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勝利の理由



「ふうっ、ふうっ……」


 荒くなった息を吐きながら、なんとか立ったままの姿勢を維持するバルパ。


 状況だけを確認すれば間違いなく自分が勝利している。

 だがバルパは全くといっていいほど、勝った気がしていなかった。


 彼が感じていたのは、違和感である。


 真竜という生き物は、果たしてこれほど弱いものなのだろうか。

 以前自分の先生であるヴァンスは真竜についてこう言っていたことがある。



『今のお前なら、目が合っただけで死ぬだろうな』



 その時のバルパは纏武もなく、聖剣をまともに使うこともできぬ、ひよっこだった。

 緑砲女王も今のように使えなかったことも合わせると、今とは比べものにならぬほどに弱かったのは間違いない。


 だが幾らなんでも、いきなり勝てるほど、自分は強くなったのだろうか。

 確かに真竜よりも一つ格が下がるユニークドラゴンを相手にするのなら、今の自分ならそこまで苦戦せずに勝てる自信がある。



 だが彼は、幾ら何でも真竜相手に腕の一本ももってかれることなく勝てると思えるほど、増長してはいなかった。


 いや、というよりむしろ、ドラゴンという魔物に対して、彼はある種の畏敬のようなものを抱いているのだ。

 彼が初めて戦った強敵も、彼が探索を諦めることになった理由も、修行の相手になったのも、全てがドラゴンだった。


 そんな竜という種の頂点に立つ真竜の実力がこの程度だと、バルパにはどうにも信じられなかったのだ。



 バルパは戦いを終えた今になって、自分に真竜の話をしてくれた、ドワーフのフィルスクの言葉を思い出す。

 彼は真竜が、ヴァルフェスガースと名乗ったと言っていた。


 つまりそれは、目の前にいるこの小さな竜が、ドワーフ達と意思疎通をしたということではないのか。

 ということはもしかすると自分は、会話でなんとかできた可能性を見過ごしていたのではないのだろうか。


 殺し合っておいて今更遅いかもしれないが、一応話しかけてみるか。

 バルパは無限収納インベントリアから翻訳の魔法の品である潮騒を取り出した、



「俺の声が聞こえているか?」

「…………」



 何も返事を返そうとしない真竜を見て、そういえば以前迷宮で倒したユニークドラゴンも、会話ができるだけの知能があるにもかかわらず、自分と対話をしようとはしなかったのを思い出す。


 竜はゴブリンなどと会話などしてたまるかという、気位の高い生き物なのかもしれない。


 それならそれで構わない。

 魔力感知をして目の前の竜が死に体なのはわかっているから、しっかりとトドメをさしてやればいいだろう。


 バルパは聖剣を持ち、相手が最後の抵抗を試みはしないかと警戒しながら、ゆっくりと近づいていく。

 念には念を入れて、指先を切り落としている右側から回るほどに細心の注意を払って。


 バルパの剣が届くほどの距離になって、彼は竜の声を聞いた。


「……痛い」


 どうせ返しても無駄だろうが、このまま殺すのだからと一応答えを返してやることにした。



「安心しろ、すぐに楽にしてやる」

「痛いぃいいいいいい!」



 びたんびたんと、バルパの目の前で、竜が尻尾を振り始めた。

 何をするのかと思いながら観察していると、竜は半泣きになりながらゴロゴロと地面を転がり始めた。



 攻撃の前兆かと思わず腰を下げるが、真竜がバルパに何かをする様子はない。


 ただ痛い痛いとだけ叫びながら、ゴロゴロと転がっているだけである。



 バルパはミーナがだだをこねているときのことを、思い出していた。


(竜もこんな人間くさいことをするのだな)


 少し驚きながら、真竜の姿を見るバルパ。

 彼には目の前にいる魔物が、ひどく幼稚に見えた。



 ……いや、もしかするとこの真竜は、幼生なのか?



 バルパはようやく、得心がいった。

 自分が戦ったのは、まだそこまで老練ではない、年若い真竜だったのだ、と。


 バルパからすれば、自分よりも強い魔物というのは貴重な存在だ。

 ということはこいつよりも強い竜は存在するということだな、と彼は将来を思い破顔する。


「ととさまー、かあさまー」



 両親を呼んでいるらしい真竜を見て、少し気の毒にはなるが、バルパは前に進んだ。

 たとえこの竜に両親がいようといまいと、それは手を緩める理由にはならない。



 バルパは竜の心臓の大体の位置にあたりをつけ、剣を大きく振り上げた。




「ウチのヴァルに、何手ぇ出そうとしてんだい!」


 思わず手を止め、声の方を向く。


 バルパは決して油断してはいなかった。

 いつ新手が来ても大丈夫なよう、魔力感知も発動させていた。


 声がやってきた方向に、魔力反応はない。

 つまりこの声の主は、自分の魔力感知をすり抜けられるということだ。

 そして今の言葉から察するに……と、バルパは戦々恐々としながら、後ろを振り向く。



 青色の髪をした女性が、今にもこちらに飛びかかりそうな顔で、バルパの方を睨んでいた。 

 こいつはまさか……ヴァルフェルガースの、親か?


 バルパは疲労困憊な状況を確認し、彼我の絶望的な戦力差を悟った。


 だが、諦める気は毛頭ない。

 せめて最後までは足掻いてやると、バルパは回復し始めた魔力を、再び循環させ始めた。



読んでくださりありがとうございます。

次回の更新は、5月31日の予定です。



面白かった!

次の更新待ってる!


と少しでも思ってくれたら、↓にある★★★★を押して応援してくれると、やる気が出ます!

お手数ですが、よろしくお願いいたします!

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