魔力を感知したり、魔法の品であるかどうかを調べたりすることが出来るものの総称が魔法なのだろう。その応用性の広さから考えるに自分が知らないだけでまだまだたくさんの魔法があるのだろう。そして自分にはそれらを使うことが出来る可能性が十二分にあることを名も無きゴブリンは知っていた。

 彼は勇者スウィフトを殺したことで彼の能力の一部である魔力感知を使えるようになっている。何故そんな能力に目覚めたのか、その理屈はわからないが彼には自分が他の人間が使えない力を持っているというだけで十分であった。

 彼の魔力感知の能力は、自分の持つ魔力が目の前の女よりも、そして自分を発見した女よりも、もっと言えば自分が以前出会ってきたどんな人間たちよりも多いことを自身に伝えていた。魔力は魔法を使うための力だ、つまり自分は誰よりも魔法が使えるようになるはずだ。そう考えるのは当然の帰結である。

魔法の使い方を教えてほしい、彼がそう言うとミーナはポカンと口を開いた。

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