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安寧

「……と、いうわけだ」



 真竜との会合が終わったのち、バルパは起きたことの次第を全て打ち明けた。

 特に隠すべきこともないので言うことにしたのだが、皆の反応は様々である。


 ミーナは竜達が使う魔法を学べると知って、明らかにテンションが上がっている。

 ルルも隠そうとしているが、喜色が身体から漏れ出しているようだった。

 ウィリスはうだうだと文句をつけているが乗り気なようで、エルルはとりあえずバルパについてくるようだ。


 少し彼が思っていたのと違う反応をしたのは、ヴォーネだった。

 彼女は少し悩み、明らかに乗り気ではない様子だったのだ。

 だが少し考えれば、その反応にも納得がいった。

 彼女はもう、故郷に帰るという一番の目的を達成している。

 これからの生活にも強さは必要とはいえ、きっとヴォーネからすればようやく帰ってきた普通の生活を、しっかりと送っていきたいのだろう。



 強さというのは、安寧を壊しかねない面がある。 

 勇者スウィフトは強すぎたせいで毒殺されたし、ヴァンスも強すぎるせいで色々な制限を受けている。


 バルパ達が鍛え上げたピリリは虫使い達の中ではかなり強くなったが、その弊害に彼女は虫使いの各部族達の連合体の、取り纏めをしなければならないような立ち位置になってしまっている。

 人間達の侵攻が始まっている現状、ヴォーネもまた同様に旗頭になる可能性は十分に考えられることだった。


 バルパが常に戦いの中に身を置いているせいで忘れがちではあるが、ヴォーネという少女は至って普通の、臆病な少女である。

 彼女自身、あまり強くなる気がないというのは、その言動から察せていた。

 最低限自身を守れる程度の力があるだけで、きっとヴォーネには十分なのだ。



 皆がわいわいと話し合いをしているうちに、ヴォーネが立ち上がり、とことこと近づいてきた。

 そして彼の耳元で、断りの言葉を口にする。

 この弱肉強食の世界では珍しいことではあるが、それもまた彼女の選択だ。


 バルパはその選択を尊重しようと、構わないと告げる。

 その言葉に、ヴォーネが明らかにホッとしたような顔をした。



 やはり自分の予想は間違っていなかったか。

 少し残念ながらも頷くバルパの耳に、凜とした声が届く。



「待ちなさい、あんた」



 その声の主は、ウィリスだった。

 彼女は有無を言わさぬ様子で、小さなヴォーネの耳を引っ張る。




「い、痛たっ!?」

「いいから、こっちに来なさい」



 ウィリスは何を思ったのか、怒り心頭な様子で部屋を出て行った。

 右手に、ヴォーネの耳を掴んだままで。



「……一体、どういうことなんだ?」

「まぁ……」

「ねぇ……」



 互いに見つめ合い、何かを察しているらしいミーナとルルが苦笑いをする。

 見覚えのある光景か何かだったのか、二人の表情はなんとも微妙なものだった。



(まぁなんにせよ、明日になればこのドワーフの集落は出ることになる。ヴォーネ以外の皆と一緒に、竜達の住まう場所へ行くことにしよう)



 バルパは伝えたいことだけを伝えて、提供されている家屋を後にした。

 そして彼は朝になるまで、纏武の発動をより滑らかにするための訓練を続けていく。


 一度ドタドタと家の中から大きな物音が聞こえたのだが、バルパは魔力感知を使っただけで中へ入ったりはしなかった。


次回の更新は6月18予定です。

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