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咒法

 バルパ達はエナと名乗る真竜の背に乗って、空を飛んで行く。


 既に魔力を足場にして空を駆ける技術を手に入れていたバルパであっても、未だ空を飛ぶことはできていない。


 自らができぬことを易々とやってのける竜に感心しつつ、自分の背から聞こえてくるかしましい声を聞いて流れる景色を見つめる。


 人間と同様、竜が集落を作り生活を営んでいるなど全く考えもしていなかった。

 こうして直接に案内を受けなければ、到底信じられなかっただろう。


 一体どこに竜の渓谷が存在するのか。

 空高く、雲を足場にした場所でもあるのか、人類未到の秘境のような場所でもあるのか。


 わくわくしながら向かっていると、竜がその動きを止める。

 バルパは目を一度パチリと閉じ、そして開くと、自分が肩すかしを食らったことを知った。

 急に滞空したかと思うと、次の瞬間にはバルパ達は目的地へと辿り着いてしまっていたからだ。


「わっ、すごい!」


「もう着いたんですね」


 ルルとミーナが、感嘆しながら顔を上げている。

 彼女達は気負いなく竜の背から降りていく。

 覚悟を決めたからか、尻込みした様子はない。


 ウィリス達も気丈にその後に続いたが、足取りはそろりそろりと緩慢だった。

 バルパの前にいるヴォーネは、半泣きになりながら背から降りた。

 どうやらかなり恐いようだが、泣き言を言わないくらいには気合いが入っているようだ。


 自分が関与しないうちに、彼女もまた変わった。

 恐らくは、ウィリス達バルパの連れている仲間達の手によって。


 自分が物事の全てに関われると思うのは傲慢だ。

 しかし、自分の手が届いていない部分で強くなられると、少しばかり寂しさも感じてしまう。

 少し感傷的な気分になりながら、今頃ピリリ達は元気にしているだろうかと物思いに耽っていると、


「悪いね。瞬間移動で飛べるポイント、かなり限られてるからさ」


「問題ない。だがここは一体、どこにあるんだ?」


「それは秘密。知りたいなら生徒から、食客くらいにはならないと」


「了解した」


 最後尾になったバルパは、目の前で思い思いに身体をほぐしている面々に続いて地に足をつける。


 今回のメンバーはミーナ、ルル、ウィリス、ヴォーネの四人だ。

 エルルは魔法を使うことはできない。

 魔法を打ち消してしまう力を持つ彼女には、体内で魔力を練り魔法を使うことが不可能なので、今回はお留守番の形だ。


 バルパはついいつもの癖で、流れるように魔力感知を使う。

 すると、周囲にとんでもない量の強敵の反応が現れた。

 数は百を優に超えている。

 そしてそのどれもが、自分よりも格上。

 数体ほど同格の者もいたが、彼らは恐らく以前戦ったヴァルフェルガースのような幼体の真竜達だろう。


 魔力感知を抜けてくる者の存在も考えると、おぞましいほどの数である。

 これら全てが真竜とするのなら、なるほど集団生活を送っているのが事実なのだと納得もできる。


 そして今更ながら、今周囲を竜達に取り囲まれているという現実がバルパの背筋に寒気を生じさせた。


 今、彼らは死地へ自ら足を踏み入れたようなものだ。

 竜が気分を変えようものなら、たちまち自分達など塵に変えられてしまいかねない。


 やはり自分一人で来るべきだったか。

 若干後悔を覚えながら、竜の背を降りる。


 足下に感じるのは、地面の感触。

 そして目の前には、底の見えない渓谷がある。


 竜が降り立っているのは、バルパ達一行全員が降りても余裕があるくらいの大きさの広場だった。

 魔力の存在を感じることができるので、恐らくは何らかの魔法の品(マジックアイテム)なのだと思われる。


 エレメントドラゴンを十体前後収納できそうな、バルパ達のいる円形の空間の外には、雲と視界を閉ざす霧のようなものが見えている。


 そしてよく目を凝らすと、似たような場所が点々と並んでいるのがわかる。


 宙に浮かぶ幾つかの浮遊島の群れ。

 それが今バルパ達が見ることができる、竜の渓谷の全てであった。


 渓谷は、見ている限りでは見当たらない。

 自分達がいるのは、中でも表層部だからであろうか。 


 バルパが降りると、エナの身体が光り出し、人の形を取る。


 名前から察することはできたが、エナは雌だった。

 竜の時の体色と同じ、青色の髪をなびかせる、闊達そうな女性だ。


 年齢はルルとそう変わらぬ二十前後にしか見えないが、既にその魔法技術の一端を確認しているバルパからすれば、気を抜ける相手ではない。


 以前勇者スウィフトが使い、ヴァンスが巻物スクロールを使って使用した瞬間移動の魔法。

 未だ自分ではどうやって使うのかもわからぬ、未知の魔法の一つを大した発動の準備もなく使ってのけるその技術。

 目の前の竜は自分では届かぬ、魔法の深奥へ立っている存在の一つだ。


 バルパ達は出立の前に、竜言語魔法という言葉も、真竜という言葉も、竜の渓谷においては使うなという注意を受けている。


 真竜ではなくドラゴンと、竜言語魔法ではなく単に魔法、或いはじゅ法と呼ばなければ、竜達の機嫌を損ねる可能性が高いらしい。


 咒法を学べば、自分も瞬間移動の魔法を使うことができるようになるだろうか。


 そして所謂強さの壁を超えた存在である真竜の成体やヴァンスのような者達と、戦えるようになるのだろうか。


 更なる強さを手に入れるため、学び取る。

 その行程は今まで何度も通ってきた道だ。


 バルパはあまり気負わず、しかしいざとなれば手傷ぐらいは負わせてやろうというネガティブな積極性を持ちながら、エナの後へ続くことにした。

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