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ユニーク

「生きてる? 魔物ならどんなやつだって生きてるだろう、何当たり前のことを言っているんだ」

「ああ違ぇ、もっとこう……なんていうかな、実際的な話よ」


 フィルスクは奥へ行ってから、二つの剣を持ってきた。

 一方は赤く光る宝石のような刀身を持つ長剣、そしてもう一つはオパールのように内側に虹を溜め込んだ短剣だ。


「この二つの違いがわかるか?」

「本質的な部分、という意味でという認識で合っているか?」


 こくんと頷くフィルスクが机に武器を置く。鑑定をしようとすると弾かれた、どちらも上等な逸品であるということだ。

 魔力感知を使うと、相当量の魔力を溜め込んでいることがわかる。

 だが違いは何かと尋ねられても、バルパにはわからない。 

 剣の長さ、や色の違い、そういった揚げ足とりのような違いしか挙げられそうにない。


「わからない、今の俺には」

「ああ、そうだろうな。まぁそんなに気落ちするな、わからないならわかるように訓練刷りゃあいい、やろうと思えば大抵のことはできるようになるもんだ」


 フィルスクは虹色の剣を指差した。


「こいつは迷宮の宝箱から出てきた、普通の剣だ。切れ味もいいしねばりもある。剣速付与や魔力増強の効果もある一級品といって差し支えない名刀だ」


 次に赤の剣を指す。バルパの魔力感知では、どちらかといえばこちらの方が魔力量が少なかった。

 どちらかを選べと言われれば、バルパはきっと虹色の剣を選んだことだろう。 

 だが今の説明を聞いている限り、どうやら彼の予想は外れそうである。

 

「そんでこっちは以前とあるモンスターを討伐した際に生じた命の証明だ。つまりユニークモンスターからできたユニーク装備ってことだな」

「こちらの方がどちらかというと、弱そうだがな」

「ほう、それがわかるんなら見込みはあるな。そうだ、戦う時に使うなら、こっちの虹螢を使った方が強い。だがユニーク装備と通常の装備においてはな、その比較はなんにも参考にならねぇのさ」

「どういう意味だ」


 そっと赤い剣を撫でるフィルスク、するとその行為に応えるかのように一瞬だけ剣が脈動をしたような気がした。


「ユニーク武器、ユニーク装備ってやつはな……生きてるのさ。こいつらは使い手と一緒に成長し、変質し、その姿を変えていく。実はこいつは昔は、何の変哲もない鉄の刀だったんだ」

「……生きているとは、そういうことか」

 

 成長する武器、その言葉を聞いて思い出すのは緑砲女王の変質だ。

 元々風属性の魔力を吸い魔力放出として跳ね返すはずだったこの武器は、レッドカーディナルドラゴンとの戦闘によりただ魔力を吸い込みそれを攻撃力に変換して放つ魔法の品(マジックウェポン)に変わった。

 途中まではかなりお世話になったが、残念ながら魔力を身に纏う纏武を使うようになってからはバルパの能力と喧嘩するようになり、最近は無限収納の中にしまわれていることも多いのである。

 成長する武器、緑砲女王と聖剣はまだまだ成長するということなのだろうか。

 明らかに今の自分でもまだ扱いきれていないこの剣は、まだ高みへと上がっていくことになるのだろうか。


「ということは緑砲女王も、そしてこの剣もまだまだ強くなるという認識でいいのか?」

「ああ、強くなるっていうのはまた違うかもしれんが、少なくとも両方このまま変わらないなんてこたぁないだろうな」

「その方向付けは可能か? 正直なところ俺は今、この盾を使いたいが使えないという事態に陥っている」


 ヴォーネの故郷の人間から、自分を殺せるような者に情報がいく可能性はある。だがそんなものをはね飛ばせるくらい強くなれば問題のない話だ。

 バルパは自分の能力が魔力を主体に戦うものであるという話と、緑砲女王がその魔力を片っ端から吸ってしまって困っているという話をした。


「でも使いたいって、そう思ってるってことだよな?」

「……ああ、こいつがいなければ俺は二回死んでいただろうからな」


 フィルスクが、緑砲女王をそっと撫でた。


「ユニークモンスターっていうのはな、普通の魔物とは違う。こいつらは特殊なんだ。何が特殊なのか、そう聞かれると答えるのは難しいんだが……とにかくこいつらは地に足がついているんだな、これが」


 この世界の武器全てがいとおしいとばかりに、緑砲女王の血管のような赤い筋に触れる。

 久しく使用していなかったからか、その光沢と輝きは以前よりも減じているように感じられる。

 なるほど、これがこの武器が生きているということなのか。

 バルパは盾の今後の活躍に期待せざるをえなくなっていた。ただの鉄剣があそこまでいくのなら、この武器は一体どれほどの怪物盾になるだろう。想像するだけで、気分が高揚してくる。


「それがどういう理由から来てるのか、それは俺にもわからん。もしかしたらこいつらだけが何かしら特別な存在なのかもしれない。ユニークモンスターが将来この世界を支配しちまう可能性だってないとは言えん」

「そんなバカなことが……」


 あるものか、とは言えなかった。

 バルパには確信があったからだ。

 恐らく自分がフィルスクの定義しているユニークモンスターであるということを。

 そして彼は今まで、多くの人間や魔物達の人生を変えてきた。

 もし自分が他者の一生を変えるため、そういう存在として造り出された存在であるのなら……と考えると少し怖くなってくる。

 自分はもしやダンジョンに、なんらかの目的をもって作られたのだろうか。

 バルパは頭を振りその考えを捨て置いた。

 たとえそうだったとしても、何も変わらない。

 たとえ誰かに敷かれたレールがあるのなら、それをぶち壊して己の道を突き通せばいいだけだ。

 バルパはどうすればユニーク装備を成長させることができるのかを聞くために、口を開いた。

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