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生きてる

「ほう、俺に見てもらいたい装備があるって?」


 バルパはミーナ達に自由行動を言い渡し、一人で武器屋にやってきていた。

 この街一番の鍛冶師と名高い名匠フィルスク、彼は頑固で昔気質な御仁らしい。

 それゆえに同伴をつけたりはせず、単身乗り込むことにしたのである。


「ああ、これだ」


 こういう時は下手に御託を並べたりするのではなく、実際に装備を見てもらった方が早い。

 バルパは聖剣と緑砲女王を取り出して、フィルスクの前にあるテーブルへ置いた。

 それを一目見た瞬間に、彼の顔が一気に職人のそれになる。

 やはり、プロというものは見ればわかるものなのだな。バルパは要件だけを言ってしまい、あとは彼の職人としての部分に語りかけることにした。


「修理して欲しい、できるか?」

「……こいつは……なんだ?」


 彼が指し示したのは、欠けの目立つ聖剣であった。

 そのまま聖剣、と説明しては何か問題になってしまうかもしれない。言葉は選ぶ必要があるだろう。


「俺の愛剣と、装備だ」

「そうか……」


 バルパの存在など知らぬとばかりに二つの装備を凝視しているフィルスク。

 ぶつぶつ何か専門用語らしきものを呟いてはいたが、バルパにはその意味はわからなかった。

 しばし待つ時間が続く。先ほどまでぶっきらぼうだった名匠は触らぬようにしながらも、なめ回すように聖剣を見つめ続けていた。



「触っても?」

「構わない」


 何かしらの紋章の描かれている手袋を用い、目を瞑りながら感触を確かめ始めた。

 手触りだけで何かがわかるのだろうかとも思ったが、恐らくは刻印なり紋章なりのなんらかの効果を使い感覚を鋭敏にさせているのだろう。

 再び待つ時間が続く。


「これは……年代は特定不能。素材も不明……ちょい隕鉄は入ってるな。修繕……はこれじゃ無理か。だがユニークなら……進化を促す方法で、いけるか? いや厳しい、それなら補強で……それもキツそうだな」


 ぶつぶつと目を瞑りながら聖剣に触診をしていた手が、今度は緑砲女王へと伸びていく。


「ふむふむ……緑砲女王ブルトップ、ゴブリンのユニークモンスターからできたユニーク装備だな。進化の方向は……ドラゴンになるか。だがここまで混じると、普通のだとちと辛いな。まぁ混ぜればいけないことはなさそうだ、とんだじゃじゃ馬だがな」


 カッと目を開くフィルスク。彼は腕を組んで待っていたバルパの方を見てニヤリと笑った、そこには見下すような素振りは微塵もない。


「やるじゃねぇか、その若さでこんな武器を二つも手に入れるなんて中々できることじゃあないぜ」

「俺の年齢はどうでもいい。直るのかどうか、気になるのはそこだ」

「あー、とりあえずこの緑砲女王の方は直る。俺の手持ちの材料でもいけないことはねぇな」

「緑砲女王、というのか」


 自分が使っていた盾の名を初めて知り、驚くバルパ。

 その様子を見てフィルスクは眉をしかめ、すっくと立ち上がり頭をバチンと叩いた。


「バカ野郎‼ 装備の名前も知らんで使う奴がいるか‼」

「知る手段が無かったのだから、仕方ないだろう」

「それでも知らなくちゃダメだ‼ そんなことをしてたら、装備にそっぽを向かれるようになるぞ‼」

「装備にそっぽも何もないだろう」

「こんのあほんだらっ‼」


 今度はグーで頭を殴られた。兜を着けているのだからダメージ量は向こうの方が多いはずなのだが、フィルスクには痛みを気にしている様子はない。


「お前、もしかして他のユニーク装備を無下にしたりしてるんじゃなかろうなっ⁉」

「さっきも言っていたが、俺にはユニーク装備がなんなのかもわからん」

「こんの……大バカ野郎が‼」


 向こう脛を蹴られると、流石に少し痛かった。この男には痛覚を飛ばす能力でもあるのかと考えながらも、話を聞く態勢を整えることにする。


「お前、そんなことでは武器に愛される使い手になぞ絶対になれんぞ‼ 少なくともここにある二つの武器をまともに使うことなど、できるはずもない」

「ユニーク装備とはユニークモンスターの素材を使った装備、あるいは討伐の際に出てきた命の証明という認識でいいのか?」

「ああ、流石にバカじゃねぇみたいだな。だが世間一般で言われてるユニークモンスターと世間様のいうユニークモンスターには大きなズレがあるってことは知ってるか?」

「知らないな。ダンジョンから出てきた、本来とは異なる魔物がユニークモンスターなのではないのか?」

「違うぜ、ああ違う。ユニークモンスターっていうのはそんな簡単に出てくるもんじゃない。ユニークモンスターと変異種、巨大種、奇行種っていうのは全部別もんだ」

「その違いはどこにある」

「はっ、決まってらぁな」


 フィルスクは緑砲女王をそっと撫でた。


「ユニークモンスターっていうのはな……生きてるんだ、地に足をつけてな」

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