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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第一巻2/25発売!!)
第一章 狩る者と狩られる者
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探り探り

 走っていて改めて思ったことがある、自分の身体能力が予想以上に向上している。自分の存在に気付いた二人から逃げるためにかなりの時間全力疾走を続けていたが息がきれていない。以前よりも速く、そして以前よりも長い時間走れている。

 検証をする必要がある、自分に何が出来て何が出来ないのかということを調べることは生き残る上で不可欠だ。

 名も無きゴブリンは自らの力を確かめるため、敢えて以前使っていた鉈と使い勝手の似ている石の斧を取り出した。そして同時に赤い鱗鎧と緑色の盾を取り出した。そのどちらからも強さを感じ取ることの出来る逸品、つまりは魔法の品(マジックアイテム)だ。燃え上がるような赤色の鎧は以前スウィフトがドワーフの国ムルガンドの王からの依頼で討伐した紅蓮龍ゾランデュルヴァッシュの鱗をふんだんに使い作成された紅蓮艷花という銘のスケイルメイルであり、緑色の盾は緑鬼王グリンドと呼ばれるユニークモンスターの皮膚をオリハルコンに張り付け作られた緑砲女王ブルトップと呼ばれる盾である。どちらも固有名がつくほどの強力な魔法の品(マジックアイテム)であり、国王に献上されれば直ちに爵位がもらえてしまうような武具だ。彼は強さを発しとても目立つ色合いの武具を装着した、離れても隠れてもバレてしまうのならばわざわざ弱い武具を使う必要などないと考えたためだ。

 魔力を感知することや他人の気配を察知することは常人には不可能に近く、遭遇した二人の冒険者がイレギュラーであったことを未だ迷宮の第二階層を出たことのない彼にはわからない。下手に危険をおかし普通のゴブリンであることを擬装するよりも強い装備を着けより強くなる方が生存確率が上がると考えるのも無理のないことである。

 鎧を着けている最中、どうせなら以前出したあの水色の服を着た方が良いなと考えた。試しに体に直接取り出すイメージをしながら袋に触れると、袖を通した状態で服を取り出すことが出来た。これは良いと鎧を一度しまい、先ほどと同様に体に装着するイメージで鎧を取り出す。すると想像通りに鎧を自らの体に着けた状態で取り出すことに成功した。そして武具も同様に身体中好きな場所に取り出すことが出来る。

 この能力は有用だと名も無きゴブリンはほくそ笑んだ。盾を連続して取り出し相手の一撃を防ぐ、武器を投げては装填し間断なく投擲を行う、有用な利用法はいくらでも思い付くことが出来た。

 自らの戦闘に新たな幅が生まれたことを喜びながら、彼は洞窟の中を駆け襲いかかってくるゴブリンを斧でたたき斬り続けた。すると五匹めの同胞の首を落としたところで紐が緩み、斧の部分が飛んでいってしまった。それを見て武器というものは永遠に使うことが出来ないのだということを理解する。 

 目的であった大部屋に辿り着いた彼は、固まって動いている十匹のゴブリンに目をやりながら袋に手を触れた。武器、と想像すると取り出せるものの一覧がズラッと表れる。たくさんの敵に攻撃の出来る武器はなんだろうと考え彼は大剣の欄から適当に一本を取り出した。

 それは真っ黒な剣だった。自分が持っていることを理解していなければ視認することすら難しいのではないかと感じてしまうほどに暗い闇の色をしたそれは、迷宮を照らす蛍石の光を反射せず吸収してしまっている。ビリビリを肌を刺すような威圧感を感じる。この武器は強い、何も考えずともそれがわかった。柄の部分は茶色く汚れた糸でぐるぐる巻きにしてあるだけのシンプルな造り、まるで剣など振れればそれで良いのだと言わんばかりの無骨さは彼にとり好ましいものであった。

 握りの感触を確かめているうち、ゴブリンの集団は目と鼻の先まで近づいていた。自分を包囲する陣形を取ろうと散開しつつ左右に分かれていく彼らを見ながら今度はグッと足が地面を踏みしめる感触を確かめる。完全に包囲されてしまう前に左の集団に飛び込んだ。

 耳障りな高音を発しながら反射的に錆びた剣を突きこんでくるゴブリンの一撃を大剣の腹で受ける、すると相手の剣が根本からポッキリと折れた。手持ちの武器を失い半狂乱になるゴブリンの腹にクルリと握りの角度を変えた大剣を叩き付ける。下手に首を狙わずとも今の力ならば致命的な一撃を与えられる、彼の予想通りにゴブリンは後ろで槍を構えていた二匹ごと後方へ吹っ飛んでいった。残りの二匹が石斧を掲げながら距離を詰めてくる、両方に対処することは難しいとグルリと前転をすると先ほど自分がいた場所に石斧が振り下ろされるのを聞き取った。前転の際大剣を放してしまったため、袋に念じ新たな大剣を取り出す。落とした大剣を拾われる前に水平切りでまとめて胴体を泣き別れさせるとすぐに新しい剣はしまいこみ、元の大剣を拾い直した。両手で剣を抱え思いきり後ろに振ると近づいてきていた二匹のゴブリンに剣がめり込んだ。半ばから背骨を折られたゴブリンはすぐ横にあった壁に叩き付けられ臓物を撒き散らした、そして横にいたゴブリンはその衝撃だけで首の骨が折れて事切れている。

