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緑砲女王

 それはいつも無意識下のうちに考えていた、自分にできることは一体なんなのだろうかと。

 ……否、その言い方は正しくない。

 それに意思はない、赦されたのはただかつての自分、ユニークモンスターだったことの自分の残斯と、未だ残る僅かばかりの本能に従いじっと待つことのみであった。

 それは決して死してはいない、純粋な生とは異なってはいても、その武具は未だに確かな鼓動を現世うつしよへと届けていた。

 こいねがうこともなく、座して己の運命を待つでなく……その盾は脈動を繰り返しながら、かつての自分が強く願っていたとある本能に突き動かされていた。


 強く、より強く。そして美しく、何よりも美しく。

 その二つが緑砲女王ブルトップとして新たな生を受ける前、緑鬼王グリンドが抱いていた衝動の全てだった。

 己に歯向かうものには死を。そして己の身には、真っ赤な真っ赤な鮮血を。

 

 血が、生命の命脈の源流である血液こそがもっとも美しい。

 そんな狂気を伴う本能の残斯は、緑砲女王に確かな形として現れていた。


 今の彼の盾は、とある戦闘を経てその見てくれを大きく変じさせていた。

 それはドラゴンによる、魔法とブレス攻撃を受け続けたからこその変化。

 己の主を……否、ひいては己の勝利のためにその盾は自らの肉体をも変質させて攻撃を凌ぎ続けた。

 だが、結果として緑砲女王は数多の血をその身に浴びることはなかった。バルパが習得した技能、纏武との相性が著しく悪かったために。緑砲女王はバルパの持つ無限収納インベントリアへ入ることしか出来ずにいた、あらゆる魔力を吸い込み増幅してしまうというその特性が故に。


 ユニークモンスターを用いて作られた武器というものは生きている。

 それは正鵠を得てはいないが、間違ってもいない。

 ユニークモンスターの素材を用いられて作られた武装には生前の意思が、本能が反映される。だがそれだけではないのだ。

 武器として用いられる中で、彼らは自らを武器と認識し始める。

 そして己の本能と武器としての自分、その使用者との間で揺れ動きながら己を決めるのだ。

 緑砲女王は自らの持ち手を握るごつごつとした手の感触を感じた。自らの持ち主が自分に対して信頼を寄せていることを、彼女は一瞬にして察知する。

 自分が持ち主たるバルパの魔力を吸い込んでいるのは気付いていた、だが彼女にはそれをどうすることも出来なかった。

 久しぶりに会った持ち主が自分の知らぬ新たな力を手に入れ戦っている、そしてそれを歯噛みしながら見ていることしか出来ない。その状況は彼女に著しく不安を与えた。そしてその戦闘の過程が彼女の身体を作り変える上での礎となる。


 自分に出来ることは魔力を吸い込むこと、そしてその魔力を己の能力で増幅させ叩き込むこと。だがそれではバルパと共に並び立つには不十分である。

 それならばどうすればよいか。手本にするべきは現状戦いながらバルパが右手に持っている剣が参考になるだろう。

 あの剣はバルパの持っている魔力を増幅させ、彼の力へと変える。己の進化のリソースを使えば似たような力を手に入れることは出来るかもしれない。

 しかし緑砲女王は己の武器としての格が、バルパの使う聖剣よりも劣っていることを誰に言われるともなく理解していた。

 同じことをしていては、ダメだ。それならばどうすればいいのだろう。

 彼女は武器としての最善を尽くそうとし……そして思い付いた。

 そうだ、自分の主は魔力を用いて己を強くする。

 そしてその武器たる剣は主の魔力を増幅させる。

 それならば自分がすべきことは……




 白と黒の渦が一直線にバルパ目掛けて飛んでくる。

 己の能力では相手を殺しきれない、そう理解しているはずだというのにどうしてかバルパの表情は暗くない。

 彼は自分を使え、自分を使えと急かしているとしか思えない盾を目の前に突き出した。

 緑砲女王は普段使いの時より更に大きく、音が出るほどの脈動を繰り返していた。

 以前幾度も食らってきたのとはレベルの違うブレス攻撃の明るさに負けぬほど、その盾は光り輝いていた。

 聖剣が光る時とは違う、見るのも辛いほどの激しく目を焼き付けるような光がバルパと吐き出された光線、そして真竜へと等しく降りかかる。


(さぁ、お前の力を……見せてみろっ‼)


バルパのその内心の答えに呼応してか、緑砲女王が光の奔流の中でその形を変えていく。

彼が身に纏う魔力は白銀、そして右手に握るは聖剣である。だがそんなことは知るかとばかりに緑砲女王はその緑色をより深く、浮き出ている赤い線をより一層どす黒く変色させていく。

 盾の輪郭をなぞるかのように赤黒い線が出たかと思うと、バキバキと音を鳴らしながらより大きく、重く盾は進化していく。

 丸かった盾は周囲に棘を張り巡らせ、湾曲していく。

 まるでバルパに添おうとするかのように、彼の腕に収まるように持ち手ごと己の形を変えていく。



 緑砲女王が出した答えは単純明快。

 自分に出来ること、それは相手の魔力を……バルパの力へと転じさせること。

 己の姿を変え、在り方すら変じさせた緑砲女王が真竜のブレス攻撃と真正面からぶつかり合った。


 バルパは攻撃を受けると同時、自分の体内を流れる魔力の総量が増加していることに気付く。そして緑砲女王が採った進化を瞬時に察知し、彼はニヤリと笑った。

 

(俺も期待には……答えねばなるまいっ‼)


 バルパは己の筋肉を躍動させながら、ブレス攻撃の範囲外へと一気に駆けた。

ゴブリンの勇者の連載は、一ヶ月ほど勘を取り戻す時間をいただきまして、2020年6月21日より再開致します。

文章を書き以前の感覚を取り戻すため、新連載を始めましたので、是非読んでみてください!


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― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しみに読ませてもらっています。 書籍化もされたということですが、最近更新がないのが気になっております。 他の小説よりも読み応えがあり、主人公の成長もこれからますます楽しみになってき…
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