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今の私にできること

 ルルがミーナから話を聞いていた場所から少し離れたところでは、三つの人影があった。

 どんよりムードのエルフ、いつもより少しむっつりしている少女、それを見て宥めようとしている一人のドワーフ。


「やっぱり、やる気出ない……」


 手から小さな土の塊を出してはそれを床に出し、魔力がなくなって消えるのを待つ。そんななんの意味もない時間潰しをしているウィリスの目は、少しばかり虚ろである。


「そんな顔してたら、お外出られないよ?」

「いいもん、私もうここで暮らす。幌の中で地面を這って、サナギになって、最後には蝶になるんだ……」

「ネガティブなのかポジティブなのか判断に困るね」


 ヴォーネがウィリスから視線を外し後ろを向く、するとエルルが天井付近に出した水を自分の身体にかけて消してしまうという不毛な遊びをしていたので、それを止めさせる。


「そんなことしてたら、むしろ時間が経つのもっと遅くなると思うよ?」

「……いい、その方が私にとっての罰になる」


 なに言っとるねんあんたは、そんな訛りまじりの突っ込みをいれたくなるをおさえ自分のこめかみを指先で叩くヴォーネ。

 彼女が眉をしかめながら目を瞑っている原因はただ一つ。


(この子達、どんどんめんどくさくなってきてるっ……‼)


 それは自分の手に余る女達を介護することに既に限界を感じ始めていたからである。

 二人とも、とはいってもエルルに関してはそれほど付き合いがあるわけではないが、少なくともヴォーネが出会って頃の二人はこんな風に自由時間を与えられようものならもっと違うことをしていただろう。ウィリスだったらバルパをどうにかして殺す算段を立てようとしたり、もしくはいじいじとしていた自分を意味もなくイビったりしていただろうし、エルルだったら特に何もせずにぼうっと天井を見上げて時間を潰していたことだと思う。

 だが現状はどうだろうか。


「うう…………私、役立たず……」

「…………はぁ……」


 全体的に漂うこの暗い雰囲気、たった一度長期的に離れる期間ができただけでこれほどにふにゃふにゃになってしまうほどに惰弱になった二人。

 この旅を通して少しずつ昔の自分に近づいていき、したたたさを取り戻した自分とは真逆である。

 きっとそれは自分がバルパのことを良い人と思っているだけなのに対し二人が彼のことを心憎からず思っているというこの両者の温度差にあるのだろう。

 

(でもこれでも最初の頃と比べると大分マシになってるんだから、始めの頃のウィリスの酷さったらないよね)


 最初の頃少し気にくわないことをされただけで頬を叩いていた過去の彼女と今の呆然とした彼女を比べ、少しだけ暗い昏い喜びを覚えるヴォーネ。

 いかんいかんと首を振り、気落ちしたまま何もしようとしない二人をどうするべきかと考えてみる。

 見てなさいよ、私だってやってやるんだから‼ そんな言葉を二人から引き出せれば上等だろう。


「ウィリス、あんたはそんなところでうじうじしてていいの?」

「良くないわよ、でもしてもしなくても変わらないなら、こうしてた方が楽なの」

「凡人の発想ね、そんなんだから置いてかれたままなのよ」

「……なんですって?」

「エルル、あんたもそうよ。そうやって地べたで這い回ってる暇があるなら、修行の一つや二つでもしたらどうなの?」


 二人の雰囲気が剣呑になるのがわかった、そしてそれでいいと内心で一人笑う。

 この場所を去ることになることが決まった今、少しくらいは彼女達の役に立つのもありだろう。


「そんなんじゃ、あの二人には追い付けないと思うよ」

「あんたに何がわかるのよ」

「わかんないでよ、そう大したことはね。わかるのはこのままだと多分、あなた達二人はなんの爪痕も残せないまま別れることになるだろうっていうことだけ

「……手を抜いて一緒についていくことすらしないあなたには、言われたくない」

「そうね、でも私はもういなくなるもの。無理してバルパさんについていく必要なんてない。あるいはあの人もそんな風に考えたから、私達に休みを取らせることにしたんじゃないの?」

「そ、それは……」

「……」


 黙りこくる二人を見て心の内側に触れたことを理解し、ヴォーネはそのまま畳み掛けた。

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