新たな気付き
次回更新は元旦です
みなさま、良いお年を
「ほう、ここは……」
リィが残した転移魔法陣を越えた先は、バルパが訓練をしていた熱帯雨林とは正反対と言っていい場所だった。
思わず感嘆の言葉をこぼすバルパの吐息が、白く変色して空気に溶け込んでいく。
吸い込んだ空気は肺腑に突き刺さるようで、どこか息苦しさすら感じさせた。
バルパの周囲をまるごと取り囲むかのように、何か白く小さな物が降り注いでいる。
そのうちの一つを取ろうと手に乗せてみると酷く冷たかった。
そして一瞬のうちに、溶けて消えてしまった。
今自分に、そして周囲に降り注いでいるこの白い物体が何か、彼はそれを知識として知っている。
雪、と呼ばれるものを実際に目にするのは初めてのことだった。
今まで熱いところにいた分、より寒さを強く感じられる。
元々熱さにも寒さにも強いため、耐えられないということはない。
だがあまりにも冷えすぎた場合、戦闘にも支障が出る。
武器の握りと皮膚が凍ってくっつくような事態は避けたかったので、手に持っていた聖剣は無限収納の中へと入れようとした。
そしてすんでで止め、少しだけしまうのを待つことにした。
この場所は、今まで一度も経験したことがないような寒冷な地域だ。
これほど冷たい場所で、自分の体がどれだけ動くのか。
それを試してみたい気持ちに駆られたためだ。
バルパはまず魔力感知を使い、周囲に魔物や人間がいないことを確認した。
そして安全を確かめた上で、走行や相手を想定した戦闘を一通り試してみることにした。
「動作のキレがなくなっている。戦闘能力は、大体普段の七割から八割程度か」
白い息を吐きながらぐるりと首を回すバルパ。
冷えているせいかいつもより疲れるのも早い気がする。
そして時間が経過し、体が強張れば強張るほど身体パフォーマンスが落ちているというのがわかった。
もし寒冷地帯で戦闘が行われる事態に見舞われたのなら、その時は短期決戦を行う必要があるだろう。
魔撃を試してみると、どの属性も問題なく発動することができた。
火属性の魔撃を使う際にいつもよりも少し魔力が必要だったり、氷属性の魔撃の威力が気持ち高くなっているような気もしたが、あくまでも誤差の範囲内のことであった。
最後に一応纏武を試してみると、面白いことがわかった。
火属性纏武灼火業炎を使った際に、芯から冷えていたバルパの動きがほぼ普段通りに戻ったのだ。
どうやら纏武には純粋な戦闘能力の強化以外にも、隠された効果があるらしい。
雷・聖属性で試しても寒さは全く取れなかったが、火属性の場合のみまるで普段暮らしている場所のような温かさを感じることができた。
どうやら火属性の纏武には、デフォルトで自己の体温調節機能が付いているようだ。
極寒の地、恐らく生命が生きるのに全く適していない場所。
己の吐く息は温かく、それは自身の体から熱が流れ出してしまっているかのような錯覚を受ける。
しかし新たな環境に来て、新たな発見をすることもできた。
行き詰まっていた修行の解決策が見つかったわけではないが、いい気分転換になったのは間違いない。
バルパは一つ自己を納得させてから、聖剣をしまいなおす。
そして纏武を使いながら、ここで己同様修行をしているであろう仲間の居場所を探すことにした。




