生きるために
リィは顔を上げて、ぐるりとバルパ達の顔を見渡した。
彼の講義は、具体的な咒法に関わることなく進んでいく。
しかし誰もそれを、咎めようとはしなかった。
これから口にする内容が、バルパというゴブリンと大きく関わりのあることだというのが、察せたためだ。
「そもそもユニークモンスターというのが一体どういう存在なのか、君たちはそれを知っているかね? では……ミーナ君」
「え、えっと……ユニークモンスターっていうのは魔物の中でも特別な存在のことです。通常の個体と比べると強かったりして、『生命の証』――――つまりは魔法の品なんかを残すことがある」
「そうだね、世間一般で言われるところの説明ではそうだろう。だが正確なところは違う。まずはそれを君たちに教えてあげよう」
リィはどこから取り出したかもわからない、銀色の棒をクルクルと回転させる。
その先には人間の手のようなものがついていて、人差し指がピンと張っていた。
「ユニークモンスターという生き物がなんのためにこの世界に生み出されるようになったか。事実は未だ不明だが、僕なりの答えを教えよう。彼らが、そして君が生まれるようになったその原因は――この星の選択だ」
「星? 星とは夜になれば頭上にきらめいているあれのことか?」
バルパが知る星の情報は、大昔の人間達がその光の羅列に意味を持たせ、星から物語を紡ぎ出したというくらいなものだった。
夜になると自分達を遙か高みから見下ろしている光達。
良くも悪くも彼には、それくらいの知識しかなかった。
ミーナやルル達が知っていることも同様。
彼女達は星の逸話を知ってはいても、それがなんなのかを知らない。
夜になると現れる光源、というのが彼らが想像できる限界だった。
「そうだ。星とは夜に頭越しに輝くものだけじゃない。朝から日が落ちるまで僕たちを照らしてくれる太陽も、そして不規則に落ちては消えていく流星も、そして僕たちが今こうして生きているこの場所もまた、様相こそ違うけれど星なんだ」
「俺達が立っているこの場所が、星……?」
バルパにとって星とは、自分には関係のない、言ってみれば他人事のような話でしかなかった。
そもそも自分がこうして生きているこの場所が、星の上なのだという考えなど持ってはいなかったのだ。
何故なら彼らの足場は、光ってはいない。
星は光るものなのだ、という固定観念のようなものがバルパを捉えていた。
しかし彼の言葉を聞き、リィは大きく頷いた。
それはつまり、バルパの生きているこの場所もまた星の一つだということ。
だからどうしたと言われればそれまでの話ではあるのだが、先ほどのリィの言葉が気にかかる。
星の選択、とは果たして何を意味しているのだろうか。
「星の選択、ということは、俺達がこうして生きているこの星が生きているということなのか? 星というもの自体が、一つの生命体だと?」
バルパは想像力を働かせて考えてみる。
もし、自分が星だったとして。
生きている自分の身体を、見知らぬ者達に土足で踏み潰され、時には壊される。
そんなことをされれば、自分ならば間違いなく報復を考えるだろう。
星が何かを選び取ることができる、ということは星そのものに自我や自由意識のようなものがあることになる。
ユニークモンスターが現れる現象自体が、星により起こされたものだとするのなら―――。
「似たようなものだね。この星は生きている。知識や知性があるかは定かではないけれど」
「俺はこの星によって生み出されたと。それならユニークモンスターが生み出された理由とは一体なんだ?」
「話が早くて助かるよ。君が生まれた理由、それは……」
言葉を止め、リィはジッとバルパを見つめる。
強い意思を持って見返すと、リィはその口の端を歪めた。
そして大きく息を吸ってから鼻から吐き出し、
「この星が僕ら竜や魔物に対抗するために編み出した手段。それが迷宮の、そしてユニークモンスターの正体だと、僕は考えている」
次回更新は11月28日です




