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纏腕


「シッ!」


 強く眩い輝きを放つ聖剣の突きが、ドラゴンの喉元目掛けて放たれる。 

 竜はそれを避けようと、攻撃が当たる箇所をズラすために前に出る。

 それによりバルパの攻撃は失敗し、ドラゴンに対しわずかな刀傷を与えるに留まる。

 それが先ほどまでの二人の関係だった。

 だがそれは今この時を以て、一変した。



Ruuuuuuuuuuu!?


 真竜が前に動こうとするのよりも速く、バルパの攻撃が彼の竜の喉元にまで届く。

 今までは通らなかったはずの攻撃が己の身を傷つけたことに対し、竜が驚きながら大きく後ろに下がる。

 彼の持つ緑の盾、緑砲女王ブルトップが脈動しながら、魔力を放出している。


 盾から出た緑色の魔力は、まるでへばりつくヘドロのようにバルパの肉体を覆い、離れない。

 目で見ることすら出来るようになった濃密な魔力が、真竜の視界に映る。



 バルパは、かつてないほど自分に力が満ちていることに気付いた。

 戦いの最中、自分の様子を省みることすら難しかった先ほどまでと比べると、大きな変化である。


 緑砲女王が得た、相手の魔力を取り込み還元する力。その力がバルパへと魔力を供給し、元あった魔力と共に聖剣によって増幅される。

 己の肉体にありったけの魔力を注いでも、魔力の総量が減っている感じがまるでしない。

 それどころか、全身から魔力が今にも溢れてしまいそうな感覚すらあった。


 聖属性の纏武をよりしっかりと行うために、バルパは相手が自分を観察し、対策を立てていることを承知の上で魔力を循環させていく。

 そして纏武が切れるのと同時、今までは後のことを考えてできなかったような無茶をしようと決意した。 

 纏武に己の魔力をほとんど全て注ごうと決めたのだ。



 真竜ヴァルフェルガースは、バルパが戦闘の準備を整えるのをじっと待つかのように動かない。

 それならば、と今までの傷を治すために無限収納インベントリアからポーションを取り出して飲み干しても相手は動こうとはしない。




 こちらの出方を窺っている? 

 少しばかり違和感を覚えるものの、ここで決めきらなければいつかは押し負ける。

 緑砲女王の力、そして聖剣の力、これらの力にバルパの身体がいつまでついていけるのかがわからない以上、短期決戦を行うしか勝ち筋は残されていない。




 バルパは敢えて大回りに、ドラゴンへと接近する。

 自分の最大速度と相手の反応を観察し、次の行動へとつなげるために。





 右には聖剣を、そして左手には緑砲女王を持ち、ドラゴンの周囲をクルクルと回る。

 そして、回転する際の半径を徐々に小さくすることで、じわじわと接近していく。




 真竜を観察するが、何故か動き出す様子はない。

 ドラゴンならばブレス攻撃を連続して使用することも、竜言語魔法による多数の魔力放出の同時行使も可能なはずだ。

 とすれば、向こうもまた、こちらと同様何かを狙っていることになる。



 考えられるのは、バルパがやっているのと同じように、己の身体能力や運動性能を極限まで上げるために、使える魔力や魔力循環のリソースを吐いていることだろうか。

 残念ながら、バルパと真竜では、生物としての格が違う。




 幾ら聖剣によって増幅され、緑砲女王により相手の魔力を吸収し、自分の力に変えたとしても、なお両者の間に広がる魔力量の差は、そう簡単には埋めづらい。



 それならば、相手が準備を仕切る、つまり強力な一撃を放てるようになる前に、攻撃をするしかない。

 己の聖属性纏武と、聖剣の増幅、緑砲女王の吸収を加味した動きの大体の感覚は掴めた。

 完全にとは言いがたいが、相手の後の先を取り、有利な状況を確定させなければ、勝機は薄い。

 バルパは先ほどまでのような円軌道を取りやめ、一瞬だけ溜めを作ってから、ヴァルフェルガースへと突貫を敢行する。




 竜もまた、座して待つことはしなかった。 

 バルパの視線の先で、竜が己の肉体の周囲に、幾重もの魔方陣を展開させるのがわかった。 魔力感知を用いて確認すると、そのどれもが相当に強力な魔力を秘めている。




 物理攻撃の減衰か、あるいは魔力を用いた防御なのか。

 その詳細なところはわからなかったが、相手が何か策を講じてきたところで、バルパのすることは変わらない。




 ぐんぐんと近づいてくる両者の距離。


 バルパは瞬間のインパクトを最大限にするために、ギリギリまで近づいてから、魔力の循環を開始することにした。

 魔力による仕切りを作り、腕単体で魔力循環を行う。

 基本的に複数属性でしか使っていなかった纏の技術だったが、恐らく今の最適解は、聖属性纏を纏武に重ねがけすることだという確信が、バルパにはあった。




 腕に循環させた魔力を、変質させる。


 聖剣により増幅されたエネルギーが、腕の中で暴風のように暴れ狂いながら、徐々にその在り方を変えていく。

 バルパの魔物由来の無色透明な魔力が、白く、荘厳で、冒しがたい聖属性へと変質する。

 そしてそれを放出する寸前で、止める。



 魔力を通す道である魔力管本来の働きに逆らい、魔力を逆流させる。

 その際、バルパの周囲を満たしている濃密な魔力が、まるで母親の胎内に帰還する赤子のように、ごく自然に、彼の中へと入っていった。



 変質され、属性変化した魔力を己の身に纏い、運動性能を飛躍的に上昇させる技術、纏武。

 そして纏武を、魔力の仕切りにより分けて、身体の一部に発動させる纏。

 この両方に、緑砲女王による吸収され、増幅され、変換された、真竜の魔力が上乗せされた形になる。




(俺だけの力では、お前に致命傷を、与えられないのなら――――お前自身の力ならば、どうだっ!!)





「纏腕、虚聖!」


 己の右手に、聖属性を纏わせる。


 緑色のゴブリンの肉体に、似つかわしくない白く荘厳な魔力が、その腕力を、一時的に、爆発させる。


 バルパは聖剣を握る力を強め、しっかりと身体の奥深くまで一撃をねじ込めるように、己の身体を少しだけ丸めて前傾姿勢を取った。




 対する真竜も、多重に展開した物理障壁と魔法障壁、そしていくつもの強化魔法を発動させる。

 そしてまるで人間の指先のようにしなやかな四つの指のうちの一つを突き出し、その長い竜爪で、バルパの聖剣に撃ち合おうとした。



 刹那の後に、互いの攻撃がぶつかり合う。


 交差は一瞬であり、次の瞬間には、両者の距離は、先ほど互い目掛けて疾走する前よりも、ずっと離れていた。



 互いが全力の一撃を放ち、しばし沈黙が生じた。


 故にストンと何かが落ちる音が、やけにバルパの耳に残った。






 落ちたのは、真竜ヴァルフェルガースが彼を迎撃した、指そのものであった。


 ぐらりと、小ぶりな竜の姿が揺れる。

 そしてその自重にしては随分と小さな音で、真竜は地面へと、倒れ伏した。

次回の更新は5月28日です。

 

読み切りを書きました。

面白いと思うので、ぜひ読んでみてください!

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