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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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闘争

(まだ使いこなすには大分時間がかかりそうだ……)

 意識を取り戻したバルパ自分の身に何が起きていたのか、その正確なところを把握していた。彼の魔力感知の予測は正解だった、そしてありったけの魔力を込められて使われた魔力感知が発動し彼の周囲のありとあらゆる生き物に反応してしまったのだ。そして情報過多と魔力欠乏のダブルパンチを食らい倒れてしまった、少し新たな発見に興奮しすぎてしまったのがいけなかったのだろう。

 慌てて魔力感知を、今度はしっかりと普段通りに使うが先ほどまでと変わらず周囲に魔物の影はなかった。葉の切れ目からみる日の光を見る限り、自分が気絶してから時間はあまり立っていないようだった。

 魔力は全快にはほど遠いが、数回戦闘することが出来る程度には回復している。彼は今後は気を付けて練習をしようと決めながら森を先へ先へと進んでいった。


 ずんずんと先へ進んでいる彼の魔力感知に反応があった、四匹の群れと一匹の魔物の反応が遠くにある。位置がめまぐるしく動いていることから考えるとどうやら両者は戦っているらしい。バルパは足音を殺すよう意識しながらその反応めがけて近づいていく。その最中周囲の至るところからいくつも魔力反応が出た、先ほどまで全く出ていなかったのが不思議になるほどの数である。もしかしたらさっき魔物の空白地帯が出来ていたのはヴァンスが自分を投げたからかもしれない、ヴァンスの規格外さに感謝しながら歩を進めていると視線の先に戦っている魔物の姿が見えた。

 まず見えたのは機敏に動く四つの茶色い影だ。口を半開きにして赤茶色の舌をだらりと垂らしながら走っている四匹の猿は、時々後ろに振り返り魔撃を使い追ってくる敵を牽制しながら遁走している最中だった。そしてそれに追いすがるように走っているのは一匹の白い虎。こんな泥で汚れそうな場所で走っているにもかかわらず、縞模様の下で純白に輝いているその体毛には一切の汚れが見えない。白虎が大きく鳴き声をあげると、虎の周囲を囲むように数本の風の刃が現れた。もう一度小さく唸るとその刃は猿の群れのうち一番後方で少し遅れぎみだった個体を襲う。背中から魔撃を受けた猿はもがきながらも前に進もうとしたが、そんな致命的な隙を虎が見逃すはずもなく第二第三の刃でその身を刻まれてしまう。

 数的な差はあるが、その実力差はそれを軽々と覆すほどに大きい。再び風の刃を出す、今度は先頭にいる群れのリーダーの右足の付け根に一撃が刺さった。そのまま右足から倒れこむ猿、自らのリーダーの死が目前に迫っているというにもかかわらず残る二匹はそんなことには目もくれず一目散に逃げている。だがそれも当然だ、彼らも生き残るので精一杯なのだから。

 遮蔽物が多く獣道を岩石が塞いでいるようなこの地帯で虎の機動性は著しく落ちているはずだが、虎は足場の悪さなど気にせず猿に勝る速度で大地を駆けた。バルパはその秘密を探ろうと虎の足をじっと見た、良く観察してみると虎の足が微妙に地面から浮いているのがわかる。どうやら虎はスレイブニルの靴を使っている時の自分のように空を駆けることが出来るらしい。それを理解したその時が、なんとか逃げ切ろうと投石をして抵抗を試みていた最後の猿が風の刃に倒されるところだった。

 戦闘は終息したが、虎は唸り声を上げたままだ。少なくともあたり数十歩の間に魔物はいない……自分を除けば。 

 木陰に隠れていたバルパの近くにあった木の幹がガリガリと音を立てて抉れた。虎の爪の一撃を食らったかのような三本の筋が走る。お前に気づいていないとでも思っているのか、バルパは虎にそう言われた気がした。

 緑砲女王があれば……そう思わずにいられないのは自らの武器への愛着のせいだろうか、それとも武器に頼ろうとする自分の弱さ故だろうか。バルパはそっと体を木の横へ動かし虎へ自らの体をさらけ出した。

