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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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魔法の使い方

 やはり自分の身体能力は向上している、以前とまったく同じ装備へと変えたことでバルパはそれをよりはっきりと理解することが出来た。ボロ剣ではどんな敵でも一刀両断であるためにその威力の上昇はイマイチ実感しがたかったが、相手を一撃で殺すことの難しい鉄の槍となればその差をはっきりと認識することが出来る。

 背撃を受け倒れた仲間を見て三匹のオークがこちらに迎撃をしようと粗末な槍を構えた。木製の槍も三本同時に突きだされれば十分に槍ぶすまとして機能する。その一撃一撃をどっしりと構え盾で受ける。オークの膂力で振るわれるそれは普通の人間ならたたらを踏むほどの威力があるが、生憎バルパは経験値を得て強くなったゴブリンだ。一撃ごとに衝撃が走るが、バルパは地面を踏みしめて半身になりながらその攻撃を凌いだ。

 そのまま下げていた半身を前に出す、勢いをつけて放たれた一撃は狙い過たずにオークの頭蓋を穿った。

 残り二匹となったオークが左右に散開し、考える時間と余裕を与えまいと二体同時に攻撃を仕掛けてくる。右から来る槍を自らの槍で叩く、腕力の差ではなく純粋な武器の差によりオークの木槍が二つに割れる。左から来た一撃に合わせるように盾をずいと前に出す。槍に込められた一点突破の攻撃力は、粘りのある鉄の盾によりしっかりと受け止められた。

 右足を軸に体を捻り、槍を叩き折ってから宙ぶらりんになっていた鉄槍を左に突き出した。オークの胴体に穴が空く、声を出し痛みを和らげようとするそれから槍を強引に引き抜き、槍を失い徒手空拳でバルパへ襲いかかろうとするオークの顔を突く。勢いそのまま後ろに倒れこんだオークの体から抜かれた槍は脂肪と血で紅白色をしている。槍を引き抜いた勢いを利用してようやく立ち上がったらしいオークの傷口に石突を叩き込んだ。今度はうめき声は上がらなかった。どうやら気絶しているらしいオークの眉間に穂先を突き刺してからふっと息を吐く。

「終わったぞ」

「……うん」

 彼の後方には杖を支えにしてなんとか立っているミーナがはぁはぁと荒く息を吐いていた。

 一匹ずつオークの数を増やしていく戦いを十匹の集団との戦闘まで、都合十連戦を行うと既にミーナは虫の息になっていた。

 どうやら最後に群れのうちの二匹を燃やし尽くした炎の蛇を打ち込んだので文字通りの限界を迎えたらしく、今の彼女の顔面は蒼白を通り越してもはや土気色である。

「どうした、体調が悪いのか?」

「ふぅ…………魔力切れだよ、魔法を限界まで使ってたらそりゃこうもなるさ」

「なるほど、完全に魔力を切らすとそんな風になるのか」

 バルパは自分の魔力がどれだけあるのかを理解していない。そもそも魔撃の一発一発がさほど魔力を使わなくとも出すことが出来るために彼には魔力を使いきるという経験がなかった。気持ちが悪くなるらしいとルルから聞いてはいたし、ミーナも魔力をほとんど使い切ると顔色が青くなることは以前見たので知っている。ただ今のミーナの顔からはまるで死人のように生を感じられない、実際にこんな風になるのなら絶対に魔力切れだけはしないようにしておく必要があるなとバルパはまた一つ学び成長した。

 彼にとって魔撃とは基本的には牽制の手段であり、素の能力があまり高くない人間や雑魚の魔物を蹴散らす時に使うものという程度の認識でしかない。魔力をガンガン込めれば威力は相応に上がるのだが、結構な魔力を注ぎ込んでも倒れなかったゴーレムがボロ剣の一閃で死んだりした経験もあって、魔撃をメインの攻撃手段にはしないようにしているのだ。だからこそ魔撃は発動時間は短くなってはいるかもしれないが、さほど上達はしていない。

 だがそんなバルパにも、ミーナが使っている魔法の効率が恐ろしく悪いということはわかった。

 彼女は下手をすれば自分より多い魔力を思いきり込め、そしてそのほとんどを無駄にして魔法を使っているのだ。魔力の循環までは良く、放出の段になって明らかにおかしくなるのだが、彼にはその原因がわからなかった。バルパは基本的には感覚派である。そんな彼なりにガッとやって腹にグッと力を込めれば良いといったアドバイスをしたりもしたのだが、結果としてほとんど改善は見られなかった。

 バルパは魔力を循環させ、それをそのまま放出し、その瞬間に出す属性を選択するという方法で魔撃を出していた。恐らくこれが魔物の一般的な魔力の使い方なのだろうということは、風魔法を使うオーガメイジの魔法を緑砲女王で受け続け観察したことでわかっていた。

 そんなある種乱雑というか力任せなやり方と反して、人間の魔力の使い方というものは彼が見ていた限りでは繊細なことが多かった。

 魔力の放出の際に言葉を使い、魔法の形を整えてから使うというのが恐らく一般的なやり方だ。人間は魔力を循環させ、放出させる瞬間に放出させる部位に魔力を留め、魔法を整形してから繰り出す。

 自分は魔力を放出させた瞬間に属性を指定しなければ霧散するために言葉で詠唱をすることが出来ない。恐らく魔物の全てがそうだとするとなんとなくその違いはわかる。

 速度に秀で魔力を大量にこめて無理矢理魔力の塊をぶつけるのが魔撃であり、適切な魔力を捻り出してから詠唱で整形し綺麗な形で放出させることが魔法だ。

 だというのにミーナのやっているやり方はどちらかと言えば前者、自分が使っている魔撃のそれに近かった。だが魔物と人間の間にどんな違いがあるかはわからないが、彼女がその乱雑な魔力量だけの魔法を撃つとそれは込められた魔力量からすると微々たる威力しかないものになってしまう。原因はわからないが、おそらくルルのような先生に指示し適切な人間の魔法を教わらない限り改善は難しいだろうとバルパは結論を出し、以後の戦いは彼女のその非効率な魔法を観察していた。

 一般的な魔法使いの実力がわからない以上なんとも言えないが、これでは一人で迷宮に籠るのはいつまで経っても不可能そうである。そもそも普通の人間は一人で迷宮に入ったりしないのだが、ミーナのことをあくまで自分基準で考えてしまうあたりやはり彼はどこか抜けているところがある。

 魔力の使い方が上手くなれば化けそうではあるのだが、どれだけ観察してみても改善案は見つからない。

「まぁそんな魔法をあれだけバカスカ撃てる、というだけでも大したものだ」

「し…………仕方ないだろっ、昔流れの魔法使いのオバサンに一回教えてもらったっきりなんだから」

「そうか、だが俺も教わったのはお前から一回こっきりだぞ」

「うっせぇ‼ 事実を淡々と話すことがどれだけ残酷なのかバルパは知れ‼」

 連続で戦いをしたせいか、朝食を食べてからさほどの時間が経過しているわけでもないのにミーナの腹が鳴った。

「…………魔法を使うと、腹が減るんだよ」

「そうなのか、初めて知ったな」 

 そんなことをバルパは聞いたことがなかったし、自分の空腹と魔力量との間に関係性はないように思われたが、深く追求することは止めておいた。

 腹を満たし、体を作り、強くなることは何より大切なことである。バルパは連戦の最中に見つけていた第三階層への階段へ向かいながら、ミーナに何を食べさせようかとそればかりを考えていた。

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