弱者の棘
まず見なくてはいけないのは、今まで自分達の鑑定では見ることのできなかったタイプの装備品だ。
「上位鑑定は使えるか?」
「使えない、だが今の俺にはそれを覚える時間はないだろう。必然鑑定はお前に任せることになると思う」
「それは構わない、だがそうすればお前が手持ち無沙汰になるんじゃないのか?」
「……確かにそうだな、つい上位鑑定を教わる気でいた」
「そんなに時間をかけんのなら、戦いのための何かをした方がいいだろう」
「そうだな」
「当てはあるか? ここらだとそう強い魔物はいないが……っと、その顔を見てる限り大丈夫そうだな」
「ああ、それは問題ない。強くなることに終わりはないからな」
事前に見れない物をかなりの量突っ込んでおいた収納箱を取り出し、フィルスクへと渡す。
盗られるかもしれないという不安はなかった、男と男というものはなんとなく雰囲気と二言三言言葉を交わせば通じ合うものなのである。
まぁ、盗られても取り返せるしなと一応保険をかけるような様子も見せつつ、バルパは鍛冶屋をあとにした。
ミーナ達の居る場所とは逆側、山と平野を隔てている雑木林へとやって来た。
彼女たちは彼女なりに頑張っているはずである、故にわざわざ見に行ったりはしない。
バルパはこの時間をかけてやらねばならぬことをやるだけだと心意気を新たにする。
聖属性纏武は既に会得している。
それをより洗練させるのと、別のことをするべきかどちらがいいのかを考える。
今できる新たな試みはまず聖属性の纏を使えるようになること。そして次にようやく光明が見え始めた光と闇属性、そして少し苦手意識のある炎・雷・風属性以外各種属性の纏武を覚えることである。
やはり戦うのであれば、ある程度以上の勝算が欲しいところである。
本当ならヴァンスのもとへ行き真竜のことを聞くのが最適なのだろうが、真っ正面から教えてくれと言っても必ず鼻をほじりながらヤダと拒否されるのが落ちだろう。
それならばとりあえず今よりも格上、少し前に戦ったダンや今の自分よりも格上であると仮定して挑む必要がある。
それならば苦手を潰すか、より能力を尖らせていくかどちらが適切か。
(……聖属性の纏が先だな、聖剣が戦いの最中に壊れると少々面倒なことになる気がするが)
格上であるならばやはり戦いに必要なのはピーキーな能力、格上相手にでも傷を与えられる力だ。
恐らく突破口は、魔法の品で作れるはず。
相手に呪いの装備を突き入れて弱体化させるか、或いは自分を強引に強化して同レベルにまで持っていくか。どちらにしても決め手を作る必要がある。
できれば一撃で相手を確殺にまで持っていける技があればどうにかなりそうだ。
決め技、あるいは必殺技のようなものが必要かもしれない。
バルパはミーナが使っていた魔法、そして以前ヴァンスが数回だけ使ってみせた技を思い出す。
自分にしかない、自分だけの技。
ルーティーン的な意味でも、自信やメンタル面での意味でもそういうものも必要かもしれない。
「……考えてみるか、俺も」
バルパは格上相手に攻撃を通すための技を何か考えてみるか。
纏の練習をする前に彼は少しだけ考えてみることにした。
バルパの戦闘スタイルは、基本的には脳筋である。
戦ってきて得た経験値で肉体を強くし、魔力でそれをブーストし、聖剣でそれをブーストし、スペック差と気合いで押し切る。
実際問題、バルパの戦いかたはただのゴリ押し。
自分の土俵に相手を引き摺り込めば強いが、搦め手などを使われたりすれば負ける可能性は十分にある。
彼の戦い方には幾つか欠点があるが、今一番直さなくてはいけない部分はやはり根本的なスペック負けした場合に基本的に勝つ術がないという部分である。
例えば自分よりも強い者に純粋なパワー勝負を挑まれた場合、バルパは十中八九負ける。恐らく同じような戦闘スタイルであるヴァンスと戦ったとして今のバルパでは100%勝てない、呪いの武器でその差を詰めることはできても、ああいった純粋なパワー系相手だとどうしても部が悪くなってしまう。
そこをなんとかする術が必要だ。
出来れば格上を刺せる方法が、物に頼らない何かが欲しいところである。
それをなんとかする方法を、どうにかして見つけてみるか。
腰に差してきた聖剣を撫で付けてから、バルパは少しだけ顔の表情筋を弛めた。
そして彼はどうするべきかを考えるために、修行をしながら一心に頭を働かせ続けた。




