どうだったんだ
とりあえず戦闘が一段落ついたので、二人は食事を共にすることにした。
パチパチと爆ぜるたき火の音をBGMにして、二人で肉を焼き上げる。
材料はバルパの無限収納から取り出した、ドラゴンの肉だ。
今回のものは死ぬまでに太っていたのか、かなり脂身が多い。
だが疲れには効くだろうと、バルパはそれを勢いよく燃える火にくべていた。
そして焼くのと同時進行で、一つ大きめの皿を出してその上に葉野菜を乗せていく。
色んな人達に言われているせいで、最近は少し野菜も取るようにしているのだ。
全く美味しいとは思えなかったが、身体を作る要素として食事は重要だと言われてしまえばそういうものだと割り切るしかない。
「ダン、お前も食べるといい」
「うん、それじゃあ」
バルパは上に軽く塩を振り、手づかみで野菜を取る。
そしてマズそうに顔をしかめながら、もっちゃもっちゃと咀嚼した。
その顔があまりにも渋そうなので、後に続くダンも恐る恐る口に入れるが、案外悪くない。 見たことはない野菜だったが、少々青臭いだけで食べられないことはなかった。
ただ苦手なだけなのかと思い、ダンはバルパも分も野菜を口へ入れていく。
「…………」
「…………」
そのまま肉が焼けていくのを、二人はジッと見守った。
中に刺した串をクルクルと回転させながら、焦げぬよう焼き加減に気をつけて調理を行う。
ダンはちらとバルパを見て、見た目上の変化がないことを確認していた。
バルパは魔力感知を使って、ダンの身体が安定しているかどうかを観察していた。
ダンは元は聖光教によって作られた人造人間であり、人の手で勇者を作ろうという考えから生み出された実験体だった。
バルパの持つ秘薬により彼は人間へ生まれ変わり、少なくとも投薬はせずに生きていけるようになったはずだ。
魔力は安定しているようで、以前と比べると少し増えているようだった。
一度人間になったことで魔力が減ったのだが、今では以前と同程度にまで魔力量が増えている。
人間の身体になり、成長するようになったのだろう。
「何か不都合はないか?」
「……いや、特にはないかな」
「そうか」
「うん」
「……」
「……」
かつては殺し合った仲だが、今は別にそう悪い関係ではない……はずだ。
ただ元来二人とも喋るようなタイプでもないので、沈黙の割合が高いように感じるだけだろう。
調理が終わり、肉を頬張ると二人の顔が綻ぶ。
食事はどんな時でも疲れを癒やしてくれる、活力の源だ。
「そういえばここは、どこなんだい? どうしてこんなジャングルの中にいるのさ」
「竜……真竜に連れてこられた、修行の一環でな」
「……ごめん、ちょっと端折りすぎだよ。もう少しわかるように説明してくれないか」
バルパは呆れるダンに、ここに来るまでのおおよその説明をした。
真竜の子供と戦ったり、死体を渡したり、その見返りとして竜の渓谷へ行くことになったり。
実は別れてから時間はそれほど経っていないのだが、かなり色々なことがあった。
強くなろうということで精一杯で気にかけてもいなかったが、どうやら自分は濃密な時間を過ごしていたらしい。
「ふぅん……それで竜の魔法を使うために、ここで修行をしてるんだ」
「そうだな、行き詰まっていたが」
「あれ、それならなんで僕がここに飛ばされてきたの?」
「打破するための練習相手として適切なのは誰かと思ったら、一番に出てきたのがダンだったからだな」
「へぇ……そうだったんだ」
リィという竜に自己紹介されて、問答無用で送り飛ばされたとダンは口にした。
何故か彼の言葉は、嬉しそうに語尾が上がっている。
食事を済ませたからか、機嫌は良さそうだった。
こいつも人間になったからか、測れない部分が多くなってきた。
だが前に別れた時よりはかなり、感情表現が豊かになっているように思う。
お前の方はどうだったんだとバルパがお返しに質問をすると、彼はなんでもないことのようにこう答えた。
今は商会を経営してる、と。
自分が想定していた答えの斜め上を行かれ、バルパはただ目を点にすることしかできなかった。
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