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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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空腹と飢餓

「いらっしゃいいらっしゃい、今なら薬草安く売っとくよ‼ お偉いさん達が来て高騰する前に買っときな‼」

「ニシキガエルの串焼きが今ならなんとたったの銅貨三枚‼ 毒抜きの免許持ちが捌いた珍味はどうかね‼」

 門を抜けるとすぐに一本大きな道が通っていた。街を左右に分断するほどの大通りは、予想通りに人の軍団達によって占拠されている。通りの脇を固めるように人間達が何十人と群れをなして座っていた、休憩をしているのかとも思ったがどうやら違うらしい。あんなに声を張り上げていては休めるものも休めないだろう。

 人の群れを見て根元的な恐怖を感じたバルパは、入った瞬間に危うく魔撃を密集地帯にぶちこみそうになった。だがこんなことろで戦闘に突入したとしてミーナを守りながら戦い、そして自分達二人のことを知るもの全てを殺すことは不可能である。魔力感知を発動させれば今視界に広がっている人間のほとんどは魔力がない者達だ、それを知りバルパの心はとりあえずの安寧を保つことが出来た。

 無論相手が魔法を使えないというだけで完全に安心出来る訳ではないが、以前にルルから聞いていた戦えない人間というものの存在を聞いていたことも大きい。今見るだけで何人もまともに戦えそうにない人が見えている。痩せて剣すら持てなそうな非力な少女や太りすぎて自分の腹の下からの奇襲を見抜けなさそうな男が魔力無しなのだから彼らは本当に戦えないのだ。戦えないのなら強いものに殺されるだろうに、不思議なものだとバルパは首をかしげた。

 しかしこうやって見ると人間にも色々な者達がいる。ミルドの街を抜けるときはスレイブニルの靴で無理矢理空を駆けて大脱走を行っていたためにそれほどの余裕はなかった。

 子供も居れば大人も居て、そして年を取った人間もいる。自分の知るゴブリンは全員ほとんど同じ年齢で、生まれてはすぐ死ぬような存在でしかない。種族の差とその種族の総和としての力量差に、バルパは黙らざるを得なかった。

 少しだけ硬直はしたが、後ろからミーナにせっつかれたためにそろりそろりと通りを歩いていくバルパ。通りには燃やすための木材を建てて何かを焼いているやつらがいた。

 手伝ってやろうと魔撃を使うため体に魔力を循環させてから、そういえばミーナが何かするときは自分に相談してからにしろと言っていたのを思い出す。

「なぁ、あの肉を焼いている場所をまるごと焼いても良いか?」

「…………ごめん、もうちょっとわかるように言って」

「あの場所は木で出来ている、そして木とは燃やすものだ。それだというのにあの女は自分の周囲を焼いていない。そうした方が早く肉を焼けるというのにだ」

「…………あのさ」

「なんだ」

「絶対そんなことしちゃダメだからね」

「なぜだ」

「木は燃やす以外にも使えるからさ。……あっち見てみな」

 ミーナが指した方角をバルパも向く、そこには今にも燃やして欲しそうな家が立ち並んでいた。

「あれは木を住むために使っているんだ」

「住む、とはなんだ?」

「休むってことだよ、人間は何日もぶっ続けじゃ動けないんだ」

 そのまま話を聞いてみると、どうやら木というものは焼く以外にも色々使い道があるらしい。武器も敵を斬る以外にも肉を切り分けることが出来ると思えば理解できた。

 そしてこうやって人間達が出しているものは露天というらしい。ここにあるものは全て金で買えるのだそうだ。またここでも金が出てくるのかとバルパは金というものが少し怖くなった。

 露天の脇で寝ている女性を見て、そういえばルルは毎日休まないとしっかり動くことができなかったなと記憶を掘り返す。バルパは今はどこにいるとも知れぬ彼女のことを思いだし少しだけ寂しい気持ちになった。

「そこのお兄さん‼ 串焼きはいらないかい? 今なら安くしとくよ‼」

「……ん、俺のことか?」

 ゆっくりと歩きながら今と過去を重ねていたバルパに声がかかる。前を見たがどこにも人間の姿がない。下を向くと小さな少女の姿が視界に入った。

 自分が以前着ていたボロい布切れ一枚を身につけているだけで、丸腰だ。それに服に隠れていない部分を見るだけで痩せているのがはっきりとわかる。痩せていてお腹が減っていては強くはなれない、それは彼が知っている真理の一つだった。彼はある程度の飢えには耐えられるがやはり何日も腹に何も入れなければ剣筋は鈍るし、ミーナもルルも空腹になれば明らかに動きに精細を欠いていた。

 目の前の女の子のように人間の中にも機会を与えられない者はいるのだなとおとがいに手を当てるバルパ。

「もちろんそうさ‼ 可愛い年下の彼女を連れてるなんてニクいねぇこのこのっ‼」

「か、彼女なんかじゃ……ないしっ……」

「そうだ、彼女じゃない。それに肉もいらない」

「そ、そうかい」

「肉がいるのはお前だ」

 そう言ってバルパは無限収納の横にある普通の袋から銀貨を三枚ほど取り出した。

「俺の肉は旨いからやらん。だからそれで肉を食え」

「え……どゆこと?」

「金があれば肉が食える。肉が食えれば戦える。戦えば強くなれる。そういうことだ」

「……あ、ありがとっ‼」

 バルパはしきりと礼を言ってくる女を見送った。それを傍で見ていた人間達が自分を奇妙なものを見る目で見つめている。後ろから咎めるような声がやってくる。

「……下働きの孤児なんかに金をやるなんてやってたらキリがないよ」

「俺は金などいらん、聖貨で武器を買う以外には金の使い道などない」

「あんな風に誰かに金をあげてたら、聖貨なんてすぐになくなっちゃうよ」

「……そうか、ならもうやらん」

「わかったなら良い、ほら行くよ」 

 バルパは遠くからこちらを見ている幾つかの子供の視線を感じた。目をやってみればみんな先ほどの少女同様、痩せてみすぼらしい格好をした人間達だ。なるほど、一つあげれば何個もあげなくてはいけなくなる。だが最初からあげなければそれをとやかく言われることはない。ルルに対する甘味と一緒だ。最初からシュークリームなどないと言っておけばわざわざ食事の度にせがまれることもない。それと同じなのだ。

 それにここは人間達の集まる場所だ。ゴブリンですら仲間が死なないように食事を分け合うくらいのことはするのだから、放置していても問題ないだろう。

 バルパは人間達の視線を感じながら、自分の手を引っ張り先導していくミーナについていった。

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