 残る三匹は既に逃げ腰であり、数の利を利用しようともせずにバラバラに逃げ散るだけだったため難なく処理できた。

 そして鉄錆の香りと緑と赤の洞窟絵だけが残る、同族を殺すのは初めてではないために特に感慨を抱くこともない。

 目を瞑り自らの強さを感じ取ってみるが、戦闘前と大きな違いがあるようには思えなかった。やはり強い者を倒さなくては強くはなれないのだ、そう簡単に楽はできそうにない。まだまだ先が長そうであることが面倒であると同時、嬉しくもあった。自分は魔物、魔に魅せられたもの。以前のように本能に自分を塗りつぶされたりすることはないだろうがそれでもやはり心の奥底では血湧き肉躍るような激しい戦闘を求めている。

 落ちている武器はどれも錆びていたが、投げ捨てる用途として使うには適切だろうとひしゃげた槍以外の武器を袋の中に入れていく。

 自分はもうここのゴブリンと戦うだけでは満足が出来ないほどに強くなった、それはここに来るまでの幾度かの戦闘で理解できている。しかし戦い方にはまだまだ改善の余地がある、というか改善の余地しかない。

 力任せに叩き付け敵を殺せるのは、敵よりも力が強い場合だけだ。力が強いだけではいけないのだ、それだけではいずれ勝てなくなる。人間は自らよりも力が強いはずのゴブリンをいとも容易く倒す。時には火の玉を出し、時には一撃で敵を切り裂きながら。

 自分の身体能力に頼るだけではだめだ、そしてこの強い武器に頼るだけでは駄目だ。自分なりに納得出来るまで大剣の使い方を覚え、その上で一度人間と戦おう。

 人間を倒すことが出来れば、人間がやって来るあの二つの出口に行ってもやっていけるということだ。そして人間には敵わないなら、自分にはまだ強さが足りないということになる。時間はある、だから今余裕だからと調子に乗ってどうなっているかもわからない出口へ向かうべきではない。

 名も無きゴブリンは自分以外に生きている物のいなくなった大部屋で大剣を振るった。

 剣を水平にして撫で斬り、剣を上げてから振り下ろす。地面に突き刺さる前に力をこめて空中で静止させ、今度はそれを斜めに振り上げる。周囲の敵を一網打尽にする想像をしながら体をグルリと一回転させる、少し遅れてやってくる大剣の位置を動かしながら人間の胴体に当たるように調整を重ねる。

 一通り大剣の練習を終えると、袋に触れ他の武器も試してみることにした。大剣は気に入っていたが、もしかしたらそれ以上に自分にマッチした武器があるかもしれない。

 一回り小さな剣を取り出して見た、これは片手でも難なく振ることが出来る。一撃の威力は大剣には劣るが、その分攻撃を繰り出すための時間が短く済み、そして取り回しが利く。

 今度は更に小さな剣を取り出して振ってみる、これは剣を振っているという感じがしなかった。この長さでは相手を切り裂くというよりかは切りついたり突いたりする動作が主流になるだろう。これは明らかに相手を殺しにくい武器だ、それは彼にとり使えない武器と同義である。こんなチンケな武器は使う必要などないだろうと袋にしまおうとし、すんでのところで思いとどまった。

 これは人間の作り出した武器だ、あの人間がわざわざ使えない武器など使うはずがないではないか。自らを何度も殺しかけている人間の恐ろしさをよく知っている名も無きゴブリンはこの武器には何か想像もつかないような使い方があるに違いないと考えた。もしかしたらこの小さな形状には自分を殺すほどの何かがあるのかもしれない。そう考えると不要だと切り捨てることは躊躇われた。

 自分が握る銀色の短剣は大剣とは違い光を反射している、先端は尖り剣の厚みはないに等しい。突くならこれを使うよりも槍を使った方がマシなはずだ。では突くためのものではない?

 考えるうち彼はなんとなく理解した、これは一人ではなく複数人で戦う人間のための武器に違いないと。

 まずこの短剣は軽い、女でも力のない者でも振り回すことが出来る。投げることも出来るだろうし、重い盾を持ちながらでも使うことが出来るだろう。

大きな傷はつけられなくとも相手の注意を逸らす程度の攻撃は出来る、おそらくこの部分がキモなのだ。

 非力な者達がこの武器で注意を引く、何度も攻撃を重ね相手を苛立たせる。遠くからこれを投げられればそちらに意識を向けざるを得ないし、盾で身を守りながらチクチクと攻撃を加えられるのはそれは腹が立つだろう。

そして機が熟すのを待ち、大剣や火の玉のような一撃を相手にぶつけ相手を倒すのだ。自分が倒す必要などない、誰か他の人間が殺せば良いという役割分担。個ではなく群としての力。

目から鱗が落ちる思いだった。自分がお山の大将となり群れを引き連れていたのとは一戦を画すその戦い方、役割を決め自分達よりも強い生き物を倒すそのスタイル。

そんな風に知恵を搾る人間とどう戦えば良い? どう戦えば勝てる?

彼は人間の強さがまだまだ自分の及ばないものであることに喜色の色を浮かばせながら短剣で色々な攻撃方法を模索し始めた。自分がその戦い方を身に付ければ更に強くなれる、そのことで彼の頭はいっぱいだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゴブリンの勇者はゴブリンの英雄的なものではないのか?誰にとっての勇者? 人間と戦おうとしているし、同属殺しまくってる。ダンジョン内でモンスターどうしが争うことも、ユニークだからだとして…
[一言] すげえこのゴブリン、俺より頭いい
[気になる点] これは明らかに相手を殺しにくい武器だ、それは彼にとり使えない武器と同義である。 →取り扱えない武器
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