竜の祖
「知り合いなのか?」
「ん……あぁ……」
青髪の女の言い方は、バルパには見知った者を見ているように見えた。
女のその態度は、自分の先生であるヴァンスが、スウィフトを見ていた時の様子に似ていたからだ。
「知り合い……まぁ、そうだね。竜は元々祖竜と呼ばれる、一体の竜を元に作られている。竜というのは全員が、家族みたいなものなんだ」
「……それはエレメントドラゴンにも言えることなのか?」
「ああ、違う違う。お前らがいうところの真竜だけだよ。それ以外の奴らは、竜でもなんでもない。言ってしまえば、見た目が似てるそっくりさんって感じさ」
どうやら今まで自分が戦ってきた竜は、厳密に言うと竜ではなかったらしい。
そもそも、一体の竜から様々な真竜が生まれたというのは、一体どういう意味なのだろうか。
竜はスライムのように、分裂して増えていくのだろうか。
真竜がポコポコと増えていく様子を想像して、バルパは一瞬目眩に襲われた。
「そいつは、私が受け取っていいのかい?」
「ああ」
正直な話、一つしかない真竜の死体を渡すのが名残惜しくないはずはない。
だがどう見ても人にしか見えないこの死骸から、装備を作るのは難しいだろう。
仮に作るとするなら、人間の皮にしか見えない竜皮の鎧になるだろうが、そんなものは着たくもない。
命を助けたお礼だと、バルパは割り切ることにしていた。
バルパに了承をもらうと、青い髪の竜が死体へと手をかざした。
すると一瞬で死体が消えてしまった。
自分が持つ無限収納のような能力なのだろうか、とバルパは推測をする。
竜達には竜言語魔法と呼ばれる、人間達とは異なる魔法技術があるらしい。
もしかするとその力を使ったのかもしれないな。
バルパは人間では使えないというその魔法が、自分には使えるのだろうかと、少しだけ興味を覚えた。
「なぁ、あんた……名前は?」
「バルパ、バルパだ」
「そう、バルパ。礼を言うよ、ありがとうね。こいつ……レライがこうして帰ってきたのは、あんたのおかげだ」
「そうか」
「何かして欲しい礼はあるかい? 私ができることなら、なんでもするよ。あんたを見逃すってのは叶えるつもりだから、それ以外でね」
なんと、これほどまでに都合の良いことがあるのだろうか。
バルパは内心でほくそ笑みながら、なんでもない風に尋ねることにした。
「竜が使えるという竜言語魔法を、教わることはできるか?」
「あ? ああ……別にいいよ。教えるの下手だから、私以外の奴に頼むけど」
「俺でも使えるのか? 俺は魔力放出はできるが、魔法自体は使えないんだが」
「そりゃ魔物だものね。結論を言うなら、多分使えると思うよ。一応理論上は、人間だろうが魔物だろうが使える、ということにはなってるらしいからね」
人間も使える、という部分にバルパは強い関心を覚えた。
もしかしたら自分以外、ミーナやルル達は竜言語魔法を扱えるようになるのではないか。
というかもし竜言語魔法が人間に御せる物であるのなら、自分の仲間達に教えれば、彼女たちが自衛をするための力が手に入るのではないか。
考えれば考えるほど、それは良い案に思えてきた。
バルパは少し考える時間を取ってから、自分以外にも数人ほど、教授をお願いしてもいいだろうかと尋ねた。
真竜はそれを、了承してくれた。
バルパは彼女と次の日に落ち合う約束をして、別れた。
帰り際の彼の足取りは、ひどく弾んでいた。




