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生きるとは

 バルパ達が修行をしている最中、リィが何度か様子を見に来ることがあった。

 その際にダンは、彼から直接咒法の基礎を習っていた。

 内容自体はバルパが受けた物と同じはずだったが、何故か習熟度はすぐに追い越されてしまったのである。

 二人の差は一体どこにあるのだろうか。

 自分の才能がないのだと思っていたバルパに対し、ダンはそれを否定して答えとした。


「僕の見立てによると、咒法というのは実のところそこまで異様な技術じゃない」

「だが魔法とは違う。咒法は魔法のように属性があるわけでもなければ、それぞれがあまりに独立しすぎている。一つ一つの差異が大きすぎて、俺には習得は難しい」

「確かに結果から見ればそうかもしれない。でも実際にはその根源自体は魔法とそう大差はないように僕には思える。きっとバルパは今まで、自分がどうやって魔力を使うか深く考えてこなかったんじゃないかな」


 そんなことはない、と否定する前にダンの言葉について考えてみる。

 先に始めたにもかかわらず、バルパは既に彼に抜かれてしまっている。

 その原因は魔力の使い方にあるとダンは言っている。

 だが自分は他の誰よりも、魔力の使い方について考えてきたという自負がある。

 魔撃も纏武もそのおかげで身につけることができたのだから。


 いや、もしかするとアプローチの方法が違うからなのか?

 空中浮遊で一つ学びを得たバルパはそう考えた。

 もしかすると自分はまた袋小路のような物にはまっていて、そのせいで本来得られるべき結果が得られていないのかもしれない。


 ではそもそも魔力とはなんなのか。

 そう考えたときのバルパの答えは、魔撃を使うために必要なエネルギーというものだった。 だがそもそも魔力というものは、魔法や魔撃というものがなくともこの世界に存在している至って自然な物だ。

 魔力を帯びた物品は魔法の品となり力を宿し、魔力を大量に保有している魔物はそれだけで他の者よりも強くなる。


 今のバルパの考え方は、恐らく正解ではない。

 それなら一体、魔力とはどんなものなのだろうか。

 ダンに聞いてみると、彼は簡単だよと前置きをしてからこう述べた。


「魔力とは、思いを現実に叶える力だ。攻撃や防御をするためでも、生命維持のためでもない。魔力というのははもっとシンプルで、それ故に奥深い物なんだと思う」


 魔力というのは攻撃や身を守るための手段ではなく、思いを叶える力そのもの。

 そんな考え方は、一度としてしたことがなかった。

 バルパの生とは、即ち闘争であった。

 戦うこと、争うこと、生き残ること。

 それだけが彼にとって重要なことだったのだ。

 魔力を己の生のために使用するのだという意識は、勇者スウィフトを殺してから長い間ずっとバルパの指針たり得ていた。

 だがその考え方を、改めた方が良いのかもしれない。


 強くなるためには、強さだけを追い求めていてはいけない。

 ヴァンスはかつてそう言っていたことがある。


 戦いに明け暮れてきた自分の生は、間違ってはいないと思っている。

 しかし生というものは元来、色々な意味をはらんでもいるものだ。

 生きるとはなんなのだろうか。

 自分は死なぬために、生き延びるために強くなったはずだ。

 ある程度強くなった今は、早々死ぬこともないのは間違いない。

 それなのにバルパは未だ、強さを追い求め続けている。


 生とは何なのか、強さとはなんなのか。

 今まで漠然とした思いを、具体的な物へと変える必要があるのかもしれない。

 バルパはダンと話したり、模擬戦をしながら色々な物を見つめ直そうと決めた。

 彼の生き方、その根本を変える。

 そしてこれから先の未来と、その指針を組み立てる。

 少し遠回りかもしれないが、それがきっと己が強くなるためにも、そして生というものに意味を持たせるためにも必要になってくるはずだ。

 バルパは今、己という魔物の岐路に立たされていた。

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