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鼓動

 その身体には寄せては返す白波のような清い白色が薄いヴェールのように伸びている。

 発動の度に魔力が物質として顕現するこの纏武において、バルパは鎧を身に纏うことができない。

 彼が着けていた有り合わせの黒塗り鎧が、一瞬にして弾け飛ぶ。

 そしてその代わりに彼の盾となり鎧となるのは、聖なる気配を帯びた純白の魔力である。

 

 彼が命を賭して戦うと決意したその瞬間に、光は一層輝きを増した。 

 戦意に呼応し、尚武を行うがために腰に携えた聖剣が光り始める。

 

「……」


 口に出す必要がない、舌の上に音を乗せる寸暇さえ惜しい。

 バルパは流れるように、まるでこの世に産声を上げたその瞬間から専念してきたかのような自然な動作で腰に充てた鞘から剣を引き抜いた。

 聖属性の魔力を浴び壊れかけている鞘の内側から、激しい閃光がこぼれ出す。

 まるで新たな生を受けたかのような鮮烈さをもって、今聖剣が再びその身に光を宿す。

 

 光の糸が互いに引かれ合い混ざり合い、剣へと溶け込んでいく。

 そして次の瞬間には、彼がダンとの戦いで作ってしまった傷は跡形もなく消えてしまっていた。

 ……いや、正確な言い方をすれば消えたのではない。

 元あった傷跡の部分には、まるで己の戦功を謳いあげるかのような白い痕が残っている。

 傷を負い、それを修復することで己をよりいっそう高みへと引き上げる。

 聖剣は今、新たに生まれ変わった。

 

この剣には未だ名がない、そして自らの銘をバルパへと明かすこともない。

 ただ彼の剣は今、そこにあった。

 それを固く握りしめるバルパと共に。



 真竜ヴァルフェルガースと向かい合う形になるバルパ。

 その全身を覆うのは纏武天聖森羅、聖属性魔力を体内に留めることにより発動が可能な彼の魔撃である。

 聖剣がその循環する魔力を自らの体内へと流し、それを増幅してバルパへと返す。

 それを自らの糧として、バルパは前へと進んだ。

 

 一瞬のうちに瞬き魔力量を増大させたバルパに対し、真竜は先ほどまでよりも警戒のレベルを一段階引き上げる。

 その身を硬質化させ、障壁を幾重にも張り巡らして防御の構えを取った。

 相手の一撃を、やり方を見てからそれに即応しようとする構え。それは即ち、バルパを敵性体として認めたことを意味している。


「ガアッ‼」


 構えられていることも受け身を取られるであろうことも承知の上で、なおバルパは足を止めなかった。

 彼は大地を強く踏みしめ、そして……聖の魔力のみを纏った状態で空を駆けた。

 その足にスレイブニルの靴は装着していない、バルパは今純粋な魔力的作用のみにより空を蹴っていた。 

 魔力の固定化、そしてそれを踏みしめて空を切ることができるだけの魔力量

 バルパは聖剣の力を借りてではあるが、ようやく己の足で空を踏みしめることに成功したのである。


 吠え、猛りながら彼が一直線に真竜目掛けて突き進んでいく。

 彼の周囲に張り巡らされた木々はなぎ倒され、空気が唸りをあげる。

 自らの周囲にある音を置き去りにし、己の後ろに流れを置いていたバルパの聖剣による突きが放たれる。

 魔力障壁が破られる軽い音と、バルパの発してる野太く擦れた声だけが大気に満ちていく。


 正面を位置取るように展開された障壁を、聖剣が穿つ。

 そしてその度に突きの勢いが減衰され、それを上回る勢いで聖剣による増幅がかかる。


 結果バルパは初速を上回り、己の肉体の限界を超えるだけの速度を伴って……真竜の喉元へ剣を突き立てることに成功した。


 筋肉が断裂し、ぶちぶちと嫌な音が鳴る。そして直後に衝撃が全身を襲い、神経が肉体のアラートを鳴らすためにそれを痛みという形で噴出させた。


 バルパは備えていた真竜もろとも、山を覆うように生い茂る黒い樹木へと飛び込んでいく。

 上下左右も定まらぬ回転の中で、一匹のゴブリンと竜の王が向かい合う。

 互いに身体を接させながら、二体の視線がぶつかった。


「うるあっ‼」

RUruruuu‼


 剣と牙とがぶつかり合い、火花を散らせた。


 不格好な状態で転がっていくバルパ、彼が両手に持つのは聖剣のみである。

 その背中に置かれた、一つの盾。己の主に戦わせるばかりで役に立っていないその赤緑の盾が……一際大きくドクンと脈動した。

 真竜から擦り付けられた赤い血を、その身から迸らせる濃密な魔力を吸い、緑砲女王ブルトップが軋るような音を立てる。

 バルパがその変調に気付くのと同時、盾は彼が身に纏わせていた魔力を全て吸収する。

 真竜の口許にアラベスクのような複雑な紋様を描いた魔法陣が展開される。

 その攻撃が白と黒の渦となって奔るのと、緑砲女王が周囲の光を喰らい始めたのは、奇しくも全く同じタイミングだった。

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