道
「俺は国を作ろうと思う」
バルパは胸の内から表れた気持ちを、改めて言葉に直した。
以前からなんとなく考えてはいた。
もやもやとしていて掴みようのない曖昧なものを、明確に意識したのはこの瞬間だった。
バルパが以前より考えていた、弱者がただ虐げられるだけではない世界。
平等ではないにせよ、誰にもある程度の世界が開けているような場所。
今まで幾つかの国や集落を見て回り、様々な世界を渡り歩いてきたバルパは、自分が望むものがこの世にはないことを悟るに至ったのだ。
「こっち側に、ってことだよね?」
「もちろん。こちら側には王国のような強力な統一国家は存在していない。どこかで一旗揚げることは、そう難しくはないはずだ」
だがないのならと諦められるほど、バルパは殊勝にはできていない。
この世界にないのなら、新たに作り出せば良いだけの話なのだ。
だが国というものを、集団をどうやって統率していくのか。
余所から横やりを入れられずにどのように運用していくのか。
どこに作ればいいのか、そもそも本当にそんなものが作れるのか。
戦闘以外に興味のないバルパには、簡単に答えは出せそうになかった。
なので彼はそれを、自分流に解釈することにした。
こちら側の魔物達の世界は、力こそ全てという風潮が大きい。
かつて存在していた魔王達は、その圧倒的な力で敵をなぎ倒して王に君臨したのだという。 だとすればバルパも、彼らと同じことをすればいい。
敵対する者を殴りつけて服従させることで、勢力を拡大していけばいいのだ。
しかし、力任せに相手をぶん殴るだけではいけない。
そんなことをしては、今ある国々となんら変わらない、新たな弱肉強食の世界が生まれてしまうだけだ。
力と支配、自由と平等。
それらを両立して行く必要がある。
そのために何が必要なのか、バルパにはわからない。
しかし自分にわからないのなら、他の者に聞けばいいのだ。
誰かに頼ることができる幸運によって、彼は何度も助けられてきたのだから。
「とりあえず、一度リンプフェルトに戻るというのもアリだな。ヴァンスに話を聞いてもらうのもいいかもしれない」
「その前にダンにも話をしなくちゃ、あと皆にも」
「当たり前だな」
知識量という点ではリィに軍配が上がるだろうから、彼からも話を聞くべきだろう。
色々と見聞きした上で、それでもダメだというのなら……多少強引なりとも、現状を改善することを目指そう。
今この世で最も悲しみに満ちている場所は海よりも深い溝よりこちら側にある、魔物達の領域だ。
これ以上の惨劇が繰り返されぬよう、手を打つのは急務だろう。
そう考え出すと、もう一刻の猶予もないような気がしてくる。
バルパは考える時間は長いが、なすべきことを理解さえすれば動き出すのは早いのだ。
「行こうミーナ、お前の力も必要だ」
「……ふふっ、うん、わかった」
ミーナを引き連れて、バルパは急ぎ皆のところへと戻ることにした。
帰路につく際、こう思った。
自分とダンの目指すべき場所は、果たして一つの出口へと繋がっているのだろうか……と。