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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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ヴァンスのお嫁さん

 次の日、もう慣れてきた食堂で食事を取ってから宿を出て約束の場所へと向かう。昨日の夜はどこか喉を通らなかった食事も、深夜の間食の時からは食欲が戻ったためにしっかりと食べることが出来た。そういえば昨日の夜はご飯を奢ってくれてありがとうと礼を言うと、ミーナはバルパの肩をパシパシと叩いた。

 二人は今、待ち合わせの時刻である午前七時半に待ち合わせ場所である中央街にあるとある男の銅像の前にいた。バルパもミーナも歴史というものにほとんど興味はなかったため、二人は端により人の流れを見ながら立ち話をしている。

「でさ、ヴァンスさんとの戦いはどうだったの?」

「負けた、正直なところ歯が立たなかったな」

「うへぇ、バルパで勝てないって私にはちょっと想像できないなぁ」

 二人の会話の内容は昨日ミーナが泣いてしまいそこまで詳細に出来なかった昨夜の戦闘の話がメインになっている。 

 バルパがこの話をしようとしたとき、まず最初にミーナは勝ったんだろ? と質問をしてきた。彼はミーナは一体自分をなんだと思ってるんだと嘆息しながらボロ負けしたと答える。するとミーナは心底驚いた様子だった。お前の中で俺は一体どんな化け物になってるだ、そう尋ねるとミーナはそっぽを向いて答えなかった。

「あのおっさんさ、私のお尻触ってこようとしたんだぜ? 私が泣いてる時にだよ、信じられる?」

「尻を触られる程度のことどうでも良いだろ、泣いているのと尻を触られるのが嫌というのに何か関係があるのか?」

「……あのねバルパ」

「なんだ」

「普通はね、許可も得ないで女の子のお尻を触ったりしちゃいけないの」

「そうなのか」

 どうして他人の尻を触る必要があるのかわからなかったバルパはとりあえず自分の尻を触ってみた。鎧越しではあるがやはり他の腹や腕と比べると少しばかり柔らかい。そして触ったことでバルパはようやく確信を得た。

「なるほど、尻は柔らかいからその分攻撃が通りやすい。下手な奇襲を受けないよう尻には注意をしておかなければいけないということなのだな」

「違う、全然違うよ。一体なんでそんな話になるのさ?」

 その後も話を聞いたのだが、要は男の尻は触っても良くて女の尻は触ったらダメということらしい。どっちも触る必要のない自分には関係のないことだったのでバルパはそんな無駄知識を覚える気にはなれなかった。

「だからさ、私のお尻触るときには……しっかり許可を取れよなっ‼」

「俺はミーナを殺すつもりはないから尻は触らない」

「あんたちゃんと私の話聞いてた⁉」

「聞いてない」

「聞こうよ‼」

「いやだ」

「なんでさ」

 ミーナがバルパの兜を取り頬をグニーっと引っ張った。どうやら感触まで再現されているらしく、その触感は人間の肌そのものでミーナはバルパがゴブリンであることを忘れそうになった。

 ミーナとバルパでは結構な身長差があるため、彼女は今背伸びをしながらなんとか頬を引っ張っている。どうして頬を引っ張る必要があるんだと冷静に質問をすると無言で頬をつねられた。戦闘の時とは種類が違うが、ジンジンする痛みがあった。今この時ばかりは痛みを幸せに出来るミルミルが羨ましいな、バルパはそう考えながらほっぺをむにむに伸ばされている。

 二人がじゃれ合っていると、バルパの魔力感知に街の中では大きめな魔力反応のいくつかがこちらにやって来るのがわかった。離れろと言っても一向に止めてはくれなかったのでバルパは現状をなすがままに受け止めて彼らの到着を待つことにした。


「ごめんごめん遅くなった……ってこれ、どういう状況?」

「ほほほひっはられへいふんは」

「ごめん、なんて言ってるか全然わかんないや」

 彼の冷静な状況説明は、残念ながらアラドには伝わらなかったようである。その後ろにはツツとリーノ、そして自分と同様睡眠不足にも関わらず顔をテカテカと輝かせているミルミルの姿がある。

 いい加減鬱陶しいとミーナの手をどけてからアラドに話しかける。

「ヴァンスはいないのか? それとそのお嫁さんのスースさんも」

「師匠は朝帰りをこってり絞られて宿屋で土下座してるよ」

「土下座とはなんだ?」

「最大級の謝罪ってことさ、師匠はスースさんには勝てないからね」

「何っ⁉ その女はヴァンスより強いのかっ⁉」

「んなわけないだろ、百回中百回あの人が勝つさ。ただいつの時代も旦那は鬼嫁には勝てないってだけの話さ」

「鬼嫁? スースという女はオーガなのか?」

「一体誰がオーガだって?」

 バルパはバッと後ろを振り返り、そこに人がいることに驚愕した。断続的に聴力を強化し、なるべく周囲を俯瞰しながら魔力感知を発動させていたのにすぐ近くに近寄られてもまったく気づけなかったのだ。

 それに未だに魔力感知は発動しているが、それは目の前の女には一切反応していない。目の前の女がスースだというのなら、それが示す答えは一つである。

「魔力感知をすりぬける手段があるのか……」

「そりゃそうさ、世の中何事も完璧なんてものはないんだよ」

 バルパは突然現れたようにしか見えない目の前の女が、決して油断できる相手ではないことを理解しながら尋ねた。

「あなたがヴァンスのお嫁さんのスースか?」

「お嫁さんって……ガタイとゴツい装備のわりに可愛い言葉使うねあんた。ああそうだよ、私がスース。あの女好きのバカの家内さ」

 にこりと快活な笑みを浮かべるスースを見てバルパは思った。

 どうやらこの女もヴァンス同様一筋縄でいくような人間ではない、と。

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