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 ミーナが空を見上げる。

 月は白い光を発しながら、踊り子のように無分別に自分の魅力を振りまいている。


「バルパは、どうしたいの?」

「俺は……」


 どうしたいのだろうか。

 それを言葉にすることは難しかった。

 抽象的な言葉を口にすることはできる。

 ただミーナが欲している物、そして自分が求めているような答えではないのはたしかだ。


「俺は……」

「うん」

「ダンのように、下層にいる人間全てを拾い上げようというほどの崇高な志はない」


 事実だった。

 バルパは弱者に救いの手を差し伸べようとする心構えを持っている。

 だが彼は、弱い者全てを助けようと考えるような福祉の心は持ち合わせてはいない。

 そういった面で、奴隷というものを根絶しようとするダンとは根本的な思想が違うと言っていい。

 彼が求めているのは、自助努力が欠如していないような人間に対して助けを出せるような、そんな一種のセーフティーを作り上げることであった。


 頑張りが報われるとは限らない。

 しかし頑張って報われる可能性、その全ての芽を摘み取るようなことがあってはならない。 漠然とそんな風に思っているのだ。


「あらゆる者に、均等な機会を。俺は奇跡的に、こうした立場に居ることができている。自分で言うのもなんだが俺のケースは流石に出来過ぎている。別にここまでを求める必要はない」


 ただ、頑張ればスラムの子供でもある程度の栄達が見込めるような。

 そんな世の中を作りたいと、そう思っているのだ。

 今まで明文化こそしてこなかったものの、バルパの心の底にある思いはこのようなものだった。


「バルパはそのために、何をするの?」

「何をする、か……」


 強くなる、ということが答えになる時期は既に終わっていた。

 自分が強者になる、というのはあくまでも生き残るための手段でしかなかった。

 かつては生きる上での目的であったそれは、今やバルパの行動垂範たり得ない。


 誰かを守るためには、強さが必要だった。

 だが本当の意味で守るためには、強さだけでもダメだということを世界は教えてくれていた。


 例えば、あれだけの強さを持っていながら国のお偉方の意見を聞かずにはいれないヴァンス。

 更に挙げるなら、強くともそれだけに頼らずあくまでも人間世界の内側から世界を変えようとしているダン。


 二人のように、自分も大事を為そうとするのなら具体的な何かを必要としているのだ。

 未だそれは、どうすればいいのかわからないほど漠然としたものではある。

 しかし一応の答えは、こうして考えてみると案外簡単に出た。


 バルパは眼下に広がっている雲を見つめ、それからゆっくりと顔を上げる。

 目の前には初めて会った頃と比べると、随分と大人びているミーナの端正な顔がある。

 バルパはその造形美には臆さず、一切目線を逸らすことなく続けた。


「俺は……守りたい」

「何を?」

「虐げられている、亜人、魔物、人間……全てをだ」

「どうやって?」


 方法を尋ねられても、バルパの態度は変わらない。

 彼は己の大望を果たすための方法が一つしかないと、誰に言われるでもなくはっきりとわかっていた。

 俺は……少しだけ言い淀んでから、全てを振り切ったような清々しい顔で続ける。


「俺は……国を造りたい」


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― 新着の感想 ―
[一言] 多分これをずっと待っていた
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