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教師

次回の更新は11/7日になります。

 しばらくしてからバルパ達が下ろされた場所は、周囲と比べて一回りほど大きな浮島だった。

 中央には一本の塔が立っており、それを囲むような形で土地があるような形をしている。

 まるでこの場所が、塔を建てるために誂えられたかのようだった。


 中心に近付いているということなのか、周りを覆っていた靄は明らかに薄くなっている。

 ようやく周りの様子がしっかりと見えるようになり、そして足下にも頭の上にも雲があるのがはっきりと見えるようになった。


 自分達が居る場所が今まで生きてきた場所よりも遙かに高い上空だと気付いた皆が、驚き慌てふためきだしたりする一幕もあったが、すぐに落ち着きを取り戻してくれたおかげでパニックになるようなことはなかった。


 ちなみにミーナ達が騒いでいるうちにエナは別れを一言だけ告げ、空を羽ばたいていってしまっている。


 彼女へと礼を告げた、一人冷静だったバルパが意識を集中させているのは、浮島の中央部に立っている一本の塔へ向けてである。


 その高さは、首を上に上げて、上体を反らしてギリギリまで見ても終わりの見えぬほどに高く、てっぺんが見えないほど。


 色は茶色だが、魔力感知で使われている素材に魔力が含まれているのは確認ができている。

 生き物の反応は探知できなかったが、思わず生唾を飲み込んでしまうような圧力が感じられた。

 魔力感知のような力ではなく、バルパの持つ生物的な本能が、この場所にいる竜の危険性を教えてくれていたのだ。


 それはこれから教えを請うことになるであろう者が、命の危機を覚えさせるほどの手練れであるという証である。


 危険から身を守るために、危険な生物から教えを受ける必要がある。


 どちらにせよ身の危険は避けられぬ世の中の不条理さを思いながら、バルパは皆が落ち着くのを待ってから塔の入り口のドアへと手をかけた。




 中へ入ってみると、その広さは想定以上だった。

 空間魔法でも使われているのか、外から見たときと比べると明らかにスペースが大きくなっている。


 外から見た限りでは人が五人も横に並べばぎゅうぎゅうになりそうな大きさにしか見えなかった。

 しかし中は十人の人間が両手を広げても余裕があるだけの大きさがあり、何らかの魔法の作用を感じさせた。


 バルパの予想では中にある螺旋階段を自分達の足で上っていくか、もしくは竜達のための発着場だけが無造作に置かれているだけだと思っていた。


 しかし想像は外れていた、部屋の中にはそのような大がかりなギミックや目立つような者は、何一つとして置かれてはいなかったのだ。


「これ、どうやって上ればいいの?」


「や、やっぱり空を飛べとか無理難題をふっかけられるんじゃ……」


「いや、違う」


 他の皆は気付かなかったようだが、バルパは部屋の隅にあるものを見逃してはいなかった。

 部屋の右奥隅、ぼんやりと光るその場所に一つの魔法陣が描かれている。

 恐らくはあそこに飛び込めば、目的の場所に辿り着くことができるような仕掛けになっているのだろう。


「ホントだ、たしかにある」


「しっかり見ないと、認識がぼやける仕組みになってるみたいですね」


「誰かが気付かない限りは、上に上がれない仕組みになっているんだろうな」


 腕を組み、したり顔で説明をするバルパだったが、実は彼自身も最初は目視することができていなかった。


 が、魔力感知を使いそこに何かがあると認識した途端に、それがはっきりとした形になって現れたのだ。

 一度気付けば意識に上るような、特殊な加工が施されているのだろうというのが彼の推測だった。


 仕組みはわからないが、こんな無意味なことをする竜は恐らくあまり性格は良くないだろう。

 わざわざ誰かがこの塔に来る場合、その者の目的は自分達と同様、上にいる一体の竜であるはずだ。

 だというのにわざわざ、気付きにくいような仕掛けを施す必要はない。


 底意地が悪いのか、イタズラ好きなのか。

 どちらにせよ、あまりいいものではないだろう。


 バルパは皆を背に引き連れて、一番先に魔法陣へと足を踏み入れた。


 突然の白い光が、網膜を焼き尽くす。


 彼が視力を回復させ辺りを見渡すと、既にそこは先ほどまで居た場所ではなくなっていた。

「おや、もう来たのかい? ずいぶん早いね」


 声のした方には、一人の老齢の男性が立っていた。

 黄色がかった白い瞳に好奇心の色を滲ませながら、興味深げにバルパを見つめている。


 自分の全てが見透かされるような気味の悪い感覚を味わいながらも、とりあえず粗相があってはならないと、バルパはなんとか挨拶を口から絞り出した。

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