 次に隠密をする時は闇の魔撃を用い影の中に隠れよう、自分の迂闊さを戒めながら前へと駆け出す。虎の顔には嗜虐的な笑みが見えた。まるで狩りを、それも自分が圧倒的な立場で行える狩りを楽しんでいるかのような様子だ。

 バルパは火の魔撃を使い槍の形を模しながら虎目掛けて発射する。大して魔力もこめずに放たれたその一撃は虎が喉を鳴らすと同時に発生したかまいたちですぐさま掻き消さされる。その間に目の周りに闇の魔撃を使用、顔を俯かせて相手が気付くまでの時間を稼ぐ。

 更に距離が近付いた、虎がこちらを睨みながら部が悪いとわかっていてもなお接近しようとする憐れなゴブリンを嘲るかのように風の刃を複数展開させる。

 この虎は今までも自らが勝てるとわかった相手はいたぶって殺そうとしていたのだろう。バルパは虎の一撃から敵を一息の間に殺すような鋭利なものではなく相手を傷つけ鳴き声をあげさせるかのような嗜虐心を感じ取っていた。確かに自分はさきほど負けたあの毛むくじゃらな猿よりも弱い最弱の魔物、ゴブリンだ。どれだけ強敵と戦っても姿は一向に変わらないし、多分永遠に体格も変わらない。

 だが自分は違う、自分はあの勇者を殺したゴブリンなのだ。そんなゴブリンが世界中探したとしてどこにいるというのだ。そんな自負を自信へ変えながらバルパは光の魔撃を全力で発動させた。自分と相手を等しく包み込む激しい閃光が二人の視界を焼く。だがバルパは事前に闇の魔撃を発動させている、彼の視力は光に晒されてもなお些かも減じておらず、小さく鳴き声をあげて怯んだ様子の虎目掛けて一直線に駆けていく。虎が苦し紛れに魔力に飽かせて大量の風の刃を四方に撒き散らした。虎の前方を覆い尽くすほどの量の魔撃の内の幾つかがバルパの体を撫で、切りつけ、出血を強いていく。今自分が着ているのはただの布の服とズボンだけだ、盾で胴体を防いでいても足やはみ出た肘には攻撃が当たる。自らの赤い血を見てバルパの中の獣の血が呼び起こされた。

 彼は攻撃を受けながらほとんどゼロ距離になるまで近づき、右手に持った黒の鈍器で虎の頭部を思いきり叩いた。ギャンと情けない音を立てながら虎が怯む、だが一撃で殺せてはいない。おかしい、普通ならこの一撃で頭が潰れ脳が陥没しているはずなのだが。だが疑問は棚上げにし、とりあえず二撃三撃と攻撃を叩き込む。虎の鋭利な爪が振りかぶった自分の二の腕に当たると魔撃を使って中距離から仕留めたいという欲求が湧いてくる。だがダメだ、ここで魔力を使ってしまっては後が辛くなる。バルパは圧倒的優位に立ちながら、虎よりも身体中に傷を負い、なんとか虎を殺しきることに成功した。

 魔力感知を発動すると、血の臭いに釣られてか複数の魔力反応がこちらに迫っているのがわかった。乱暴に虎を収納箱に入れる。ああ食料と水がちまみれになる、心の中で嘆くが最悪虎の血で水分補給をすれば良いことに気づきバルパは駆けた。魔物は自分を取り囲む円のような形を取っている十五匹ほどの群れと、少し遠く離れた位置から自分とその群れを注視しているであろう一匹がいる。それ以外は興味なしとばかりに周囲に散在しているが、この群れの魔物達が明らかに自分を包囲するような形を取っている以上連戦は避けられないだろう。もしこの群れとの戦いで隙を見せれば遠くで観察している魔物が漁夫の利を得ようとしてくることも考えられるし、そもそもグズグズ戦っていればまたさっきのように新たな魔物を誘引してしまう。

 なるほどこれは少なくとも少人数で戦うような場所ではない、明らかに徒党を組み交代し休息を取りながら戦うべき領域だ。

 幸いそこまで強力な魔物がいないために今はなんとかなりそうだが、この後ドラゴンが出てくるとなると怪しくなってくるな……バルパは空からドラゴンやワイバーン達が空襲してこないことを祈りながら遠吠えをあげる狼の群れに突っ込んでいった。

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