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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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朱染戦鬼

 四人は特に気負った様子もなく、階層を下っていった。するとこれ以上の侵入を拒むかのようにバツンと大きな音が鳴り階層と階段を繋ぐ継ぎ目が閉じられた。翡翠の迷宮でレッドカーディナルドラゴンを殺した時と同じだ、違いを挙げるとすればレッドカーディナルドラゴンの時の檻が雷であったのに対し、今発動されている檻は少し黒みを帯びた炎だということくらいだろう。挑戦者が増えすぎないに発動されたその魔法の檻を改めて魔力感知で見てみると、下手をすればボロ剣クラスなのではないかというほどの凄まじい量の魔力があの檻に込められているのがわかった。あれは恐らく強力な魔法か何かなのだろう、そこまで考えて何かが頭に引っ掛かるのを感じた。

(……ん、ちょっと待てよ?)

 バルパは四人の背中を見ることを止め、侵入を拒むために展開されている檻を見やる。そして自分が感じていた感覚がなんなのかを理解する。

 自分は今、魔法を魔力感知で感じることが出来ている。そう言えば先ほど『紅』が転移してきた時にも魔力のゆらぎのようなものを感じたことを思い出す。

 もしかしたら自分は、魔法を感知出来るのではないか。より正確に言えば発動された魔法や、発動される寸前の魔法の兆候を感じとることが出来るのではないか。

 その考えは間違っていないように思われる、だとすれば今までどうしてそれに気付かなかったのだ。考えたがその質問に答えが出ることはなかった。

 彼が使っている魔力感知とは魔力感知の魔法ではなく彼が呼称しているところの魔撃の一種である。魔法は使えば使うほど上達する。魔力の循環効率も、魔法の放出方法も、消費魔力も、そして魔法の性能も。そしてまたそれは魔撃も例外ではない。

 彼は自分が本気で戦わざるを得ないような相手には魔法の武具を決め札とし、魔撃は牽制程度にしか使っていない。およそ雑魚相手に時々使う程度でしかないため、彼は魔撃の習熟は全く伸びていないと以前から感じていた。しかしそれは実際のところ正確ではない。

 彼は迷宮を探索している間、そして迷宮を出ている間もずっと魔力感知を使い続けていた。そのため魔力感知の魔撃の習熟度は今も尚上がり続けている。

 だが彼は未だそれに気付いてはいなかった、今魔法を見ることが出来ているのも今まで考えていなかったからこその見落としだと考えている。

 バルパが魔力感知が魔撃であるということを理解するには今しばらくの時間が必要であった。彼がそのことを知るのは、もっと明らかな違いが見て取れるようになってからのことである。



 朱染戦鬼という魔物がどういうやつなのか、もちろんバルパは事前にギルドで調べていた。戦うつもりはなかったが、強い魔物の情報というものは知っていて損はなかったし、もしかしたら戦わざるを得なくなるような状況に置かれる可能性もゼロではなかったのだから。 

 まずこの生き物はオーガのユニークモンスターであるらしい、代読の少年にお金を渡して得た情報によると強靭な肉体を持ち抜群の近接戦闘能力を誇り、そして距離を取られれば炎を吹くという遠近両方でかなりの力を持つモンスターであるらしい。 

 水属性が弱点であることと、遠距離攻撃の手段が闇と炎の属性の混ざった黒炎というものに縛られるためにその両属性の対策をすれば倒すことは可能らしい。 

 推奨ランクはソロならAランク、そしてパーティーならBランク。つまりA ランクパーティーの彼らとしては些か物足りない存在だと思われる。

「お、始まるみたいだぜ」

 ミーナがずいと顔を炎へ近付け、そして火傷しそうになったところをバルパに押さえられた。

「あ……ありがと」

 バルパと一緒に情報を聞いていた彼女は、戦闘がそれほど困難なものにはならないと信じきっているためか既にどこ物見遊山な様子である。

 だがバルパもそれに関しては人の事を言えなかったので彼女を咎めることはしなかった。

 バルパは戦闘を繰り広げようとしている両者の一挙手一頭足を見逃さぬよう目に魔力を流し込み視覚を強化する。そしてその瞬間、戦いが始まった。

 

