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魔力如何

 竜の歴史、そして魔法の歴史についての講義は一日もしないうちに終わり、バルパ達はやって来てから二日目には既に、リィの咒法の基礎講義を受けるに至っていた。


 教わる場所は、前日と同じく机と椅子だけ置かれている草原の中にある自然の講義室。

 リィは昨日とは違い、四角形の縁取りをしている眼鏡を着けている。


 前日の講義が終わってから、バルパ達は客人として扱われ、リィが用意していた部屋があてがわれた。

 一人一室という大盤振る舞いだったが、その部屋もまた普通ではない。

 竜達が中で元の姿へ戻ることを考えてか、部屋がとんでもなく大きかったのだ。

 更に魔法障壁が幾重にも張り巡らされているおかげで、中でどれだけ暴れても傷一つつかないおまけつきだ。

 中で修行をしてもビクともしないその出来に、バルパは満足を覚えていた。


 だがどうやら女性陣達は、あまりに広いその部屋に空虚さを感じたらしく、昨日は皆で一緒に一つの部屋で寝たらしい。

 不安を覚えるとのことで、今日からも五人で一つの部屋を使うとのことだ。


 バルパは広く、かつ強力な障壁が張られていたために昨日も寝ずに魔撃の訓練を行っていた。


 ちなみに竜達はほとんど食事を摂らないため、食料は自前で調達する必要があった。

 しかし無限収納を持っているバルパのおかげで困ることもなかったため、問題は何一つ起こらなかった。


 そして朝になり、授業が再び始められる。

 今日からの授業は実践を伴う。

 竜の魔法、咒法へとようやくバルパ達が手を届かせることができるようになるのだ。


「咒法と魔法の違い、それは魔力というものに対する考え方の違いによるものが大きい」


「魔力に対する、考え方の違い?」


「左様。バルパ、君は魔力というものをどのようなものだと考えている?」


 リィが黒板に魔力と書き出した。

 そして強調するために、その周囲にギザギザの吹き出しをつけている。


「魔力は……生き物全てに宿っている、生命力のようなものだろうか」


「半分正解、それは一般的な人間達の魔法の考え方だね。ウィリス君、君たちエルフは魔力についてどういう風に習ったんだい?」


「魔力は……この世界を構成する根幹です。魔力は世界を覆い、あらゆるものが持ち、世界の在り方を変える」


「その通り、魔力とは生き物にだけあるものではない。バルパ君にも覚えがあるだろう? そんなに難しく考える必要はないよ」


 しかめ面をしていたのを見抜かれたバルパは、少し考えてリィが何を言っているかを理解した。


 魔力とは、生き物全てに宿っている力だ。

 しかし生き物以外にも、魔力が込められているものはある。


 聖剣、魔剣、無限収納。

 物体に魔力を込め、新たな力を吹き込むことができるもの。

 魔法の品(マジックアイテム)もまた、魔力を持っている。


 魔力は魔法として、魔撃として使うというイメージが頭に強く残っていたせいで、魔法の品もまた魔力に関連するものであるということが咄嗟に出てこなかった。

 自分の不明を恥じながら、バルパは疑問を抱いた。


 人間は魔法を用いることで、発火や水の生成といった超常現象を引き起こすことが可能だ。 魔物が用いる魔力撃、そしてバルパが用いる魔撃もまたこれと同じ原理で動いている。

 魔力を操ることのできる生物は、魔力を用いて事象を改変する。


 それらを魔法の品に当て嵌めるとするのなら。

 魔法の品が、魔力を用いて事象を改変しているというのだろうか?


 しかし魔法や魔撃と魔法の品とでは、事象改変の度合いが大きく違っている。


 バルパが愛用する聖剣など、その最たるものだろう。

 魔力の増幅、増加などという芸当はどんな魔法でも実現することはできないはずだ。


 魔法の品の方が、魔撃よりも優れている。

 バルパがそう思ったことは、一度や二度ではない。


 彼が以前、魔法の品の能力に頼った戦法を取っていたのは、そういった考え方が根底にあったからだ。


 更に言うのなら魔法の品は、時折まるで生きてはいるかのような反応をする。

 その力はバルパの窮地を、幾度となく救ってきた。


 バルパが用いる聖剣は、彼の心に呼応して真の力を解放した。

 彼がもう一度使用出来るようになった緑砲女王は、バルパの強敵との戦いによって進化した。


 ということはつまり、魔法の品もまた我々同様生きているということなのだろうか?

 たしか、ヴォーネの生まれの村の鍛冶師もそのようなことを言っていたはずだ。


 考えが横道に逸れ始めているたバルパは、リィの言葉にハッと襟首を正す。


 黒板には魔力の横に二つの線が引かれており、片方には魔法、もう片方には魔法の品と書かれている。


 リィは下に書かれている魔法の品という文字を円で囲むと、そのまま魔法に突き刺さるような矢印を描いた。


「咒法っていうのはなんとも大層な名前に聞こえるけどね、実態はそう大したものじゃない。魔法で起こすことが出来ず、魔法の品でしか起こせないような現象。それを強引に起こしてしまうという、ある種の力技なのさ」


「…………そんなことが、本当にできるの?」


 溜めに溜めて放たれたウィリスの一言は、沈黙していた皆の心の声を代弁してくれていた。

 咒法、それは魔法の品の力を生き物が起こすことができるようになるための魔法理論。

 かねてから渇望していた、道具を使わずに戦い抜けるだけの己の強さ。


 その答えは間違いなく、咒法の中にこそあるに違いない。

 バルパはそう、確信を抱くことができた。

次回の更新は12/12日になります

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