次は……
次回更新は11/21になります。
ディル達はリィの瞬間移動の魔法により、先ほどいた場所とは別の空間に飛ばされた。
そこは緑の広がる草原であり、どういうわけか規則的に机と椅子の配置された場所であった。
青空教室とでも呼ぶには勉強用具の調いすぎたその場所で、バルパ達は着席して前を向いている。
彼らの視線の先、つまり机群の前方には、リィが立っている。
彼は組んでいた腕を解くと、フッと指で何もない空間を撫でた。
するとそこに幻のような白い何かが浮かび上がる。
そこにはバルパ達にもわかる公用語で、『世界の成り立ち』と書かれていた。
「えー、それではまず最初は咒法の成り立ちから説明をしていこうと思う。そのためには竜について学ぶ必要も、もっといえば世界そのものについても説明する必要があるので、少々遠回りになるのは許して欲しい」
「それだと長くなりすぎるような気がするんだが。いきなりその咒法とやらを習うと、何か不都合でもあるのか?」
「別に不都合はないよ。ただ自分達が使うようになる力なんだ、知っておいて損はない。咒法なんて仰々しい名前が付いていることにも理由はある。仕組みを知らずに使うのと、全てを知った上で使うのでは、些細なところに差異が出てくる。案外戦いはそういう、小さな違いで勝敗が動いたりするものさ」
バルパは特に反論が思い浮かばなかったので、黙って姿勢を真っ直ぐに戻した。
そしてハナから竜に文句を垂れるつもりのないミーナ達は、ただハラハラしながらバルパとリィのやりとりを眺めていた。
「こほん、では改めて。君たちはよくここまで辿り着いた。竜の渓谷と君たちが呼ぶこの場所は、恐らくこの世界において、二番目か三番目くらいには重要度の高い場所だ。RPGで例えるのなら、ラスボス戦前のレベル上げスポットといった感じだろうね」
「「「RPG……?」」」
聞き慣れぬ言葉に、ルルやヴォーネ達が首を傾げる。
リィはそれを見て嬉しそうな顔をするばかりで、その正体がなんなのかを教えてはくれなかった。
「幼体とは言えど真竜を退け、この世界の根幹に関わる勇者システムに関与できたユニークモンスター。これだけ要素が重なっているのなら、彼の率いる一団である君たちにはある程度、この世界の真実を教えても罰は当たるまい」
「世界の真実とは、魔力を放出して魔法を放つだとか、迷宮の中に稀にユニークモンスターが湧くと言った、当たり前とされることに理由があるということだろうか?」
「この世に理由なきものなど存在しない、全ては必然で……などと、煙に巻くことは止めようか。いかにも、それらには理由がある。バルパ、君が生まれてきたことには確かな理由があるんだ。言ってしまえば君が自我を持ち、意思を手に入れ、こうして誰かと行動を共にしているというのは、偶然ではない。幾つもの幸運が重なったのは間違いないが、君が今の君になることができたのは、君ではない『何か』の関与があったからだ」
「そんなことない! ……と思います。だってバルパは今まで、自分の力で色々な物を手に入れてきた。それがバルパの力のおかげじゃないだなんて、そんなはずがないと思います」
「確かにその通り。僕は今まで、君以外に何体もゴブリンのユニークモンスターを見たことがあるよ。或るものはゴブリンを率い、人間を滅ぼそうとした。また或るものは何かを為すこともできぬまま、飢えと渇きに耐えきれず死んでいった。君は特例だ。恐らく全てのユニークモンスターの中で、君が最も特異な存在だろう」
「特例だから、勇者の力を俺が受け継いだのか?」
「さて、そればかりはなんとも。迷宮っていうものは、竜の管轄外の世界だからね。そこでどんなことが為され、どんな結果が生まれたのか、正確なところは僕たちにも測れないんだ」
自分の力は、何者かによって用意された物なのかもしれない。
そんな事実を突きつけられても、バルパはミーナのように動揺することはなかった。
そもそも今の自分自体が、スウィフトやヴァンスのような、強者によって用意された道を歩んでいるようなものなのだ。
今更自分を定義づけた存在が一人や二人増えたところで、大した問題でもない。
バルパが気になったのは自分を操る存在についてではなく、自分が生まれた意味についての方だった。
正確にはユニークモンスターが生まれる意味、という言い方だったと思うが、それはつまり自分には、今の自分が企図していないような何らかの使命のような物が課せられているということになる。
生まれた意味を誰かに預けるほど、バルパは脆弱な生き物ではない。
だが自分の生に誰かが理由をつけているのなら、それを知りたいと思う好奇心もあった。
もしそれが自分の目的と合致するのなら、自分がこうして生きていられることに敬意を表しこなすこともやぶさかではない。
そして全くの不一致を見るのなら、聞かなかったことにして無視を決め込めばいい。
バルパはこれは面白くなってきたぞ、と思いながらリィの言葉に耳を傾ける。
世界を識る竜であるリィ。
彼から語られる言葉には、今まで開くことを禁じられていた隠し扉をこじ開けたときのような、得も言われぬ何かがあった――――。




