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無限収納

 バルパ達はドワーフの数人を引き連れて、旅路を行くことにした。

 彼らは自らを大地の、山の民と呼称しており、バルパが抱える幌の中でじっと待っているということはできないと頑なだった。そのためどうしても旅路は鈍行になりがちで、彼らはゆっくりとした速度でヴォーネの故郷へと向かうことになった。

 

「ねぇ、これはどう?」

「可愛い、けど弱そう」

「そうよね、ちょびっと魔法の威力が上がるだけじゃあ、いくら見栄えが良くてもねぇ……」

 

 バルパは流石に歩きながら酒を飲むようなことはせずに、ミーナ達と一緒に歩いていた。道中もドワーフ達は喉が渇いたと言っては酒を飲み始めるので、彼らと一緒にいてはバルパまで酔ってしまう。

 急ぎの旅ではあるはずのなのだが、どこかゆっくりとした時の流れを感じさせるこの旅路。バルパはこの時間を無限収納にある品々の選定に当てることにした。

 以前はアクセサリーなど着けてもどうせ強敵との戦いですぐに壊れる、それならば何も着けずとも戦えるだけの強さを手に入れた方がいいなどと考えていた彼ではあったが、その考えは少し変わり始めていた。

 確かにミーナ達の戦力強化には十分に役立つ機能を持つものも多いし、使い捨てのアイテムと考えればここぞというときに使うことは理に叶っている。

 というわけでドワーフ達の里を出てからというもの、彼らは日々無限収納から色々な物を出しては検分し、鑑定し、使えるかどうかを考えるという非常に時間のかかる行程を繰り返していた。

 厳密にいえばこれは強さを得るための修行ではなく、借り物の強さを得るための時間の消費ではあるのだが、たまにはこういうのもありだろうと比較的バルパは乗り気だった。最初のうちは。

 彼は今、適当に収納袋に詰め込んだアクセサリーをミーナ達に分け、自分は彼女達から少し外れた場所で一人色々な物品を調べていた。

 ミーナ達も最初のうちはかなり真面目な話ばかりをしていたし、今でも半分ほどは戦闘にしっかりと関連した話をしているのは事実である。だがやはり人間、そう長い時間集中力が持つはずもない。彼女達の話題は自然アクセサリーの効果から見栄えやかわいさといったものへと移り始めていた。そしてそういうキャピキャピとした話が、バルパは大の苦手である。

 俺は硬派な男だぞとばかりに一人物色する彼は、魔力感知で索敵をしながらも色々なものを出しては引っ込めていた。

 彼女達がアクセサリーの検分をするのなら、自分はこれからの生に重要そうなものを調べることにしよう。

 バルパはまだ生きている姿を見たことがない魔物の死骸を取り出しては、戦い方や弱点について考察を重ねた。

 大きな死体を解剖していて離れすぎた時には、纏武で即座に距離を詰めた。

 見たことのない魔物、と調べてみても実に沢山の種類があった。弱いものから明らかに強そうなものまで、実に様々な種類が。

 色々と調べてみてからふと好奇心で、今の自分でも敵わない魔物と念じてみる。すると数十はいる死骸が無限収納インベントリアからリストアップされ、彼の脳内に情報として浸透していく。

 文字が読めるようになった今、彼は魔物の名称をしっかりと認識することが可能だった。

 魔皇帝オルゼキア=ベルゼブブ=トロット、皆塵ダスモキア、蟲王バズワルド。見ただけでおぞ気を感じるような腐敗した肉体を持つ魔物、細胞の一つ一つが根元的な恐怖を呼び起こすような黒みを宿している魔物、見ただけで吐きそうになる神経繊維や体足を持つ異形の虫。

 バルパは一度出してまた動き出したら勝てないと慎重に考え、彼らを情報として見るに止めていた。もし戦うとしたら、どこから狙っていけばいいだろうか。死体の全体図を確認しながら強力な魔物達を見ていたバルパは、一体の魔物に意識を向けた。

 真竜ヴァダルナーマ、未だ彼が戦ったことのないドラゴンの最強種の一画である。

 文字の横には、一人の人間の死骸が横たわっているのがわかった。

 そういえば真竜は人間の格好をすることができるものもいるという話を聞いたことがある。縮尺を変えて近づけてみると、それは一人の男であることがわかった。

 彼は恐らく勇者スウィフトに殺されたのだろう。ヴァンスは以前真竜と勝負がつかなかったと言っていたが、彼の終生のライバルの方はしっかりとトドメを刺せていたようである。

 その死相は、ひどく安らかなものに見える。どこからどう見てもただの人にしか見えず、着ている衣服の異国情緒を除けばただの人間にしか見えない。

 自分は以前、今真竜と戦えば視線だけで殺されるとヴァンスに忠告を受けたことがあった。 

 今の自分なら、どこまで行けるだろうか。そんな風に思ってしまうくらいには、やはり興味を掻き立てられる存在だ。

 一太刀を浴びせるくらいのことならば、できるだろうか。

 そんな風に思いながら、死骸を一通り見終える。この検分や脳内での戦闘シュミレーションだけでも結構な時間がかかっていたが、幸いというかなんというかまだまだ時間は有り余っている。

 どうせなら在庫を全部確認するくらいの勢いで、色々と見てみることにしようか。

 そう考えたバルパは夜警を引き受け、夕食を終えてからミーナ達が寝入るまで待っていた。

 ドワーフの皆も含めしっかりと寝入っていることを確認し、今ならばどんなものが出てきてもそれを見るのが自分一人で済むと安堵する。想像の埒外の反応をされる可能性がある以上、やはり未知の物を色々と取り出す時には一人でやった方がいい。まず最初は一人で、そして大丈夫だとわかってからしっかりと共有すればいい。大丈夫じゃないとわかったときは、しっかりと心の準備をさせてから確認をすればいい。

 バルパは心意気も新たに今まではあまり触れてこなかった装備やアクセサリー、回復用の薬品類以外のものへ目を向けることにした。

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