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奉納

 戦いはどちらが言い出すまでもなく、至って自然な形で始まった。

 まるで最初から二人が出会ったその瞬間から戦うことを宿命づけられていたかのように。

 バルパとダンは争い、競い合う運命にあるかのように。


 ダンが収納袋に手を入れる。

 それを見てバルパは無限収納インベントリアから聖剣を取り出した。


 ダンの右手が出てくる。

 その手には剣の柄が握られていた。

 収納袋を鞘に見立て、剣が滑るように居合いの要領で放たれる。

 バルパはその一撃を、聖剣で受けた。

 纏武を使っていない、素の状態での一撃だ。

 ただ相手もバフの魔法をかけていないからか、ぶつかり合った剣はつばぜり合いになり、金属同士が擦れ合う軋りのような音が鳴る。


 刃が合わさったところからやってくるのは、重さを伴ったたしかな手応えだ。

 互いに素の身体能力のまま戦うのは初めての経験だったが、どうやらさほど力の差はないように感じられる。

 バルパは聖剣を握りながらも、剣の力を解放することなく力を入れた。


「フッ!」


 バルパは剣を力任せに振り抜き、大振りの一撃を放つ。

 膂力は同程度であっても、自分とダンでは使っている得物の質が違う。

 握っていた聖剣はダンの持っていた魔法の武具(マジック・ウェポン)の剣を、強引に断ち切った。


 ダンはなんの未練もなく上下に分かれた剣から手を放し、再度収納袋へと手を入れる。

 その反応の自然さから考えると、バルパの対応の仕方は織り込み済みだったらしい。


 一閃、刃が反射する光が一本の線に見えるほどの速さの居合斬りがやってくる。

 バルパはその剣を再度切り落とそうとし、すぐに思考を変えて地面にしゃがみ込んだ。


 ダンの横凪ぎが空を切る。

 彼が一撃を放ったのちの間隙を狙い、曲げていた足を伸ばし一気に接近した。


 するとそのバルパの反応を見たダンが、歯を食いしばりながら自らが持つ得物を投擲してくる。

 バルパとしてもその対処をせざるを得ず、聖剣は再度魔法の武具を切り落とした。


 ダンがその様子を見ながら、大きく後ろへ下がる。

 そして彼は空中へ駆け上がり、制止した。


 ダンの背後に、虹と同じ配色をした七色の珠が浮かび上がる。

 それはかつて戦ったときにも使われた、ダンのオリジナル魔法スペル


「輝くもの、天より墜ち」


 バルパの魔撃とダンの魔法では、熟練度に天と地ほどの差がある。

 ただ魔撃を使って迎撃しただけでは押し切られるのは目に見えている。


 明らかに使うことになる武具や力に差が出てしまうが、バルパとしてもただ攻撃を食らうだけで終わっていいとも思えない。


聖剣解放(ヴァルシュティーラ)!」


 バルパは真竜との戦い以来唱えていなかった聖句を唱え纏武を発動。

 己の体内を循環した魔力を聖剣の持つ増幅の力で加速させ、魔撃の効力を上昇させる。


 己目掛けて打ち出される虹色の光球を、目視しながら避けていく。

 以前は一斉に打ち出されていたと記憶していたが、今は完全に制御下に置いているのかバルパの逃げ道を塞ぐような形で時間差で放たれている。


 自分が特訓をしていた間、ダンもまた戦っていたのだろう。

 直接顔を合わせて語り合わずとも、戦いで見せる力の端々から相手がやってきたことを読み取ることはできるものだ。


 バルパはダンの放った攻撃を完全に避けきった。

 そして一つ頷き、無限収納からとある物を取り出す。


 ダンのように居合いでもやってみようかとも思ったが、下手なことをして失敗してもつまらない。

 バルパは握ったその剣をダン目掛けて放り投げた。


 パシッと軽い音を立ててその剣―――かつて魔王が使っていた魔剣がダンの手に再び握られる。


「片方だけが使っていては、フェアではないだろう?」


 バルパは笑いながらそう問いかけた。

 ダンは言葉を返さず、笑みを返してくる。

 正眼に構えるその体勢が、しっかりとバルパの方を見返してくるその態度が、百の言葉に勝るほどにダンの気持ちを示してくれる。


 二人の影が交差する。

 互いに剣を振り汗を流すバルパとダンの顔に浮かぶのは、獰猛な笑みであった。

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