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飛行機

 入ろうと決めたのは良いのだが、一つ問題が生じてしまう。

 一体どこから入れば良いのかが、今のバルパにはわからなかったのだ。

 透明なガラスの向こう側には明らかに生物が暮らしたり、座ったりするための居住環境があったことを示す名残があった。つまり中に入る手段は存在するはずではあるのだ。

 だが船のように明確な入り口があるわけでもないので、正解を引き当てるまでには少しばかり時間がかかった。

 暗い闇の中を無限収納インベントリアから取り出してきた松明で光を灯し探し歩き、ようやく左側の上の方に入り口らしきものがあるのがわかった。一見すると違いがわかりにくくしてあるようで、白塗りのボディからその場所を探すのはなかなかに難しかった。

 なぜこれほどわかりづらくしているのだろう。彼はそんな風に不思議に思い、そして考えた。

 人間が発明するものには、なんらかの理由がある。発明とそれを産み出す閃きというものにはいつだって、ある種の必然というものが存在しているものなのだから。

 もしかすると迷彩、入り口を隠しておき入る場所を悟らせないある種の簡易的な目眩ましなのかもしれない。

 そうとりあえずの答えを出してから、扉を開こうとする。

 が、開かない。取っ手らしきものもなく、つるつるとしていてドアはかなり開きにくかった。

 少し格闘してから諦め、バルパは殴打で強引に扉を凹ませて中へ入った。


「これは…………まるで王族の暮らす、邸宅のようだな」


 中に入ると、幾つもの椅子のどれにもしっかりとした皮が使われているのがわかった。

 ためしに一つ手で触れてみると、ふわふわとしていて低反発な素材を使っていることがわかった。

 どの素材も均質的で、一度二度と見比べてみてもどれにも違いがあるとは思えない。

 全てを画一的にして同じ値段で売る商人達と同じようなものだろうか。

 そう考えてから中を探索し、特に見るべきものがないことに気付く。

 バルパにはこれが飛行機であるということはわかっても、これが魔法的な技術の産物でないために大したことはわからなかった。というかほとんどなにもわからないに等しいと言った方がいいかもしれない。

 これが魔法の品(マジックアイテム)でないことは彼の魔力感知からはっきりとわかる。

 以前は魔法の品であり、時間の経過と共に経年劣化してしまった可能性もあるが、どちらにしろ彼にはお手上げだった。

 入り口付近にあった謎の物体の立ち並ぶ部屋も含めて、今の彼にはわからない。

 これは旧時代、今となってはほとんど歴史的な資料の残っていない時代の産物なのかもしれない。 

 ヴァンスやスースに聞けば、これがどのようにして空を飛ぶのかを教えてもらえるだろうか。

 もしそれを理解できたのなら、自分もスレイブニルの靴を使わずとも空を飛べるようになるだろうか。

 

 ……いや、靴に頼っているせいで忘れがちだが、そろそろ自分は空を浮かんだり虚空を蹴ったりすることができるようになっているのではないだろうか。

 ダンとの対戦のせいで、自分の滞空能力が低いことは致命打になりうるということはわかっている。あれは近接戦闘能力で圧倒し相手に距離を取らせないことに終止していたからこそもぎ取れた勝利である。

 もし相手に自分と同じ白兵戦の能力があったのだとしたら、空の上からの一方的な攻撃にさらされて自分は死んでいただろう。

 無限収納の中を確認していくことも大事だが、せっかく聖属性纏武に目処がついてきたのだし、今度は魔法の品を使わず、実際的な空中戦闘を目指してみるべきかもしれない。

 とりあえず飛行機の外を調べ内部を探検したことでお腹いっぱいになっていた彼は、そんな風にして自分の好きなことを考えて気持ちを切り替えることにした。

 そして朝焼けが空を燃やし始め、森に住む生き物達が鳴いてその生を主張しだしたのを感じてから、バルパは飛行機をしまいそっと元居た場所へと戻っていった。

 自分が見たこの謎の物体のことをいつ彼女達に教えようかと、そんなことを考えながら。

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