 朱染戦鬼の体長はアラドより少し大きいくらいで、大きさは普通のオーガとそれほど違いはない。右手には何も持ってはおらず、左手には真っ黒な棍棒を持っている。トゲが出ていたり複雑な模様が描かれたりもしていないシンプルな武器である。そしてそんなシンプルに重量のある武器だからこそ、あの朱染戦鬼が振るえば凶悪な威力を発揮するののだろう。

 まず始めに動いたのは意外なことに朱染戦鬼の方だ。手のひらを戦闘で走り出しているアラドの方へ向けると次の瞬間には黒い炎が彼目掛けて放たれる。二属性を混ぜる芸当は今だバルパには出来ない、魔力の使い方で言えば自分よりもあの魔物の方が上であるようである。魔物の方にも見るものはあるのだなと考えながらアラドの方を見ると、彼はなんとその黒炎を真っ向から受けた。強化された視覚はアラドが腰に提げた鞘から双剣を抜き放ち黒炎に斬りかかるのを捉えている。並列して発動させていた魔力感知でアラドが自らの腕に魔力を流し込んでいるのがわかった。

 先ほどと剣閃も、その崩れない笑みも何一つ変わってはいない。ただ一つ、剣速を除いては。

 高速で振るわれた双剣はいとも容易く炎を切り裂く。そのままアラドが魔力を足に集中させる。どうやら全身に満遍なく魔力を回すのではなく局部的に魔力を集中さえ速度と威力に特化した攻撃をするようだ。持久戦には明らかに不向きであるようにも思えるが、あの威力の斬撃が放てるならば長期戦の想定自体が無意味なものなのだろう。

 再び朱染戦鬼が炎を放つ、今度は効かないと判明しているアラドではなく後ろで小走りをしているミルミルへと放たれた。

「アイスウォール」

 詠唱も無く放たれたそれは、しかしバルパが使う魔撃が無駄の塊にしか見えなくなるようなロスの少なさで氷の壁を現出させ炎を防ぐ。

 アラドが朱染戦鬼へと近づく、魔物の死角を取ろうと若干遠回りをしているツツもかなり距離を詰めていた。リーノは未だ動く気配を見せない。彼女の役割は一体なんなのだろうか。

 戦鬼は最早黒炎を使うことは意味がないと感じたのか左手に持っていた棍棒を両手持ちに変え、自分に切迫してくるアラドへと向き直った。後方に意識を割いているとは思えない、恐らく背撃を受け奇襲気味にツツの一撃をもらうよりもアラドのあの双剣の攻撃を受けることを恐れたからだろう。もしくは全力で一撃を振るいそのまま全速で離脱して距離を取るか、はたまた後方へ突撃するのかもしれない。

 獲物のリーチは朱染戦鬼の方が長い、棍棒による重い一撃がアラド目掛けて振り下ろされる。その一撃を彼は軽やかに避けた、棍棒の風圧を気にしてか二歩分ほどの余裕を持っているように見える。距離を詰めるのが遅れたために朱染戦鬼の二撃目が今度は振り上げという形でアラドを狙う。ほとんど位置の修正の利かない振り下ろしと比べれば振り上げの方が融通が利く。その分威力は低くなるが……あの膂力でふるわれるならばどちらも変わらず一撃で体が破裂させるだろう。棍棒による振り上げられる直前、アラドは足に魔力を流し込み棍棒を踏んで前に出た。魔力を用いられ向上した移動能力で戦鬼へと迫る。双剣の撫でるような一撃が魔物の胸をかすり、赤く薄い筋が胸板に走る。

 薄い刀身を見たときからなんとなく予想はしていたが、やはりあの双剣は一撃一撃の威力はそれほど高くない。だがその分手数の多さは圧倒的だ。

「はあっ‼」

 左手による二撃目が胸を斬りつける、少しだけ刃を引くようにして切り裂いてから勢いそのままに右手による振り下ろしが腹を裂いた。姿勢を変え右足に重心を落とし、四撃目の切り上げが足を裂く。そして五撃目の左手の一閃が戦鬼の耳を切り取った。

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