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去来

 結局バルパは自分が見たものの詳細を彼女達に話すことはしなかった。

 自分が見たものを誰かと共有した方が新たな見地が見えてくるのは事実である。

 だが自分が夜通し探してみたものは普通ではなかった。

 旧時代の文明の遺産は、今のバルパ達には想像もできぬほどの代物だ。あれを持っている、それだけで何かまずいことが起きてしまいそうだと、そう直感してしまうほどに。

 使い方もわからないし、あんな謎の物体が本当に空を飛ぶのかどうかはわからない。


 バルパが聞いたところによると、旧時代というのは今から何千年も前の、今と比べるとはるかに豊かだった夢のような時代だったという話であった。

 何千年も昔のこと、というのは逆にいえば数千年ほど前でしかないということでもある。

 彼が思い浮かべるのは一人の少女と、その所属する種族のことである。

 エルフ、永遠に生きているとも言われる彼らのところへ行くことができたのなら、あの飛行機、あるいはまだ見ていたり、見てもわからなかったがらくたにしか見えない諸々の物品のことを教えてもらえることになるかもしれない。


(もしかすると、エルフの里にあるという侵入者を皆殺しにする防衛装置というのは……旧時代の遺産なのかもしれない)


 確かにそう考えれば、エルフなどという格好の餌食になりそうな種族が今もなお存続していられる理由も頷ける。旧時代の、あの飛行機のような物体を自由自在に動かせるのならば、確かに誰一人逃さずに侵入者達を殺し尽くすこともできるだろう。

 だがそう考えてもまだ不思議は残る。だとすれば一体、どうして彼らはその技術を使い攻勢に出ないのだろうか。守勢に回らねばならぬほどに手持ちの物品が少ないのか、それとも何か里の外に出れないような理由があるのか……。


(世界樹から離れられない、そのあたりの事情も関わっているのかもしれない)


 一ヶ所から出られぬ代わり、信じられないほどの力を持っている種族であるエルフ。

 彼らと出会うことになるのはそれほど遠い話ではない。

 ヴォーネを送り届けたら、次はウィリスを帰さなくてはならないのだから。

 そしてそこでバルパの旅のとりあえずの目的は終わる。

 帰る場所のないエルル、ついてくるつもりのルルとミーナ。

 彼女達と歩きながらこの漠然とした、いまいち定まりきらない感情に整理をつけなければならない。

 強くなるのは大事だ、だが強くなってからのことの方がもっと大切だ。

 

 だが今俺がすべきことは、あとのことを悩むことではない。

 足元を掬われぬよう慢心せず、他人の足を掬えるように牙を研ぐことだ。

 バルパは検分をある程度のところで切り上げ、以後は聖・光・闇属性の纏武を実用レベルにまで持っていくことに時間を費やしていった。

 朝日が登ってから夕暮れになるまでは森の中や平原、あるいは山道を行き、空いた時間は自分の修練に当てる。休憩時間を適切に取ってミーナ達と話をしたり、彼女達に物品を与えたり、あるいは自分でも物品の効果を試しながら進んだ。

 ドワーフ達の足は遅いが、バルパとしても今はやるべきことがしっかりと見えているために、それほど急かしたりするようなことはしなかった。

 彼は毎日のように酒を飲んではどんちゃん騒ぎをしている彼らの声を聞き付けた魔物達を討伐し、時たま彼らの酒を少しだけ飲んだりもしながら、時間を潰していった。

 ヴォーネの旦那という扱いになっていたためにやはり彼女との時間が増え、夜になれば同じ部屋で寝るようなことになったりもしたが、もちろんバルパはその時間を有効に使い彼女の集中力が切れない程度に修行をつけてやった。苦笑しながらもヴォーネがそれを嫌がらなかったのは、別れまでの時間が近付いてきていると察してのものだったのかどうか、それはバルパにはわからなかった。

 彼にできることはただ彼女が一人で立ち上がれるだけの何かを掴んでくれるよう祈り、自分にできることをしてやるだけだった。

 自分がもっと器用なら、手に職をつけてやるだとかいったこともできるのだが。

 戦い以外に何か、自分ができることを増やした方がいいのかもしれない。

 そんな風に考えては修行をしていくうち、時はあっという間に流れていった。

 彼らが出発してから二十日ほどの時間が経過すると、ようやく周囲の様子が変わってくるのを感じられるようになった。

 彼らはヴォーネの家族達がいる集落のある鉱山へと、ようやく辿り着くことができたのである。

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