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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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動く調味料

 人っ子一人いないのだから、もちろん階層をまたぐ階段にも屯している人間はいない。

 ミーナとこうして迷宮に潜ったのは二週間以上前であったために覚束ないと思われるかもしれないが、数日ほど夜営をしていたため彼らは既にお互いの役割分担を完璧に終えている。

 バルパは材料を供出し、材料を調理し、そしてミーナに手渡す。ミーナに与えられた役割とは、もちろんお腹八分目まで肉を平らげる役目である。魔力の調整が出来ない彼女は適度に調節した火というものを出すことが出来ず、その役目はバルパが行わざるを得なかった。

 バルパが毎回の食事で出す品々は男の料理と言えば聞こえが良いが、していることはただ肉を焼いているだけでありそれは料理と言えるのか正直なところ微妙なところである。素材が最高級品であるためにミーナやルルから文句が出ることはなかったが、それでも流石に塩味だけでは飽きもくる。

 正直バルパは既に高級品だろうがなんだろうがほとんど美味しさを噛み締められないほどに食べ慣れてしまっているせいで、ドラゴン肉をただの空腹を満たす物体と考えるようになっていた。

 だが今日からは違う。彼は人間の生活に混じり、新たな可能性を発見したのである。

 まず肉を焼いて木に刺した。それを持っていこうとするミーナの手をぴしゃりと叩く。前は叩かれたのは自分の方だったというのに、俺も成長したものだなとバルパは少しだけ誇らしくなった。

 自分を睨むミーナを無視し、味を変えるヤツと念じ袋から味を変える調味料というヤツをありったけ出して地面に置いた。黒いもの、白いもの、虹色に輝いているもの、黒すぎて地面と完全に同化して見えるもの、木の実のようなもの、それに何故かうねうねと動いているものまで実に様々なものが出てくる。

「おおっ……」

「この中で知っているものはあるか?」

 驚いてうねうねと動く調味料を見て硬直していたミーナの石化状態が解かれる。

「えっと……これがザルザだろ、それでこれがショーユ、これはプラーナだな。んでこれがジセリの葉っぱで……あとはわかんないや」

 二十種類を軽く越えているそれらを一つ一つ食べていくことにする、ミーナが知っているものは旨いらしいのでまずはそれ以外のハズレっぽいものから食べていこうとバルパは手を伸ばした。

「じゃあまずはこの動いてるヤツからだな」

「よ、良くそこから行こうと思ったな……普通動く調味料って最後に選ばない? そもそも動く調味料ってなんだよって話なんだけどさ」 

 相変わらずうねうねと動いているそれを観察してみる。袋の中の調味料は大抵瓶に入っていて、その調味料も例に漏れず透明な瓶の中である。

 まず太さは人間に変わる腕輪の鋼線ほどだ、アラクネの糸より少し細いくらい。色は灰色で、そして何より特筆すべき点としてうねうねと動いている。それが三十匹ほどいる、調味料を匹で数えて良いのかどうかは彼にはわからなかった。 

 瓶を閉じているコルクを開き、中から一匹調味料を取り出す。幸い鳴き声をあげたりはしなかったが、うねうねと動いているからには生きているのだろうか。

 肉串を右手に持ち、左手から調味料を落とした。まだ温かさの残る肉の上で、調味料が文字通りの意味で踊り出す。

「ん……あ、あれ?」 

 ミーナがまばたき一つしていた間に調味料は溶けて肉に絡まってしまっていた。ゴブリンは兜を取って肉を口にいれようとしたが、その手をミーナに阻まれる。

「ちょ、そんな躊躇なく行っちゃダメなヤツだってそれ‼」

 それは違う、と確証を持って言えないバルパであったが、それなら鑑定を使えば良いじゃないかと今さらながらに思い付く。

「鑑定…………ぐぅっ⁉」

 バルパの鑑定が弾かれ、オークの全力の一撃でもビクともしない彼の体がブルブルと震えた。

「ちょ、ちょっとバルパ‼ 大丈夫か⁉」

「……ああ、問題ない」

 バルパの鑑定を弾くというその一点から考えられることはただ一つである。

「な、なぁバルパ。今あんたの鑑定が弾かれたってことはさ……」

「ああ、この調味料は間違いなく魔法の品(マジックアイテム)だ。少なくとも俺が普段使っている盾クラスのな……」

 バルパは階段ならば魔物には襲われないとわかっていたために魔力感知を使うのを疎かにしていたことをわりと本気で後悔していた。このヘンテコな生き物が強力な魔法の品だといういのなら勿体ないことこの上ない。食べるという目的以外で何かに使えるだろうことはまず間違いないのだから。

 なんとか肉の中からうねる調味料を取り出せないかと試しに水と氷の魔撃で冷やしてみたのだが、ただ肉が冷たくなっただけだった。

「……なぁバルパ、その肉食べるの?」

「……しまっておこう、もしかしたら何かに使えるかもしれない」

「うわぁ、全然片付け出来ないアタシの友達とおんなじこと言ってる……」

 バルパは肉と動く調味料をしまい、魔力感知で残る調味料を確認。もちろん魔力のあるものは他になかった、あんなのものがそうあってはたまるかというのがバルパの正直な感想である。続いて鑑定を使うとその調味料が甘いのか酸っぱいのか、はたまた塩辛いのかがわかった。甘い調味料を避け、塩辛いものと酸っぱいものを中心に食べていく。食べても体に悪そうなものはなかったので、二人は余った肉を使い一通り味見してみることにした。

「か、辛ぇっ‼ 水、水くれ水‼」

 辛いやつを引き当てたらしいミーナが体を忙しなく動かしながら舌を外気にさらしている。年頃の少女が浮かべるには間抜けに過ぎる顔ではあったが、この場にまともな判断基準を持った人間がいないために彼女の尊厳はしっかりと守られたのだった。

 バルパが取り出した水をゴクゴクと飲み干し、勢いそのまま新たな調味料のかけられた肉にかぶりつく。その食い意地が、バルパにはとても好ましく思えた。

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