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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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透明な男

 時はバルパととある冒険者が邂逅する少し前へと遡る。朱染戦鬼に完勝を収めた面々は、宝箱から出てきたのが今まで見たことのない剣だったことを喜び、思いがけぬ臨時収入になるかもしれぬことに沸き立っていた。

「いやぁ、こんな風に毎回毎回魔法の品(マジックアイテム)が取れるんならもうここを拠点にした方が良いんじゃねぇの?」

「バカだねツツ、宝箱の中身が価値あるものだなんて限らないのに。これだって魔法の品かどうかなんてわからないよ……まぁそれでも業物だってことは認めるけどね」

『紅』のメンバーに魔力感知を使うことの出来る者はいない、しかし彼らは今まで数百数千という魔法の品を見てきた経験である程度の目利きが出来るようになっているのだ。もちろん外れることも多いが、今では大体半々くらいの確率で魔法の品か否かを当てることが出来るようになっていた。

「そうだよ、それに僕たちもランクが上がっちゃったから自分達の好き勝手にはもう出来ないしね」

「うーん、やること決められるくらいなら俺はずっと身軽な冒険者で居たかったなぁ……」

「よく言いますね、パーティー組み立ての頃なんか絶対にSランク冒険者になってやるとか嘯いてた癖に」

「なんだとっ‼」

 二人の会話はいつものことなのでリーノもアラドも気にしてはいなかった。本来の実力を発揮すれば倒すことは容易である朱染戦鬼も決して油断して戦ってはいけない魔物である。今日もまたメンバーの誰一人欠けることなく戦闘を終えられたことにアラドはホッと胸を撫で下ろし、リーノはこれからも息災であらんことをと神に祈った。

 喧嘩がまたしても未遂で終わってから四人は顔を突き合わせた。そしてバルパとミーナの二人と距離を取っていることを確認した上でヒソヒソと話し出す。彼らが話すのはもちろん、あの全身を皮の鎧と布で覆い隠しボロい剣を持っている男のことだった。

「どう思う?」

「どうもこうも、確実にワケありだろ。俺は嫌いじゃないが、あんまり深入りはしない方が良いと思うがね」

「私も早く別れた方が良いと思います。ただでさえうちは面倒ごとに巻き込まれがちなんですから自分達から首を突っ込む必要はないかと」

「私は毛生え薬の効果を試していないのでわかりませんが、それでもお礼を渡しておさらばしたいところですね」

 彼らはアラドの師匠のパーティーと合流するための時間潰しでやってきたこの獄蓮の迷宮で自分達が何か面倒ごとに首を突っ込みかけていることを理解していた。

 ミーナだけを見ていればただの初心者だと思っただろう、彼女のローブと杖は初心者が使うのにうってつけということで有名なものだし、彼女の身のこなしは素人に毛が生えた程度なのだから。

 だがバルパは違う。着ているものはただの皮鎧で、手に持つ武器は錆びたクズ剣であっても、彼からは武人の持つ風格のようなものが漂っている。そのあふれんばかりの武威と常識の無さとのアンバランスさもまた、彼らを困惑させた原因の一つだった。

「やったら勝てると思う? 僕は正直……勝率は二割くらいなんじゃないかなって思ってる」

「そうか? 半々ってところだと思うけどなぁ。てかそもそもやり合うことになるとは限らんだろ、疑わしきは罰せずとも言うし。あいつらは確かに変かもしれないが、俺たちはあいつらが何かヤバいことをしているのを見たワケじゃないんだぜ?」

「もちろん戦わなくて済むならそれに越したことはないさ。戦いたくないからわざわざこんな話をしてるのを理解して欲しいね」

「へぇへぇすんませんねぇ、こちとら学がないもんで」

 ツツとアラドの会話にミルミルが割り込んだ。

「このまま普通に解散、で良いんじゃないでしょうか? 向こうもこちらに踏み込んで欲しくなさそうなのは明らかですし、このまま良き隣人のままでいるのが得策だと」

「私も賛成です、ミーナちゃんと戦いたいとは思いませんし」

「そうだね、じゃあとりあえずは現状維持で。僕としても同意見だったから、説得とかしなくて済んだのは正直助かるよ」

 とりあえず目の前の二人への対策会議を終え、自分達をじっと見つめているバルパとミーナの方へと歩いていくAランクパーティー『紅』。彼らは四人が四人とも、バルパが自分達に向けているものが殺気であることを理解する。今更殺意を感じたくらいで動揺する『紅』ではなかったが、自然と腰の武器に手をやり体は臨戦態勢をとっていた。

 バルパが一体どんな存在なのか、言わずとも四人はそのおおよそのところを把握している。恐らくは亜人だ、それも最近魔物の領域から出てきたばかりの。向こうで兵士階級か何かだった彼は未だ混乱の多く統制の取れていないこの街へやって来てひっそりとミーナという少女と暮らしているのだろう。亜人と魔物の区別を意図的につけていない王国の面々からすれば、彼は考えることの出来ぬ野蛮な魔物でしかない。

 だがアラド達はアラドの師匠であるとある男に修行として振り回され、雑用としてこき使われながら色々な亜人と行動を共にしていた。だから彼らは亜人が人間とは違う形をしていても、その本質は自分達となんら変わらないことをしっかりと理解していた。

 アラドはバルパのことを他の誰にも報告する気はなかった、そして『紅』の面々もまた彼のその意見に従ってくれるだろう。たとえ彼が床に転がしている鉄の槍が魔法の品(マジックアイテム)であるとしても、槍を無造作に置いていることから彼がそれ以外にも魔法の品を持っている可能性が高いと判断したとしても。

 面白がって戦いたがる師匠にも伝える気はなかった。あの人は確かに誰かを助けてくれるが、それは自分が思ったことを好きなようにやった結果助けたように見えているだけでしかないことを彼は良く知っている。良くも悪くも好きなようにしかやらないあの人は、気に入らなければどんな人間だろうと殺してしまう。そんな危険を冒してまで、彼に話を通す必要はないだろう。それにそもそも、彼が本当にこの街へやって来るのかすら未だ定かではないのだから。

 そんな風に考えているアラドはミーナを止め一人でこちらに歩いてくるバルパを見て、そして彼の瞳に映る覚悟の色を見て、自分が面倒ごとから逃げられなくなってしまったことを悟ってしまった。

 さっきは関わらないようにしようと結論を出したにもかかわらず、今のアラドは既に彼の行動を見届ける気でいた。

 何も持たないアラドという男は、だからこそ何かを強く持っている人に惹かれてしまうのだ。

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