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家族

「うわあああん、母様あああああ!!」


 先ほどまで死にかけていたはずの真竜が、急に元気を取り戻した。

 ヴァルフェルガースは新たに現れた女性目掛けて、凄まじいスピードで走り出す。


 その動きを牽制しようかと剣の切っ先を上げたが、青髪の女が自分を強く睨んできたので、剣をピタリと制止させた。

 すると女もまた、視線に含まれていた険を解いた。

 もしかしたら彼女は、戦う気はないのかもしれない。


 油断することはせず、バルパはじっとその親子(?)の様子を観察する。




「ヴァル、お前……こんなちんちくりんに負けたのか?」

「だって……強かったんだもおおおおおん!」



 それはバルパからすると、信じられない光景だった。

 一撃をもらえば一瞬で消えてなくなってしまうほどの存在である真竜が、一人の女に抱きついている。


 どこからどう見ても襲われているようにしか見えないが、目を疑いたくなることに、女の方が竜を持ち上げている。


 あれはどこからどうみても、あやしているようにしか見えない。

 先ほどの言葉から考えると、彼女は間違いなく、真竜ヴァルフェルガースの親なのだろう。

 かなり疲労が蓄積されている彼からすると、正直立っているのも厳しい状況ではあるが、バルパは気丈な様子を装いあくまでもまだ戦えるフリをしていた。




「全く……龍のくせにこんなのに負けるなんて、お父さんにどうやって言い訳しようかしら」

「お、お父さんには言わないでッ!」



 自分は何を見せられているのだろう、とバルパは真剣に考え始めていた。

 いつ殺されるかもわからないような状況下で、延々と親子の仲睦まじい会話を聞いているのは、精神衛生上あまりよろしくはない。




「おい、そこのゴブリン」

「……なんだ?」

「よくもやってくれたね、うちの娘を」




 瞬間、ゾッとするような何かがバルパの全身を駆け巡った。

 急ぎ、後ろへと下がろうとする彼の頬に、軽い衝撃が走る。


 自分がビンタを食らったのだと理解したのと同時、彼はバウンドしながら大地を飛び跳ねていった。


 勢いが収まって、地面を数回転ほど転がってから、なんとか立ち上がる。

 不思議なことに、追撃はなかった。



「今のは私の怒りの分だ、安心しな、殺すつもりはないから」

「……そうか」



 自分の生殺与奪を握られていることはわかったが、その程度では最早動じはしない。

 今まで何度も、こんなことはあった。

 そしてその度に、一応は乗り越えてきたのだ。


 とりあえず対話をするつもりがあるらしいということがわかったので、バルパは話してみることにした。



「その子を連れて、どこかへ行ってくれないか。そうすればもう、手出しはしないと誓おう」

「もちろんそうするさ、こいつをもっと鍛え直さなくちゃいけないからね……」

「ひいっ!」



 死闘を演じていたはずの真竜が、まるで泣き虫の少女のように怖がっている。

 その様子を見て、バルパは自分が戦っていたヴァルフェルガースが相当に幼かったのだろうとわかった。

 いくらなんでも自分が戦えるのは変だと思っていたが、その理由がわかってバルパはほっとした。



 先ほどまで全力で殺し合いをしていたとは思えないほどに、今竜とバルパを包んでいる空気は和やかだった。

 バルパとしては真竜と戦えたし、ドワーフ達の問題も解決はできそうだったので問題はない。

 下手に彼女たちを刺激するよりも、大人しくして帰ってもらおうと考えることにした。



「戦わなくていいのなら、俺はもう戻っていいか?」

「そんなのわざわざ…………ん、ちょっと待ちな」



 言われるがままにバルパは、止まった。

 青髪の女の表情が、先ほどまでのにこやかなものから、険のある厳しそうな顔に戻る。

 どうやら何かを疑っていそうな様子だ。



「あんた、私たちの同族の死骸を持ってないかい? 匂いがする」

「……」



 バルパは少し悩んで、彼女が言っている言葉の意味を吟味する。

 同族、というのは恐らく真竜の死骸のことを言っているのだろう。

 無限収納の中に一体しかいない貴重なものではあったが、バルパはそれを素直に出してやることにした。



「こ、こいつはっ――――」


次回の更新は6月3日予定です

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