戦人
降雪地帯、砂漠地帯と来ているので、次にたどりつくことになる場所も、恐らく一筋縄ではいかないだろう。
そんなバルパの予想は、しっかりと当たっていた。
ウィリスが居たのは雷鳴の轟く孤島で、ミーナが放り出されていたのはマグマが湧き出る活火山の側面だったのだ。
バルパの仲間達が修行のために飛ばされている場所は、どこも今まで見たことのない新たな知見の得られる場所であった。
恐らくは個々人に最も適切な場所を、リィが選んだのだろう。
ルルは彼女の持つ聖魔法の結界の作成能力を最も活かせる砂漠地帯。
ヴォーネがいたのは刻印術を長時間使用し続けるための寒冷地帯。
そのどちらとも、少し考えれば修行に最適なものを選ばれていることに気付くはずだ。
残る二人、ウィリスとミーナに関しても同様である。
ウィリスが雷を吐き出す雲が空を覆う孤島に連れられたのは、恐らくは彼女の持つ精霊術を強化するため。
雷を出させるようにするか、もしくは雷のような強力な自然現象を模倣させるためだと思われる。
精霊術と言うのは、簡単に言えば自分の魔力では無く大気に存在している魔力を使って発動させる攻撃方法のことを指している。
根本からしてバルパの魔撃とは異なるために、彼女の修行内容は全くといっていいほどバルパの役には立たなかった。
俺を倒せるくらい強くなってくれというバルパの言葉に、ウィリスが当然よと答えたのは、言うまでもないことである。
ミーナが活火山の麓にいたのは、恐らくは彼女の得意な魔法の属性が火であるためだろう。 火属性の魔法の練習には、ああいった場所の方が適しているのか。
もしくはなんらかの条件が修行場所として適しているのかもしれないが、彼女の修行も至極順調そうに見えていた。
ミーナの魔力量はバルパよりも上であり、無茶をしなければ魔法を放ち続けることができるだけの余裕がある。
それほど集中力が高いわけではないため、ある程度途切れ途切れにはなるだろうが、バルパを除けば最も練習量を積むことができるのは彼女であるはずだ。
ミーナの習っている咒法は、簡単に言えば出現させる炎の温度をより高温にさせるためのものらしい。
基本的に火の温度は魔力量や条件付けによって変化するが、咒法を用いることで更に高度で、高温な火を生み出すことができるようになるのだという。
バルパだって一撃だぜ、とはミーナの談だ。
できれば自分に撃って欲しくないと彼が思ったのは、言うまでもない。
こちらもウィリス同様、それほどバルパの問題の解決の糸口になるようなヒントはなかった。
とりあえず全ての仲間達の修行を見て、バルパは再度自分の修行場所である熱帯雨林へと戻ってきた。
そして再度修行を開始し魔力による飛翔を目指した訓練をし始めたが、やはりあまり上手くはいかなかった。
修行再開をしてから一週間ほどが経過し、経過を確認するためにリィがやってきた。
「どうやら、中々に苦戦しているようだね。僕がヒントを与えてもいいけれど……それじゃあ面白くない。何か要望はあるかい? きっかけを与えてみれば、何かが変わるかもしれない」
リィのその言葉にバルパは考え込み、少し時間をもらった。
自分の修行が上手くいかなかったことは、かつて何度もあった。
そしてそういった場合の一番の解決策とは、いつの時も手に汗握る激闘であったのだ。
恐らくは自分を追い込まなければ、自分という存在を崖へと追い込まなければ活路は開けない。
バルパは戦いたいとそう強く思った。
考えることでの解決が見込めなくなったからこそ、ストレス発散のためにも悪くはないはずだ。
その場合、一体誰と戦うかということを考える。
この竜の渓谷には、リィを始めとする真竜が数多く存在する。
しかしバルパは以前幼生と戦ってほぼ互角の実力だったため、一般的な竜達と戦っても強さに開きがありすぎてまともな戦闘にはならないだろう。
ある程度実力が拮抗しており、戦っていてスリルも興奮も得られるような存在。
バルパはそこまで思考を至らせ、口を開く。
「一人呼んでもらいたい男がいる。転移魔法陣をどこか別の場所へ飛ばすことはできるか?」
「基本過干渉はしない主義だから、僕が行って呼んでくるよ。その人間の名前と特徴を教えてくれ」
「呼んで欲しいのはダン。元々人造人間で今は普通の人間になっている、俺と同等の魔力量を持つ存在だ」
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