生きてる
まず考えなくてはいけないのは、純粋な出力の問題である。
そしてここで一度自分のできることを整理してみる必要がある。
周囲に人が居らず、人里まで魔撃の音が聞こえなくなるほどの距離を取って森の中へ入ってから実践と特訓をすることにした。
バルパが今使える纒武は大きく分けて四種類。
彼が新たに覚え、未だ名付けを終えていない聖属性纒武、そして火属性灼火業炎、雷属性の神鳴、風属性纒武の疾風である。
そしてそれに身体を最大限に使いこなすための魔撃迅雷は聖属性纏武以外には合わせられるので、自分の全身を強化する使える魔撃の合計は七種類ということになる。
真竜相手の攻防は、全力を出さねばならない。一瞬で消し炭にするほどの能力のある魔物と戦うためには、瞬間的な出力こそが重要である。
よってこの時点でどちらかといえば持続性や、ある程度の出力を維持した状態で戦える純粋な火・雷・風のただの纏武は除外するべきだ。
最初は疾風と合わせ疾風迅雷という形でしか使えなかったが、今ならばもう迅雷を灼火業炎と神鳴と併用することもできるようになっている。
威力よりは速度、強烈な一撃をいれられるためのタメを作る余裕を相手が与えてくれるとは考えない方がいい。
とすればで選ぶならば迅雷と神鳴を組み合わせた纏武轟雷以外にはないだろう。
「少し、試してみるか」
バルパは轟雷を発動させた状態で、立っている樹へ向けて駆け出した。
音を置き去りにして駆けていく推力を足して、一度拳を樹へと突き立てる。
拳は樹を貫通し、衝撃が根をぶちぶちと千切っていく。後ろに繁っている樹をなぎ倒しながら数十歩分ほどの距離を進んだところで、樹木の動きは止まる。
「これに聖剣の増幅効果を考えれば、まだ威力は上がる」
バルパが最近困っていることの一つに、自分が練習をしたり日々の成果を物を相手に試そうとすると環境を壊してしまうことがあった。
今のは聖剣の効果も使わず、そして纏の空紅も使わずに放った一撃だ。にもかかわらず林の一部は地面ごと引っこ抜かれ、焦げてブスブスと音を立てている。
ここでしばらく過ごすことになるのなら、むやみやたらに環境を壊しても面白くない。
いくら壊しても自然に回復するダンジョンを目指す必要があるだろうと考えながら今度は聖属性纏武を発動させ、同様に樹を殴り飛ばす。
すると同じく木が吹っ飛び、衝撃を伴って周囲の木々を薙ぎ倒していった。
やはり速度は轟雷が速い、だがその速度差は若干あるといったラグ程度のものでしかない。
そして威力は……
「聖属性纏武の方が、上だな」
何かが焦げたり燃えたりするようなことはなかったが、バルパが撃ち抜いた木はただただ遠くまで吹っ飛んでいた。
轟雷と比べて木は三割ほど飛距離が長い、特に何か特筆すべき現象が起こる訳ではないが、ただただ強さと速さを両立している。
未だ実践で一度も使っていないということもある、もしかしたら自分が気付かないだけでなんらかの能力が秘められている可能性は十分にある。
そのあたりの検証を、一度真竜の前哨戦に行う必要があるだろう。
バルパは使う纏武を聖属性に決めた、まだのびしろがあるために特に選択にためらう必要はないだろう。
速度的には轟雷が上だが、恐らく迅雷と併用できるようになりさえすれば瞬間的な出力は聖属性纏武が超えるだろう。
となれば次に考えるのはこの纏武と迅雷、そして纏を合わせる方法になるのだが、残念なことにこれ以上の検証はほぼ不可能に近かった。
聖属性纏武は自身の中に変質しかけていた聖属性の魔撃を流し込む形で行われる。
だがバルパ自身がそれほど聖属性魔撃に慣れていないということもあって、その魔力の循環速度が少しばかり遅い。そして魔力菅の場所を取っており、自分の許容できる量いっぱいを使っているという感覚があった。
迅雷を使い後ろから聖属性魔力を押し出すのは、キツキツに魔力が詰まっているために中々難しい。そして身体の一部を分けて考えて纏を行うのは、聖属性魔力の循環に意識を割かねばすぐに消えてしまう関係上難しい。
それを解決してくれるのは聖剣の増幅能力のみである、だが今使えばどうなるかわからないこれを練習に使ってしまう気はない。
理論とイメージをしっかりと固め、そしてぶっつけ本番で自分の新たな力を試す。
ひどく行き当たりばったりなようだが、実際これしか手段がないのだから仕方ない。
「まだしばらくは、付き合ってもらうからな」
腰の聖剣を撫でると、チカッと瞬いたような気がした。
こいつは生きている、ユニークモンスターの説明を聞いてバルパは聖剣もまた自分と同じく生きているのだという思いを強くした。
今までなんとなく感じていたが、やはりこいつもまた何かを求めている。
そしてその何かとは恐らく、強敵との戦い、或いは何かを守ろうと言う強い意志だ。
自分に相応しい剣だ。できれば向こうも自分をそう思ってくれていればいいんだがな。
バルパは纏武を起動させ維持する訓練を続けるため、切れかけた聖属性魔力を再び肉体へと流し込んだ。




