表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
385/388

違い

 生き物というものは、周囲の外的環境によって大きく変わらざるを得ない。

 つまりバルパという一体の魔物もまた、現状を打破するためには変わらなくてはいけないのだ。


 自分は生き残るために強さを求めた。

 しかし今はどうだ?

 そんなことをしなくても、例えばひっそりのダンジョンの奥深くで生きていくことなら、問題なくできるはずだ。


 だとしたら今自分は、なんのために強くなろうとしている?

 バルパは自分が、強くなるために強くなっている―――つまりは手段と目的が逆になっているような感覚を何度も覚えていた。


 最早今の自分は、強さを追い求める必要などないのではないか?

 自分以外の仲間達も、皆それぞれ強くなっている。

 だとすればわざわざ命の危険を冒す理由などないはずだ。


 バルパは戦いが好きだ。

 それは魔物の本能に裏打ちされた生存本能とでもいうべきものであり、もはや彼と切っても切り離せないほどに不可分なものである。


 魔物だから戦うのか?

 否、自分は弱者を守るために戦うと決めていた。


 だが今、かつて勝ったことのあるダン相手にも負けるような体たらくを晒している。

 その理由は肉体的な強さにあるのか?

 それとも思いの強さにあるのか?


 ―――そうかもしれない、いやそうに違いない。

 スウィフトと話し、ヴァンスと話し、色々な者達の強さの成り立ちを知り、彼は心の力が及ぼす作用とでもいうべき何かの存在を、たしかに感じていた。



 バルパには強くなりたいという気持ちはある。

 その強さなら、誰にも負けていないという自負はあった。

 だが彼の考えは具体性に乏しかった。

 あまりにも抽象的に過ぎるのだ。

 漠然とした思いだけでは、何かを為すことは出来ない。

 バルパはダンの話を聞いて、そう強く思った。


 ダンは奴隷というものをこの世界から消し去るべく各地で運動を続けているらしい。

 弱者を守るという茫漠とした考えではなく、それをしっかりと目的へと結びつけて邁進している。


 対して自分はどうだ?

 強くなる、仲間を守ると息巻いてただ戦い続けているだけだ。

 真竜と知己を得ることができ、結果として咒法という新たな力を手に入れるきっかけはできた。

 だがそれは彼の気持ちとか思いとかそういった部分とは関わりのない、多分に運によるものの大きいである。


 ダンを負かすだとか、咒法を究めるだとか、いずれヴァンスを倒してみせるだとか。

 そういった強さに関わっている一切合切は、実はバルパというゴブリンが辿り着く結論に大きく左右されるのかもしれない。

 バルパとしては己がどうするか、その具体的なところを決めなければダンのようにしっかりと前を向いて戦うことができないような気がしていた。


 強くなるために何をすればいい?

 仲間を守るためにはどうすればいいのだ?

 ウィリス達のような奴隷達が辛い思いをしなくても済むような、日銭を稼ぐことすらままならぬ子供達を食わせていくためにはどうすればいい?

 誰にでも機会が与えられ、成り上がる機会がある世界というものをどうしたら作れる?


 自問し、自答する。

 わからないことは保留とし、わかることだけを埋めていく作業だ。

 回答欄をとりあえず埋めたなら、あとは残った空白をそれから考えていく。


 強さを求めるからこそ、強さ以外の何かを持たなくてはいけない。

 ダンはそれを奴隷撤廃に置いた。

 ルルやミーナは、自分で言うのもあれだがバルパに追いつこうという一点にそれを置いた。 ヴァンスは全てを跳ね返すために強さを手に入れた。

 だとしたら―――俺は?


 俺は一体、どんなことのために強くなるんだ?

 仲間を守る必要はもはや薄れている、彼女達は自分が守らねばいけないほど弱くはなくなった。

 十分に強くなったのだ、己の身を守ることができるくらいに。

 だとしたら今や宙ぶらりんになっている、バルパはどうすればいい?


 俺は………どうすれば………?


 戦いながら考え、睡眠時間を削り考え、食事や排泄の時間も考えても答えは出なかった。

 彼はダンに一旦休息を置くことを提案し、リィ経由でそれを全員に伝えた。


 皆に会おう。

 仲間である彼女達と話せば、答えが出せるかもしれない。

 朧気ながらに見えている、問いへの答えが―――。


 折しも竜の渓谷において、バルパが皆を集めたのは一年に一度の祝祭である龍神祭の日だった。

 竜達と共に、バルパ一行も久しぶりに羽根を休めることとなったのである。

 だがその中でバルパだけが、答えを出すためにもがき続けることとなってしまう。

 結局どれだけ修行をして人と関わっても、彼のそういうワーカホリックな一面は簡単には治りそうになかった。


次回更新は7/3です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