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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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最弱対最強 1

 まずは男の戦闘スタイルについて考える必要がある。自分が見たのは大きく分けて二つ。剣を予想外の方向から飛ばしてきた攻撃と、自分の背後に回ったあの驚異的な身体能力だ。

 そう、あれは瞬間移動の魔法ではない、魔法が発動するような兆候はなかった。つまりあれは純粋に男の身体能力と魔力による身体強化による能力である。そしてあれだけの速度を出せるということは、一撃も重いということだ。莫大な量の魔力があるのだから魔法についても警戒しなくてはいけない。だが魔法でこちらを潰そうとしてこないあたり、魔法が主要な手段ではない可能性が高い。もしそれがブラフなのだとしても、今は魔法を使ってくると意識する程度に留めておいたほうが無難だろう。

 男の攻撃手段はその高いスピードと攻撃力に任せた近接戦闘、そしてその際に発生する死角や隙を剣を飛ばすことで埋め合わせる。そういうスタイルであるとバルパは推察した。

 相手側も彼を観察しているようで、じっとバルパの方を見つめていた。

「ふぅん……天駆のスレイブニル、上級ポーションはわかったが後はわからんな。良い武器使ってんなお前、俺の上級鑑定が弾かれたのなんて久しぶりだぜ」

「……シッ‼」

 速度重視で雷の魔撃を叩き込む、相手にこれ以上の情報を与えるのは危険だと判断したためだ。そうだ、どうして相手が鑑定や魔力感知を使えないという前提で行動していた。自分に出来ることくらい自分よりも強い人間なら出来て当たり前ではないかバルパは攻撃の手を緩めずにこちらの攻撃をその身一つで受け続けている男を睨んだ。

 上級鑑定、それは鑑定を使い続けているうちに発現することのある魔法の名だ。ただでさえ過多である情報量が更に増え情報の判読はより困難になるが、その分大抵の魔法の品の性能を能力まで含めて理解してしまうとルルからは聞いていた。今はまだ緑砲女王とボロ剣の性能は把握されてはいないが、それもいつまでそのままかはわからない。自分でも十全に理解しているとは言えない魔法の武具の情報を持っていかれては自分はまともに戦うことも難しくなる。

 一撃、二撃、三撃。速度を高めることに比重をかけてきた雷の魔撃は、とりあえず男の動きを止めることには成功していた。着ている外套には幾つかの焦げ目がついているのが見える、どうやらあの襤褸きれは本当にただの布で出来ていることが判明する。

 外套の下の衣服も同様に剥がれ、焦げて小さな穴が開く。その下には鍛え上げられた鋼の筋肉が見える。

「…………フッ‼」

 思いきり魔力を込めて放った一撃を着弾させても、ヴァンスの姿には同様の一つもない。攻撃をしているのは自分の方だというのに、追い詰められているような気さえしていた。

やはり魔撃は有効打とはなり得ない、それを改めて知らされる。

 相手の男は自分の様子を見ているようで、反撃に転じるような気配を見せてはいない。

 バルパは牽制の意をこめて魔撃を放ち続けながらどうすれば対抗できるかと考えを巡らせる。

 やはり最も効果的だと思えるのはこの右手のボロ剣を相手に突き刺すことだ。レッドカーディナルドラゴンの鱗を容易く切り裂いたこいつならばあの相手に致命傷を与えることも不可能ではないはずである。

 だが相手にはこれが上級鑑定の利かない魔法の武器であるという情報がある、そう簡単に攻撃を食らってはくれないだろう。こうなると先ほど上級鑑定を使わせる隙を与えたことが返す返すも悔やまれた。

 ならば隙を作る必要がある、いや今ならば相手は隙だらけだ。幾らでも撃ってこいとばかりにふんぞりかえっているその顔には不適な笑みが浮かんでいたが、それは裏を返せばこちらの全力の一撃を放つことが可能であるだけの隙を自らさらけ出しているということでもある。殺せるものなら殺してみろ、ヴァンスから発される無言の圧力をバルパは確かに感じていた。

 緑砲女王のカウンターもまだ見せてはいない、だが魔力にしか反応しないこの盾でカウンターを狙うには恐らく何かの魔法で動いているらしい浮遊する剣に直接盾を当てなければならない。カウンターはあくまでも直線的に攻撃を跳ね返すだけだから角度を調節してやって男目掛けて発射させ、それを陽動にしてボロ剣の一撃を入れれば……いや、これだとまだ少し弱いか。自分が持っている無限収納(インベントリア)とその中の魔法の品も利用しよう。パティルの短剣を使うか? しかし当たっても効果が出るまで耐えられるかは疑問だ。だがあの回復阻害の短剣を使いよりはマシ、いやヴァンスが人間である以上毒を使うという可能性も……とバルパは思考を高速で回転させる。

 またもアイテム任せな戦い方になってしまっているのは自覚していたが、そうでもしないと格上には通用しないということは彼には痛いほど良くわかっていた。

「おいおいそれだけで終わりかよ、それじゃあ次はこっちから行くぜ」

 男の声は大きく、魔力で聴覚を強化しているバルパの耳に痛いほどの音量で聞こえてきた。

 ふわりと男の腰からひとりでに剣が浮かび上がる、既に回収されていたらしい先ほどバルパを襲った剣と、それの対になっている剣が男の手に握られる。

 双剣使いか、とバルパはつい先ほどまで観戦していたアラドの戦いかたを思い出す。一度双剣の戦闘を見ておいてよかったと思った、基本的な動きを知っているのと知らないのとでは大きな違いがあるからだ。

 無論男の攻撃は双剣だけで無く剣を飛ばすものもあるし、おそらくは収納箱の中に複数本の剣が入っているだろうから攻撃手段はまだまだ多いはずだ。

 双剣の攻撃は苛烈だ、盾だけで防御していてはいずれ綻びが出るのは明らか。ポーションと魔物のタフネスで攻撃を凌ぎ、緑砲女王を使えるタイミングでカウンターを当て、無限収納から出した短剣を本命と思わせてからボロ剣の一撃を食らわせる。

 バルパは自ら攻撃を仕掛けると宣言した男をじっと見つめる。

 男はグッと地面を踏みしめ……そして次の瞬間には視界から消えていた。またあの高速移動かと魔力感知で位置を特定してから無理矢理体を動かそうとする。しかしやはりそれは叶わずバルパの腹に剣が突き刺さり、衝撃の余波で後方へと吹き飛んだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  思いきり魔力を込めて放った一撃を着弾させても、ヴァンスの姿には同様の一つもない。 →動揺の一つもない
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